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パイプライン経由とLNGと…天然ガス輸入量の動向をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ ガスは陸路が可能ならばパイプラインで輸入するのが一番安価に輸入できる(写真:アフロ)

パイプライン経由の輸入トップはドイツ

環境負荷の低さや埋蔵量の多さなどから昨今とみに注目を集めている天然ガス。その輸入の実情を国際石油資本BP社が毎年発行しているエネルギー白書「Statistical Review of World Energy」の公開値を元に確認する。

天然ガスは環境負荷が小さいこと、埋蔵量が石油と比べて多く地域分散していること、そして技術の進歩によってこれまで「採掘困難、採算が取れない」とされてきた「非在来型ガス」(例えばシェールガス…泥岩の一種である頁岩(シェール)に含まれる天然ガス)の多くが採掘可能となり、「確認埋蔵量」(現在の技術で経済的に採掘できる量)が増加していることから、大いに注目を集めている。日本でも他国同様、天然ガスの重要度は年々増加している。なおLNGとはLiquefied Natural Gas、つまり液化天然ガスの略で、天然ガスを運びやすく・貯蔵しやすくするため、凝縮して液化させたもの。

まずはパイプライン経由による、天然ガスの輸入量の上位国を確認する。直近の2016年ではドイツが最大の輸入国となっている。

↑ パイプライン経由による天然ガス輸入量(2012~2016年、億立方メートル)
↑ パイプライン経由による天然ガス輸入量(2012~2016年、億立方メートル)

アメリカ合衆国は天然ガスのほとんどをカナダからパイプライン経由で輸入している。地の利を最大限に活かした輸入である。一方ドイツはロシア連邦・ノルウェー・オランダの3か国からの輸入となる。

この「パイプライン経由」の天然ガス輸入だが、近辺に天然ガスの輸出国を持つ国の場合、その国からの輸入が多くなる。次のグラフはパイプライン経由の輸入第1位・第2位の国、そして西ヨーロッパ諸国全体における、輸入元の内情を見たもの。直上にある通りドイツはロシア連邦・ノルウェー・オランダから分散する形で輸入を受けている一方で、アメリカ合衆国はほぼカナダ一国に頼っている(アメリカ合衆国におけるメキシコからの輸入は端数程度で、グラフ生成の際の計算上割合はゼロとなってしまっている)。

↑ パイプライン経由による天然ガス輸入量(2016年、億立方メートル、ドイツ、輸入元別)
↑ パイプライン経由による天然ガス輸入量(2016年、億立方メートル、ドイツ、輸入元別)
↑ パイプライン経由による天然ガス輸入量(2016年、億立方メートル、アメリカ合衆国、輸入元別)
↑ パイプライン経由による天然ガス輸入量(2016年、億立方メートル、アメリカ合衆国、輸入元別)
↑ パイプライン経由による天然ガス輸入量(2016年、億立方メートル、西ヨーロッパ、輸入元別)
↑ パイプライン経由による天然ガス輸入量(2016年、億立方メートル、西ヨーロッパ、輸入元別)

政治的な対立や政情不安定化に伴う供給途絶リスクを考えた場合、よほど安全で安定した相手でない限り、輸入元は分散した方が良い。その観点で考えると、ガス供給源としてアメリカ合衆国はカナダを全般的に信頼し、ドイツは地の利を活かして複数個所からバランスよく供給を受けていることになる。ただしドイツの場合、ロシア連邦からの輸入比率が大きく、これがウクライナ情勢において、ドイツが外交上色々と苦慮する要因となっているのは、よく見聞きする通りである。この構図はドイツに限らず複数のヨーロッパ諸国でも同様で、西ヨーロッパ全体でも5割近くをロシアに頼る状態となっている。

LNGは日本がダントツ

天然ガスを輸入する場合、ルートにもよるが、一般的にはパイプラインで輸入できるのならその方が安上がりで済む。しかし地理的問題などでそれがかなわない場合、LNGによる輸入となる。次のグラフはLNG化した天然ガスの輸入量で、日本が断トツのトップについている。

↑ LNGによる天然ガス輸入量(2012~2016年、億立方メートル)
↑ LNGによる天然ガス輸入量(2012~2016年、億立方メートル)

次いで多いのは韓国、中国、インドの順。ヨーロッパ諸国の一部で輸入量が減っているが、これはパイプライン経由のガス輸入の増加や、景気動向の関連で需要そのものが減っているのが要因。

アメリカ合衆国が入っていないのが目に留まる。上記にある通り、その輸入量の多くをパイプライン経由でまかなっているのが原因。もっともそのパイプライン経由も漸減している一方で、消費量は増加を示している。自国内で生産できるガスが増加しているため、輸入量を減らせるようになりつつある次第である(多くはシェールガス)。

なお日本の天然ガス(LNG)輸入元だが、これだけ大量のガス(パイプライン経由のドイツ総量より多い)をまかなうため、多種多様な国からのものとなる。無論、リスク分散の観点に寄るところも大きい。

↑ 日本のLNGによる天然ガス輸入量(相手国別、2016年、億立方メートル)
↑ 日本のLNGによる天然ガス輸入量(相手国別、2016年、億立方メートル)

BP社の資料のうちガス輸出入関連のページでは、輸出した側の国が横軸に並んでいるが、その横軸の国に一番多く数字が配されている(=その国から輸入している)のは日本。パイプライン経由とLNGを足した、総合値としての輸入量でも日本がトップについている。

↑ 天然ガス総輸入量上位国(2016年、億立方メートル)
↑ 天然ガス総輸入量上位国(2016年、億立方メートル)

これらのデータから、いかに日本が天然ガスの調達に苦心をしているかをうかがい知ることができよう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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