乳児の死亡率の実情をさぐる
経済の良さや公衆衛生、医療技術の進歩など、社会全体にとって弱者が過ごしやすいか否かを推し量る物差しの一つとなるのが、体力が十分でない幼い子供がどれだけ生存できるかの割合。日本におけるその実情を、厚生労働省が定期的に調査・結果の発表を行っている人口動態統計の公開値をもとに、乳児(生後1年未満)の死亡率の変移から確認する。
2017年9月に発表された人口動態統計(確定数)の最新値となる2016年分によると、2016年における乳児死亡率は2.0(対1000人比)。そして実際の死亡数は1928人。世界的に見ても低い値を示しているものの、わずか半世紀強ほど前(1960年)では、日本でも1年で6万8801人が亡くなり、死亡率も39.8と高い値だった。乳児死亡率は地域・社会全体の保険水準・生活水準を指し示す指標の一つであり、環境が大いに改善されたことが分かる。
衛生面・経済面での生活環境改善がさらに理解できるのが、次の死因数に関する値。戦後間もなくにおいては肺炎、そして腸炎などの感染症疾患を起因するものが多く、1960年ですら肺炎のみで年間1万人以上の乳児が亡くなっている。
かつては最大死亡原因だった肺炎、そして腸炎などの感染症疾患も医学の進歩や各種環境の向上でその数を大きく減らし、それらによる乳児の死亡件数はこの数年ではそれぞれ年間2ケタ台にまで減少している(腸管感染症にいたっては直近年の2016年では9人と1ケタ台)。その他の要因も数的には減っているが、その減り方は肺炎などと比べると緩やかであり、相対的に全体比率は上昇している。しかし環境整備・良好化は続いており、各死因数による件数も少しずつ減っている。
なお2011年では不慮の事故の件数・全体比がそれぞれ前年から2倍近くに跳ね上がっている(2010年が113人だったのに対し2011年は199人)。これは言うまでも無く同年に発生した東日本大地震・震災によるもの。震災の影響は乳児の死因にも影を落としている。
わらべ歌の「通りゃんせ」のフレーズにある「七つのお祝いに お札を納めに参ります」は、かつては乳幼児の死亡率が高く、7歳まで生き伸びることが今と比べて難しいため、無事に成長してその歳まで生きながらえたことを祝う儀式を表している、とする解釈がある。日本でもほんの数十年前までは、上記グラフにあるような値を示す状況にあった事実を知ると共に、昨今の環境整備・各方面の努力によって現状が支えられていることを、改めて認識しなければならない。
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(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。