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専門家による施政制度「テクノクラシー」が自国にとって是か非か、世界の人たちはどのように思っているのか

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 専門家が直接施政をする仕組みへの感想は?(写真:アフロ)

議員や住民全体では無く、各方面の(選挙などで選ばれてはいない)専門家・技術者が施政を行う社会統治の仕組みを、直接民主主義制度と呼ぶ。これについて、人々はどのような感想をいだいているのだろうか。米国の民間調査会社Pew Research Centerが2017年10月16日に発表した調査報告書「Globally, Broad Support for Representative and Direct Democracy」(※)を基に、その実情を確認する。

次に示すのはテクノクラシーについて、回答者の国での導入について、よいことであるか、悪いことであるかを尋ねた結果(導入の度合いは設問上では記されていない。仕組みそのものの是非を問われている)。肯定派は青系統、否定派を赤系統で着色している。

↑ 選挙によって選ばれた者では無い専門家が国にとって最適な選択をすることにより施政を行うテクノクラシーは自国にとってよい仕組みか悪い仕組みか(2017年春)
↑ 選挙によって選ばれた者では無い専門家が国にとって最適な選択をすることにより施政を行うテクノクラシーは自国にとってよい仕組みか悪い仕組みか(2017年春)

報告書では詳しい値は公開されていないが、中央値としては49%が肯定派(「とてもよい」+「よい」)で、48%が否定派(「悪い」+「とても悪い」)だとしてる。

ヨーロッパと北米では否定派が多い。しかしながらハンガリーは肯定派が68%を占めており、特異な値を示している。同国では鉱山資源が豊富で、戦後に社会主義体制下で工業が推し進められ、冷戦後に資本主義に転じてからも工業中心の経済が成長を続けていることから、専門家への信頼が厚い結果によるものかもしれない。

アジア地域では北米やヨーロッパと比べるとやや高め。唯一オーストリアで否定派の方が多い結果が出ている。アフリカや南米では賛否両論やや肯定派が多い感はある。中でもナイジェリアでは肯定派が6割を超えている。他方ブラジルでは肯定派は約3割でしかなく、北米やヨーロッパよりも低いほど。

報告書では一部属性の傾向について伝えている。

・先進国の若年層は肯定派が多い。米国では18~29歳の46%は肯定派だが、50歳以上は36%。

・18~29歳の肯定派と50歳以上の肯定派の差異(18~29歳の方が多い)が、オーストラリアでは19%ポイント、日本では18%ポイント、イギリスでは14%ポイント、スウェーデンやカナダでは13%ポイント。

先進国の若年層は専門家への純粋な信頼感が強いのかもしれない。

報告書ではテクノクラシーに関する詳細な解説はなく、単純に施政の仕組みとしての一概念を提示したのみ。実際に専門家といっても玉石混交なのが実情に違いなく、同じ専門分野でも考え方に大きな違いがあり、単に専門家ならば最適の施策を導き出すとは限らない。

またその専門家自身にとってはベストの選択肢でも、その専門分野、さらには国全体にとっては悪しき選択である可能性も否定できない(「技術の暴走」がよい例)。その上、どの専門家を施政に関与させるかを誰が決めるのか、その決定者が国の施政を間接的に決めることになるため、実質的には独裁制に近い形となりかねない(「専門家が決定した」という無敵カードを手に入れたことになる)。

SFの描写で見られる「全知全能をうたうコンピューターに支配された未来社会」が、ある意味究極のテクノクラシーなのだが、それは果たして望ましい社会の姿なのだろうか。また、報告書では解説の最初に「最近『専門家』と呼ばれる人たちの言及の意義に疑問の目が向けられている」と記されていることも付け加えておこう。

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※Globally, Broad Support for Representative and Direct Democracy

世界38か国に対して2017年2月から4月においてほぼ同時に実施されたもので、各国の調査対象母集団数は、RDD方式などで選択された18歳以上を対象とする各国約1000人ずつ。調査方法は対面調査や電話インタビュー形式。それぞれの国の国勢調査の結果を元に年齢や性別、学歴、地域などの各属性によるウェイトバックが行われている。

(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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