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半世紀以上にわたるバスやタクシーの初乗り料金の変遷をさぐる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 交通要所ではよく見かけるバスやタクシー。人々の足として欠かせない存在(ペイレスイメージズ/アフロ)

安定推移のバス、上昇続くタクシー

鉄道と共に地域を支える公共インフラ・公的交通機関の代表として知られるバス、そして私営ではあるがより汎用性・柔軟性が高いタクシー。両交通機関は日本社会全体の高齢化や地域の過疎化に伴い、これまで以上に注目を集めつつある。特にバスはコストパフォーマンスの面などで地方の鉄道路線が廃止された後の代替機関として運用されることも多い。今回はこの両交通機関の初乗り運賃(料金)の推移を総務省統計局の「小売物価統計調査」の結果から確認していく。

「小売物価統計調査」においてはバス・タクシー共に1958年から初乗り料金が公開されているので、2016年分までは年次データを、2017年分は月次で最新値を適用する。また両者とも該当期間すべての数字を使えるよう、基準値としてもっともふさわしい東京都23区内の値を用いている(小売物価統計調査では全国平均値は算出されていない)。

ただし2015年からは該当銘柄の調査対象に一部変更が行われている。バスはそのまま最低料金を対象としており変更は無いが、タクシーは初乗り運賃から4キロ走行(昼間)に差し替えられ、連続性が失われてしまった。そこで東京ハイヤー・タクシー協会のタクシー運賃料金表から該当値を抽出する。

また東京都区部と三鷹市、武蔵野市において2017年1月30日以降、タクシーの初乗り料金が「1.052キロまでで410円」に改定された。これまでの「2.000キロまでで730円」とは初乗り分の距離も異なっているが、初乗りには違いないのでグラフにはそのまま計上する。なお旧来の初乗りの距離である2.000キロを新運賃で利用すると、旧来の初乗り料金と同じ730円となる。

↑ 東京都内のバス・タクシー初乗り運賃推移(1958~2017年)(円)
↑ 東京都内のバス・タクシー初乗り運賃推移(1958~2017年)(円)

グラフ中でも説明しているが、1963年から1972年分のバス初乗り運賃のデータは、1キロメートル単位となっている。一方、他の年代は1区、あるいは1回分。そのため該当期間の料金は直前直後と比べると数分の一の値となり、やや見苦しい形になってしまう。1962年と1963年のデータを比較して倍率を算出し、該当期の数字を無理やり合成しても良いのだが、それではあまりにも誤差が大きすぎる。さらに初乗り料金には多分に固定費用が上乗せされており、食品のように「分量から均一化」とは勝手が違うので、この計算方法では具合が悪い。そこで今回はあえてそのまま掲載することにした。また、タクシーの2017年における急落の事情は上記説明の通り。

それらイレギュラーな期間を除けば、バス料金・タクシー料金共に1970年以降は漸次値上げ、1990年代半ば以降はほぼ横ばいの傾向を見せていることが分かる。またバス料金と比べてタクシー料金は上昇額が大きい。

今件グラフではほとんど変化がないように見えるが、2014年4月からの消費税率改定に伴い、2014年はそれぞれ年次で5円・15円の値上がりをしている。2015年以降はバスはそのまま213円を維持、タクシーは2015年に年次で5円引き上げで730円となり、2016年はそのまま、そして2017年は初乗り距離の変更とあわせ、大きく料金が下がる形となっている。

消費者物価を反映させて再計算

バスやタクシーなどの公共・半公共交通機関の場合、単純に金額の移り変わりだけでなく、当時の物価を考慮した上で、その変動を考えた場合が良いとの考えもある。これらの交通網は多くの人が繰り返し使う以上、各家計への負担を考えた場合、単純な価格変動だけでは比較が難しい。

そこで各年のバス料金・タクシー料金に、それぞれの年の消費者物価指数を考慮した係数を用いた上で比較用の値を算出することにした。消費者物価指数の各年の値を参考に、2017年の値をベースとして他の年の料金を計算する。例えば1958年のバス代初乗り料金は86円との値が出ているが、これは「1958年当時の物価が2017年と同じ水準だった場合、バスの初乗り料金は86円になる」次第。

↑ 東京都内のバス・タクシー初乗り運賃推移(1958~2017年)(円)(2017年の値を元に消費者物価指数を考慮)
↑ 東京都内のバス・タクシー初乗り運賃推移(1958~2017年)(円)(2017年の値を元に消費者物価指数を考慮)

料金の上昇時である1970年から1990年半ばにかけては、物価そのものも大きく上昇していることもあり、実質的な負担料金はそれほど大きな変化を見せていないことが、この試算から分かる。特にバス料金は1980年前後からほぼ横ばいを続けており、公共機関としての観点では、優れた料金体制を維持していることになる。一方タクシーはといえば、消費者物価を反映させた上でも、多少ながらも増加を見せている。2017年の急落は距離が縮んでいるためであるが、「初乗り」の概念だけで考えれば大きな値下げには違いない。

普段から利用するバスやタクシーで、何気なく支払っている初乗り料金。それらが半世紀以上の間にどのような推移を見せたかを知れば、ある種の感慨深さを覚えるに違いない。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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