Yahoo!ニュース

連休中の一部地域の悪天候が痛手…2018年5月景気ウォッチャー調査の実情をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 景気の実情はどうだろうか。街中の動向でも推し量ることはできるが…。(写真:アフロ)

・現状判断DI(※)は前回月比マイナス1.9ポイントの47.1。

・先行き判断DIは前回月比でマイナス0.9ポイントの49.2。

・ゴールデンウィーク中の一部地域での悪天候が景況感にマイナスの影響を与えている。人手不足という実情のとらえ方は立場によりけり。

現状は下落、先行きも下落

内閣府は2018年6月8日付で2018年5月時点における景気動向の調査「景気ウォッチャー調査」(※)の結果を発表した。その内容によれば現状判断DIは前回月比で下落、先行き判断DIも下落した。結果報告書によると基調判断は「緩やかな回復基調が続いているものの、一服感がみられる。先行きについては、人手不足、コストの上昇等に対する懸念もある一方、引き続き受注、設備投資等への期待がみられる」と示された。

2018年5月分の調査結果をまとめると次の通り。

・現状判断DIは前回月比マイナス1.9ポイントの47.1。

 →原数値(季節調整が行われていない素の値)では「やや悪くなっている」「悪くなっている」が増加、「よくなっている」「ややよくなっている」「変わらない」が減少。原数値DIは47.7。

 →詳細項目は「住宅関連」「非製造業」「雇用関連」のみ上昇。「住宅関連」「非製造業」のプラス0.3ポイントが最大の上げ幅。基準値の50.0を超えている詳細項目は「非製造業」「雇用関連」。

・行き判断DIは先回月比でマイナス0.9ポイントの49.2。

 →原数値では「ややよくなる」「やや悪くなる」「悪くなる」が増加、「よくなる」「変わらない」が減少。原数値DIは50.7。

 →詳細項目では「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」のみ上昇。最大の下げ幅は「小売関連」のマイナス2.2ポイント。基準値の50.0を超えている項目は「サービス関連」「雇用関連」。

ここ数年の間に起きた大きな変動要因としては、2016年6月に発生した「イギリスショック」(イギリスのEU離脱に関する国民投票の結果を受けて経済マインドが大きく揺れ動いた)が記憶に新しいが、その影響も和らぎ、持ち直しを見せている。とはいえ原油価格動向をはじめとする海外経済動向、金融市場に対する不安定感への懸念はある。また消費税率の引き上げに関連する形での消費減退の懸念も、消費動向に影響を与えてきそうではある。

↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の現状判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)
↑ 景気の先行き判断DI(全体)

推移グラフを見れば分かる通り、直近の大きな下げ要因となったイギリスショックの急落からは大よそ回復している。

DIの動きの中身

次に、現状・先行きそれぞれのDIについて、その状況を確認していく。まずは現状判断DI。

↑ 景気の現状判断DI(~2018年5月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の現状判断DI(~2018年5月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月の現状判断DIは総計で前回月から1.9ポイントのマイナス、詳細項目では「住宅関連」「非製造業」「雇用関連」以外で下落。下げ幅は最大で2.9ポイント、上昇した項目の最大の上げ幅は0.3ポイントでしか無く、小幅な動きに留まっている。

景気の先行き判断DIは「飲食関連」「サービス関連」「雇用関連」以外の項目で下げ。下げ幅は「小売関連」の2.2ポイントが最大。

↑ 景気の先行き判断DI(~2018年5月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)
↑ 景気の先行き判断DI(~2018年5月)(景気ウォッチャー調査報告書より抜粋)

今回月で基準値を超えている詳細項目は「サービス関連」「雇用関連」のみ。

悪天候地域の下落が目立つ

報告書では現状・先行きそれぞれの景気判断を行うにあたって用いられた、その判断理由の詳細内容「景気判断理由の概況」も全国での統括的な内容、そして各地域ごとに細分化した上で公開している。その中から、世間一般で一番身近な項目となる「全国」に関して、現状と先行きの家計動向に係わる事例を抽出し、その内容についてチェックを入れる。

■現状

・真夏日が続いてエアコンの売行きがよい(家電量販店)。

・住宅フェアなどのイベントには来場者が多く、真剣に購入を検討している客の割合が高い(住宅販売会社)。

・富裕層の高額品購買やインバウンド需要の力強さがあるものの、中間層の購買動向は安定しないままの状況である(百貨店)。

・ゴールデンウィークの悪天候の影響で行楽地の動きが悪く、来客数が大きく減少している(コンビニ)。

・ゴールデンウィークは好調に動いたが、ゴールデンウィーク明けから来客数が前年割れの店舗が増えている(高級レストラン)。

■先行き

・好天が続いていることから、来園者数や売上の伸びも期待できる(テーマパーク)。

・訪日外国人の利用もあり、予約も前年より多くなっている(一般レストラン)。

・化粧品など、継続して好調な商品群もあるが、その他は一進一退で、好転する材料は見つからない(百貨店)。

・乳製品などの値上げがあり、節約志向の客が増える(スーパー)。

今回月では多くの業態で稼ぎどころとなるゴールデンウィークにおいて、東日本ではよい天候に恵まれたものの、西日本や北海道では悪天候に見舞われ、売上に少なからぬ影響を与えたようだ。また、年度替わりの商品価格の引き上げの影響も続いている。

企業関連の景況感では堅調さを示す話がある一方、原材料費や人手不足による人件費の高騰に頭を抱える声が見受けられる。

■現状

・例年ならばゴールデンウィーク明けから閑散期に入るが、今年は取引先から新規提案依頼が多いため、暇にならない。受注件数、金額ともに前年同月比プラスとなり、入札案件も増えている(通信業)。

・受注は順調であるものの、原料価格が高止まり傾向にある。人手不足による人件費の高騰も続いている(プラスチック製品製造業)。

■先行き

・来月より新規モデルチェンジ生産による初期需要が見込める(輸送用機械器具製造業)。

・ドライバー不足の影響と軽油価格上昇によって、利益率が低下している(輸送業)。

・原材料、人件費、物流費の上昇が避けられない状況だが、販売価格に全てのコストアップ分を転嫁できない(食料品製造業)。

原油価格は上昇基調にあることから、燃料費やそれに連動する物流費への懸念が確認できる。人手不足は相変わらずだが、単純に人手が足りないというよりは、コストが上乗せされることへの懸念・不満が多い。

雇用関連では人手不足に関わる多様な意見が見受けられる。

■現状

・正社員への転換や賃金アップなど、従業員の処遇改善に努める企業が増加している(職業安定所)。

■先行き

・前月と比べても、正社員の求人数と求職者数が共に増加している(求人情報誌製作会社)。

今回月の雇用関連のコメントは職業安定所や求人情報誌のような、雇用市場の現場にある企業からの声であり、大いに期待ができる内容となっている。無論、従業員を雇う企業側にとってはコストがこれまで以上にかかることになるため、頭を痛めているところもあるのだろうが。

人手不足はよく聞くところではあるが、この類の話には得てして「現在の雇用市場に合致した対価・条件を提示しているのか」との疑問が付きまとう。今件のコメントでも全国分を確認すると、「人手不足」「人材不足」の文言を多数見受けることができる(現状計26件、先行き計60件、合わせて86件)。ただし全国で景気の先行きに限定して雇用関連の印象を確認すると、良好4件、やや良好34件、不変88件、やや悪い9件、悪い2件となっており、イメージされているほど状況が悪いものでも無いことが統計からはうかがえる。

「働き方改革の影響で、3か月前に比べて仕事に対する時間管理の締め付けがきつくなり、思うようには仕事を受注できない現状となっている」「調整も多く、工場は大変な忙しさである。残業などで対応していたが、働き方改革で対応に苦慮している」とする、これまでの状況がいかに就業者側に大きな負担があったのかを認識できる声も見受けられる。人手不足で受注できない、売上が伸びないとの意見は少なく無いが、果たしてどこまで現状に対応する姿勢を示しているのか、その点までは今調査のコメントから確認できないのは残念ではある。

昨今問題視されている、そして報道では否定的に取り上げられることが多い人手不足だが、雇用市場の需給バランスの正常化、そして適切な労働対価が労働力とやり取りされる状態となるための移行プロセスに過ぎないと考えれば、むしろ肯定的に見るべき問題。現在の社会環境がそのコスト水準を求めており、それに応じたコストの算出ができないのであれば、ビジネスモデルそのものが現状に対応しきれていないか、そろばん勘定の上でどこかゆがみが生じているか、判断を間違っていたまでの話。昔と今とでは環境が異なることを認識すべきには違いない。

■関連記事:

政府への要望の最上位は社会保障、次いで景気対策と高齢社会対策

2016年は2.2人で1人、2065年には? 何人の働き手が高齢者を支えるのかをさぐる

※景気ウォッチャー調査

※DI

内閣府が毎月発表している、毎月月末に調査が行われ、翌月に統計値や各種分析が発表される、日本全体および地域毎の景気動向を的確・迅速に把握するための調査。北海道、東北、北関東、南関東、甲信越、東海、北陸、近畿、中国、四国、九州、沖縄の12地域を対象とし、経済活動の動向を敏感に反映する傾向が強い業種などから2050人を選定し、調査の対象としている。分析と解説には主にDI(diffusion index・景気動向指数。3か月前との比較を用いて指数的に計算される。50%が「悪化」「回復」の境目・基準値で、例えば全員が「(3か月前と比べて)回復している」と答えれば100%、全員が「悪化」と答えれば0%となる。本文中に用いられている値は原則として、季節動向の修正が加えられた季節調整済みの値である)が用いられている。現場の声を反映しているため、市場心理・マインドが確認しやすい統計である。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更を加えたものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

不破雷蔵の最近の記事