大学卒業生の就職率76.1%…大学生の就職状況などをさぐる
今やブランド化の傾向もある大学だが、その大学の卒業者の就業の実情はどれほどのものだろうか。文部科学省が毎年実施している全数調査「学校基本調査」の公開結果値を基に確認する。
直近となる2017年度においては、同年3月の大学卒業者のうち、正規・非正規雇用を問わず就職した人は76.1%。大学院や専修学校、海外の学校への入学など進学をした人は11.9%。一時的な仕事に就いた人は1.6%、進学も就職もしていない人(就職浪人や資格取得のための勉強、花嫁修行や結婚による専業主婦化など)は7.8%となっている。
そのうち「就職した人」の中で「非正規就業(フルタイムの契約社員、派遣社員)」に該当する人、一時的な仕事に就いた人(パート、アルバイト)、進学も就職もしていない人(進学準備中、就職準備中、家事手伝い、ボランティアなど)を合わせて、「安定的な雇用に就いていない人」の率を算出すると、2017年3月度では全卒業者のうち12.6%となる。この値は「学校基本調査」で2012年3月度分から新たに算出されたものだが(それ以前は「非正規就業(フルタイムの契約社員、派遣社員)」の値が計上されていない)、試算当初の22.9%から直近の12.6%へと大いに低減している。非正規就業に就く理由は人それぞれだが、その立場が正規就業と比べて低評価のものと見た場合、大学卒業者の雇用状況は改善されていることになる。
これらの値のうち主要なものを抽出し、前世紀末からの推移を見たのが次の折れ線グラフ。「安定的な雇用に就いていない人」の動向も別途グラフ化する。
今世紀に入ってからは金融危機直前にピークを迎えた就職率だが、その後急落(むしろ2008年9月のリーマンショックがタイミング的には近い)。これは雇用市場の冷え込みから、大学卒ですら就労先が決まらない、見つかない人が増えたことを意味する。次のグラフでも示すが、「進学も就職もしていない人」の比率がその分増加しているのが分かる。また、就職率の上下とほぼ反する動きとして「一時的な仕事に就いた人」と「進学も就職もしていない人」の合計率は増加する動きを示している。就活(就職活動)をしている、あるいは就活しながら短期的なアルバイトをしている人が増えていると考えれば、この動きは納得がいく。
もっとも2011年3月卒業者あたりから、雇用市場は回復を迎えている気配が見られる。就職率は少しずつ増加。それと共に「一時的な仕事に就いた人」と「進学も就職もしていない人」の合計も減少している。この動きは厚生労働省発表の就職(内定)率推移からも確認できる。
気になるのはそれと同時に「(大学学部から大学院への)進学率」も低迷の動きを示していること。これは大学からさらに大学院に進学しても、就職の上では必ずしも有利とは限らない現状が、大学院などへの進学の魅力を押し下げているものと考えられる。あるいは大学院でさらに深く勉学に励むことと、就職先で生き甲斐などを見つけることへの優先順位・価値観に変化がでてきたのだろうか。実際、就職率の値にこだわって実情を確認すると、大学院の修士課程はともかく、博士課程や専門職学位課程の卒業者における就職率は、単なる大学卒業者よりも低い結果が出ている。
同じ期間の動向について、他の区分も合わせ詳細な比率の推移を見たのが次のグラフ。
前世紀末から今世紀初頭においては、大学卒に占める「進学・就職をしない人」の割合がかなり高かったこと、進学率や就職率も低めだったことが分かる。また2005年あたりから就職か進学のいずれかを選ぶ人の比率が増加し、進学・就職をしない(できない)人の比率が減少傾向にあったこと、直近の金融危機でやや「就職派」が減ったもののここ数年は再び増加、しかし「進学派」は継続して減少している。
少なくとも今世紀に限れば、現状では大学生(学部)の就職率は最高水準にある。それと共に進学や就職をしていない人は漸減を続けており、こちらも今世紀では最低水準に違いない。
金融危機で就職率は10%ポイント近く下落している。これが数年前まで語られていた「大卒でも就職できるとは限らない」との印象を強く与えた主要因と考えられる。しかしその下落した値ですら、前世紀末期から今世紀初頭と比べれば高い値で、世間一般に語られている話について、やや首をかしげたくなるのも事実(無論、就職先の内情まではこのグラフからは判断できないので、その点まで精査すればこの疑問も解消されるのかもしれないが)。
一方2017年3月時点では、大卒者の就職率は金融危機以前の水準を超え、今世紀では最良の値を示している。「大卒でも就職できるとは限らない」的な動きは、今や過去のものとなったのだろう。
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(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。