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紙媒体は新聞が選挙特需でプラス、ラテは双方マイナス(経産省広告売上動向2017年10月分)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 日常生活に浸透する広告の動向。経産省による直近発表分では?(筆者撮影)

・新聞が総選挙特需で1割超えのプラス。

・雑誌やラテはマイナス。

・インターネットはプラスを継続。

新聞・雑誌はマイナス継続、電波媒体はテレビがマイナスに

経済産業省が先日発表した「特定サービス産業動態統計調査」の結果によれば、2017年10月分の日本全体の広告業全体における売上高は前年同月比でプラス3.0%となり、増加傾向にあることが分かった。主要業務種類5部門(4マスとも呼ばれる4大従来型メディアである新聞・雑誌・ラジオ・テレビと、新形態の広告媒体となるインターネット広告)では雑誌、テレビ、ラジオはマイナス、新聞とインターネット広告はプラスを示した。下げた部門では雑誌が一番下げ幅は大きく、マイナス7.8%を計上している。

↑ 4大従来型メディアとインターネット広告の広告費前年同月比(2017年9月~2017年10月)
↑ 4大従来型メディアとインターネット広告の広告費前年同月比(2017年9月~2017年10月)

今件グラフの各値は前年同月比を示したもので金額そのものでは無い。また前月分からの動きが確認しやすいよう、2017年9月分データと並列してグラフ化している。

ここしばらくは軟調が続いている4マス(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)だが、紙媒体は今月では久々に新聞がプラス10.5%と大幅なプラスを計上した。前年同月における前年同月比はマイナス7.2%だったことから、反動の域も超えている。この時期に何があったのかを思い返すと、2度に渡る大型台風の上陸と、衆議院議員総選挙が挙げられる。台風で新聞の広告需要が増加することは考えにくく、今回の大幅プラスはまず間違い無く、選挙特需によるものだろう。

他方ラテと呼ばれるテレビとラジオは、今月では前月に続き双方ともマイナス。ラテには選挙特需は発生しなかったようだ。

2015年以降4マスは大よそ不調な状態が続いている。ラジオとテレビは2016年に入ってから復調の動きに転じているが、紙媒体の新聞と雑誌は大よそマイナスを計上中で、今月の2017年10月分に至っても、2015年以降でプラスを計上した月は、2015年4月に雑誌が示したプラス2.5%と、今月の2017年10月に新聞が計上したプラス10.5%の2回のみとなっている。2ケタ台の下げ率を見せたのは新聞が5回、雑誌は9回。1年分を超えてもなお前年同月比でマイナス傾向が続いているのは、単なる反動を超えた、中期的な下げの中にあることを意味している。今月の新聞のプラスも選挙特需によるもので、状況の根本からの改善がなされたわけでは無く、来月以降の復調継続は難しいものと考えられる。

↑ 月次における4大従来型メディアとインターネット広告の広告費前年比推移(2014年1月以降)
↑ 月次における4大従来型メディアとインターネット広告の広告費前年比推移(2014年1月以降)

一方、インターネット広告は前月に続きプラスを示す形となった。

なお主要業務種類以外の屋外広告など(一般広告)の動向は次の通り。

↑ 屋外広告などの広告費・前年同月比(2017年10月)
↑ 屋外広告などの広告費・前年同月比(2017年10月)

一般広告は大よそ下げ。下げ幅が大きい海外広告は額面は小さいため、全体への影響はほとんど無い。他方、額面としては大きめな「その他」が大きく上げたのが、売上高合計をプラスに押し上げた要因の一つだろう。

新聞とインターネット広告の金額差は約2.02倍

業務種類別の具体的売上高は次の通り(小数点以下は四捨五入しての表記となる)。

↑ 月次広告費(2017年10月、億円)
↑ 月次広告費(2017年10月、億円)

ここ数年で新聞とインターネット広告の金額的な立ち位置は逆転してしまっている。現時点では2014年1月を最後に、毎月の新聞の広告費の金額はインターネット広告の金額を超えておらず、金額面で主要業務種類5部門の上位順位はテレビ・インターネット広告・新聞の順となっている。

↑ 新聞広告・インターネット広告推移(月次、億円、特定サービス産業動態統計調査から)(2010年~)
↑ 新聞広告・インターネット広告推移(月次、億円、特定サービス産業動態統計調査から)(2010年~)

今月では両者の金額差は約306億円。約2.02倍の差がついている。もちろんインターネット広告の方が上。「従来型メディアの紙媒体全体の広告費」は約384億円で、これはインターネット広告費よりも下。つまり今月も前月に続き「インターネット広告の売上高が、大手4マスのうち紙媒体全体の広告費を上回った」ことになる。今月では新聞が選挙特需で大きく伸びたが、それでもインターネット広告にはかなわなかった。

次のグラフは主要業務種類5部門、そして広告費総計(主要業務種類5部門以外の広告も含むことに注意)について、公開されているデータを基にした中期的推移を示したもの。今調査でインターネット広告の金額が計上されはじめたのは2007年1月以降なので、それ以降に限定した流れを反映させている。

↑ 月次における4大従来型メディアとインターネット広告の広告費前年比推移(2017年10月分まで)
↑ 月次における4大従来型メディアとインターネット広告の広告費前年比推移(2017年10月分まで)

雑誌と新聞の折れ線がグラフ中では「0%」よりも下側に位置する機会が多い。これは金額が継続的に減っていることを意味する。前年同月と比べてマイナスの値が続けば、金額は漸減していくのは道理ではある。そして効果が上がらない、広告力(世間一般に働きかけられる影響力。メディア力)の無いメディアに広告費を継続して大量投入することは、少なくとも広告の直接対価によるものとしては考えにくく、雑誌・新聞の広告力が漸減していると広告主からは判断されているようだ。

昨今の動向を見返すと、やや起伏は大きいもののインターネット広告が確実に上昇の流れ(プラス領域)にあり、他の業種との間に差が生じているのが把握できる。また2015年に入ってから4マスの不調さが際立ち、現在に至るまで紙媒体では継続しているのも気になる(それゆえに今月の新聞の選挙特需によるプラス化はひときわ目立つ形となっている)。2014年同月からの反動でも無く、広告市場における何らかの動きが生じている可能性は否定できない。

他方、インターネットも2017年以降伸び率がやや頭打ちになっているのも目に留まる。無論プラス圏で、しかも大よそプラス10%前後を維持しているので、大きな成長を続けていることに変わりは無いのだが。

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(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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