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電通推定の日本の広告費を詳しくさぐる(2018年分)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 需要減少中の電話帳、広告費も減少中。(写真:アフロ)

電通は2019年2月に日本の広告費に関する調査報告書「2018年 日本の広告費」を発表した。その内容を基に2018年の広告費の実情を確認する。

まずは2018年の広告費における前年比から、直近の広告費の動向を見ていく。2017年から2018年における広告費の変化を示したものだが、各媒体の広告に関する影響力、クライアントからの評価の変化の度合いがよく分かる結果となっている。

なおインターネット広告費の内部的区切り分けとしての「うち新聞デジタル」など4マス由来のデジタル広告費は2018年分から新設公開された区分のため、2018年時点では前年比は存在しない。

↑ 媒体別広告費(電通推定、前年比)(2018年)
↑ 媒体別広告費(電通推定、前年比)(2018年)

もっとも大きな下げ幅を計上したのは電話帳でマイナス9.5%。次いで雑誌のマイナス9.0%、新聞の7.1%と続く。単純に紙媒体の軟調さ、相対的な影響力の減少に加え、商品の直接的な売りとなるコンテンツのインターネット媒体へのシフトが、広告費のマイナス化に拍車をかけている。

他方展示・映像ほかはプラスを計上しているが、報告書によると訪日観光客の増加や「2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会」に伴う再開発などによる特需的影響がけん引している。特に東京では「国家戦略特区」による都市再生プロジェクトが進行し、デジタルテクノロジーを駆使したアートイベントやeスポーツなどの開催が盛んとなり、その動きが好影響となったようだ。

大きく下げた電話帳は、携帯電話、特にスマートフォンの普及に伴う固定電話の減少をはじめとする環境の劇的な変化に伴い、需要が大きく減少している結果によるもの。昨今では固定電話にすら電話帳機能が内蔵され、電話番号の検索にはインターネットを用いることが当たり前となっている。電話帳の社会的存在意義は確実に縮小しており、当然広告媒体としての価値も減退、出稿量が減れば、広告費も減るのは自然の成り行きではある。報告書では電話帳そのものの特性を活かし、避難所マップや防災の心得などを収録した「防災用別冊版」を同梱して全住戸・全事業所を対象に届ける体制が拡大したことなど、地域と暮らしのメディアへのパラダイムシフトを遂げているとの説明が報告書にはあるが、広告費の売上向上にはつながっていないようだ。

なお前年の反動による影響を考慮し(例えば大きなマイナスは前年で前年比が大きなプラスを計上したことによる反動の可能性がある)、2年前、つまり2016年比を算出しておく。最初のグラフと見比べれば、単なる反動によるマイナスなのか、本質的な問題を抱えた上でのマイナスなのかが分かる。

↑ 媒体別広告費(電通推定、2年前比)(2018年)
↑ 媒体別広告費(電通推定、2年前比)(2018年)

やはり紙媒体の軟調さは本物のようだ。特に電話帳や雑誌の下げ方が著しい。2年間で実に2割に届かんばかりの減少を示している。

続いてこれを前年比では無く、金額ベースで示したのが次のグラフ。

↑ 媒体別広告費(電通推定、億円)(2018年)
↑ 媒体別広告費(電通推定、億円)(2018年)

従来型大手媒体(4マス)、中でもテレビメディアが未だに大きな広告費を占めているのが一目瞭然。個別項目では太刀打ちできず、プロモーションメディア広告費を全部合わせてようやく追い抜くことができる状態。また、インターネット広告費全体がもう少しで追いつくポジションについているのが分かる(地上波テレビに限ればほぼ同額)。

メディア動向として少なくとも広告費の観点では、インターネットが新聞を抜いているのはもちろん、テレビメディアにもほぼ肩を並べている実態を改めて認識させるものである。

■関連記事:

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新聞広告費とインターネット広告費の金額はどちらが上なのか(2018年12月発表版)

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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