定年退職が始まる60代前半、公的年金と就業率との間にはどのような関係があるのだろうか
一般企業の多くでは定年退職の年となる60代前半、公的年金の給付額と就業率との間にはどのような関係があるのだろうか。厚生労働省が2018年3月に発表した、中高年縦断調査(中高年者の生活に関する継続調査)(※)特別報告の結果から確認する。
最初に示すのは60代前半(60~64歳)における就業率を公的年金の給付額別に区分して示したもの。就業内容は問われていないので、昔からの就業を継続している場合もあれば、一度定年退職などで職を辞した後に、軽労働などの別の職についている場合もある。なお、高額給付を受けている人は少数のため、該当属性の結果は統計上のぶれが生じている可能性が高い。
現役で就労しているからなのか、蓄財やその他の収入があるので意図的に受給をしていないのかは不明だが、回答時点で公的年金を受給していない人は9割以上が就業している。他方、受給をしている人でもおおよそ給付額が少ないほど就業率が高い結果が出ている。男性では5万円未満では95.0%だが、35~40万円未満では41.9%と半数を割り込む形となっている。公的年金だけで、あるいは公的年金が加わることで、生活の糧は十分であるとし、就業する必要は無いと判断する人が多いのだろう(もっとも高齢者の就業は収入を得るためだけでなく、社会的意義や他人との交流を求めて行う場合もある)。
男女別では女性の方が就業率は低い。女性は単身世帯のケースが多いのに加え、配偶者がいる場合は配偶者の稼ぎ(と公的年金)で世帯全体の生活が維持できるため、就業による収入で生活を支える必要が無いと判断されることがあるからだろう。
公的年金の受給や就業率は世帯の収支と大きな関係があることから、配偶者のある無しが大きく影響することになる。そこで配偶者のある無しで再集計したのが次のグラフ。
高額受給者の統計上のぶれを別にすれば、受給しない人が一番就業率は高く、受給者においても給付額が低額なほど就業率が高い傾向に変わりは無い。
他方、男性は配偶者がいる方が就業率は高く、女性は配偶者がいない方が就業率が高くなる傾向がある。そして配偶者無しに限れば、男女で傾向だった差異は見出しにくい。夫婦世帯の場合、男性が率先して働き、その時点で世帯が支えられるのなら、女性まで働くことは無いと考えれば道理は通る。言い換えれば、男性の場合は女性の配偶者が働いていない場合が多いため世帯全体の生活を支える必要性が高くなる、女性の場合は男性の配偶者が働いている場合が多いため自分自身も働く必要が無い場合が多いというところだろうか。
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※中高年縦断調査(中高年者の生活に関する継続調査)
団塊の世代を含む全国の中高年者世代の男女に対する追跡調査で、2005年以降毎年1回、同一人物を対象に各種質問が行われている。今回対象となる第11回目で10年分の結果が出そろい、対象者が全員60歳以上となったことから、特別報告の名前で総括的な検証が行われている。第11回目の調査分は2015年11月第1水曜日に郵送調査票の送付と郵送返送方式で実施されたもので、対象者のうち第1回調査から第11回調査に連続して回答している人は2万101人。対象者年齢は第11回調査時点で60~69歳。
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