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自衛隊の防衛力、今後はどうすべき? 増強3割、今の程度6割、縮小5%足らず

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 自衛隊の装備への関心は高い。では防衛力そのものは…(筆者撮影)

・自衛隊の防衛力について2018年時点では現状維持を望む人は約6割。増強は約3割。

・男女別では男性の方が自衛隊の防衛力について増強を望む人が多い。

・経年推移では増強希望派が漸増。震災以降は大きな増加を示す。

国際社会情勢の変化、兵器技術の向上、近隣周辺諸国の外交姿勢の変貌・圧力の増加などを受け、自衛隊に対する期待はこれまで以上の高まりを見せている。それではその期待の基盤となる防衛力そのものに対する要望は、いかなる状況にあるのだろうか。今回は内閣府が2018年3月に発表した自衛隊・防衛問題に関する定期世論調査(※)の結果報告書から、その実情を確認する。

「全般的に見て」というただし書き付きの上で、自衛隊の防衛力について回答者の意見として「増強」「縮小」「今の程度」のいずれの状態(変化)を望むかを尋ねたところ、「増強」を望む人は29.1%と3割近くに上った。現状維持を望む「今の程度」は約6割で最大多数の回答率。一方「縮小」回答者は4.5%に留まっている。

↑ 自衛隊の防衛力について(2018年)
↑ 自衛隊の防衛力について(2018年)

男女別では男性の方が「増強」を望む声が強い。年齢階層別では意外にも大きな差異は無い。「今の程度」がやや高齢層で少なめだが、これは「分からない」の増加で圧迫されている形。

その「分からない」は女性や60代以上の人で多いが、女性は「判断にいたるだけの情報・知識を習得していない」、60代以上は戦争体験(見聞も含む)のことを考えると判断が付きにくい結果によるものと思われる。いずれにせよ、「縮小」を望む声は少数派には違いない。

これを前回調査となる2015年当時の回答状況と照らし合わせ、その変移を算出したのが次のグラフ。プラス値が大きいほどその意見が増加したことを、マイナスほど減少したことを意味する。ただし年齢階層別でもっとも若い層は前回調査が20代だったのに対し、今回では18-29歳となっており、厳密な変移結果とはならない。

↑ 自衛隊の防衛力について(各回答選択肢、2015年から2018年への変移)
↑ 自衛隊の防衛力について(各回答選択肢、2015年から2018年への変移)

30~40代では「増強」が大きく増え、「今の程度」「縮小」「分からない」が減っている。20代(18~29歳)と70歳以上では「増強」が減り「今の程度」「縮小」が増加。50代では「今の程度」が大きく増えて「増強」「縮小」が減少。それぞれの年齢階層における自衛隊の防衛力に対する思惑の違いがよく表れる結果が出ている。他方、男女別ではほとんど差異が出ていないのは興味深い傾向ではある。

これを経年推移で見ると、2009年にややイレギュラーな動きがあったものの、ほぼ少しずつ「増強」意見が増加、「縮小」意見が減少し、「今の程度」がそのままの値を維持している動向が確認できる。

↑ 自衛隊の防衛力について・回答率推移
↑ 自衛隊の防衛力について・回答率推移

2009年から2012年にかけては「増強」意見が10%ポイント以上も増加しており、これまでの「割合上では縮小派の分が増強派に移行し、現状維持派はほぼ変わらず」の傾向に変化が生じてきた可能性が見て取れる(同時に「今の程度」も減っており、こちらからも増強派にシフトした人がいるのだろう)。さらに2012年から2015年にかけても同じように「縮小派の減少」「増強派の増加」が同時に起きている。

なお設問の原文では「防衛力」「自衛隊は増強・縮小」との表現のみ。「防衛力」(≒戦力)との表現では戦車や戦闘機、護衛艦など「直接の正面戦力」のみをイメージしがちだが、実際には、特に「防衛力」という言葉からは正面戦力だけで無く、各種支援体制、情報・補給システム、整備能力、柔軟性に富んだ「決まり」の整備、果ては各隊員の士気維持・向上のための仕組みまで含まれる。

2012年以降の「増強派」の増加は震災での活躍ぶり、そして昨今の国際情勢を受けてのものであることは容易に想像できる。しかし正面装備だけで無くそれ以外の「普段は目に留まることの無い、自衛隊の『力』の一側面」も防衛力を担う大切な要素であることを認識し、全般的・包括的な観点における「防衛力」の整備を果たして欲しいものである。

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※自衛隊・防衛問題に関する定期世論調査

2018年1月11日から21日にかけて、層化二段無作為抽出法によって選ばれた18歳以上の日本国内に在住する日本国籍を持つ人に対し、調査員による個別面接聴取法で行われたもので、標本数は3000人、有効回答数は1671人。有効回答者の男女構成比は781対890。年齢階層別構成比は18~29歳が133人、30代が175人、40代が271人、50代が265人、60代が361人、70歳以上が466人。

過去の調査もほぼ同様の条件で行われているが、今回調査の2018年は年齢の下限が18歳、前回調査の2015年までは20歳となっている。

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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