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移民問題は39%が懸念を表明…EUの懸念事項をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 移民の増加で関連するトラブルも増えているEUだが…(写真:ロイター/アフロ)

・EU全体の懸念事項としてもっとも多くの人が挙げているのは移民問題、次いでテロ問題。

・移民問題は2016年5月までは懸念増加、以降は少しずつ減少。テロは漸増中。

・ドイツでは移民問題がトップだがフランスでは失業問題。国によってEU全体の懸念事項の認識は異なる。

欧州連合欧州委員会(European Commission)は2018年1月までに、同会が毎年2回定点観測的に行っているEU全体における世論調査「Standard Eurobarometer」(※)の最新版となる第88回分の結果を発表した。それによると、現在EU全体の最大の懸念として挙げられたのは移民問題で、全体の39%が懸念を表明していた。テロ問題、経済状況、公的債務がそれに続いている。

2015年以降外電でたびたび伝えられている通り、欧州諸国の経済問題が最悪期を脱したように見えたことや、中東情勢問題の悪化を受け、EU諸国への移民(難民)問題が大きな社会問題化している。対応しきれない一部の国では国境線の封鎖措置も成され、これに伴う衝突も起きている。

さらに移民(難民)が移民先にたどり着いても地元住民との間での対立も絶えず、文化的衝突も多々生じ、社会的公平性の概念による保護への理不尽さを覚える地元住民の不満の増加も併せ、大きな社会問題の火種となり、物理的衝突が生じている。これに伴い各国の移民・難民問題と多分に連動する形でのテロ事件なども多々生じており、情勢はお世辞にもよいとはいえない。各国国民の心理に与える影響は小さからぬものがある。

このような状況の中で調査対象母集団に対し、EU全体における大きな懸念事項は何かについて、選択肢の中から二つ選んでもらった結果が次のグラフ。変化がよくわかるように、過去4回分も併せ都合5回分の動向をまとめている(順位は直近分の回答値順)。

↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つまで選択)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つまで選択)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つまで選択)(2017年11月)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つまで選択)(2017年11月)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つまで選択)(上位陣の動向)
↑ 現在EU全体における大きな懸念事項は(EU28か国、2つまで選択)(上位陣の動向)

回答個数無制限の複数回答では無いため、それぞれの項目の値は多分に相対的な動きを示すことになるが、経済状況や失業、公的債務といった、数年前までEU全体で問題視され、世界経済にも大きな影響を及ぼしていた問題への懸念は低下。その他経済関連の値も概して鎮静化、つまり強く懸念する状況からは外れつつある。インフレ・物価高の値も漸減している。

それとともに相対的に、あるいは経済的な復興感に引き寄せられる形なのか、移民問題への懸念が急激に上昇していたことが分かる。また同時に、テロ問題への懸念も高まりつつあり、両者の問題の連動性も覚えさせる。単なる犯罪項目にはほとんど変化が無いことから、単純な治安の悪化では無く、対外組織、あるいは国際問題的な事案への不安が感じられる。

ただし2016年5月以降は、移民問題はピークを過ぎ、少しずつだが値を落としている。状況に改善が見られたわけでは無いが、これ以上の悪化の動きも無いため、少しずつ慣れてきたのかもしれない。

他方、テロ問題はやや幅の大きな上下を繰り返しながら、少しずつ値を増やしている。今回は前回よりも減り、移民問題と順位を差し替える形となったが、大きな社会問題として認識されていることに変わりは無い。

移民、テロ問題の懸念の実情は、国単位の動向からもつかみ取れる。陸続きで経済的に豊かだと思われるドイツやイギリスに渡ろうとする移民の増加は、当事国においては大きな問題となっている。類似設問を回答者自身の国に関して尋ねた結果が次のグラフだが、そのドイツやイギリス、ベルギーでは移民問題が高い値を示している。テロが生じたイギリスやフランス、ドイツ、ベルギーではテロへの懸念の値も高め。

↑ 現在回答者自国における大きな懸念事項は(2つまで選択)(2017年11月)
↑ 現在回答者自国における大きな懸念事項は(2つまで選択)(2017年11月)

ドイツでは移民問題がトップだが、それに続くのは教育システム、続いてテロ問題。フランスでは失業問題がトップで、次いでテロ、移民問題が続く。

ギリシャでは失業問題がトップ、次いで経済状況と続いているが、政府負債に対する不安も大きい。移民問題に関する値も18%に達しているが、順位としては4番目に留まっている。

昨今ではドイツの実情を受け、ドイツはもちろん他のEU諸国でも移民への対応が厳しさを増している。それとともに社会的混乱が抑えられるのか、あるいは反発が生じることになるのか、先は読みにくい。一方でイギリスがEUからの離脱に関する脱退プロセスを進めており、今後他のEU諸国とは方向性の異なる国民感情を有し、調査結果として現れる可能性もある。ただし移民やテロの実情を見るに、言葉通り「対岸の火事」とするのは難しそうだ。

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※Standard Eurobarometer

毎年2回、5月と11月に行われており、今回発表分が88回目となる世論調査。直近分は2017年11月5日から19日にかけて直接面談のインタビュー方式でEU加盟国および候補国内において行われたもので、回答者数は合計で3万3193人、EU28か国に限定すると2万8055人。

(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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