結婚しても職場で旧姓を通称として使い続けたい人は3割強
日本の婚姻では「婚姻状態にある夫婦が同じ名字(姓)を名乗らねばならない」とするのが現行の法令制度。法務省の見解は【選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について】にある通りで、「婚姻制度や家族の在り方と関係する重要な問題である以上、国民の理解のもとに選択的な夫婦別氏制度の導入がなされるべきである」とし、現状では否定的な意見が多分を占めているとの認識を基に、否定的な見解を展開している。それでは戸籍上の名字(姓)が変わった後に、法的には問題の無い通称として、職場で旧姓を使いたいと思う人はどれほどいるだろうか。内閣府が2016年10月に発表した「男女共同参画社会に関する世論調査」(※)から確認していく。
日本の現行法では法的に選択的夫婦別氏、つまり婚姻前の旧姓を婚姻後も引き続き使い続けることは認められていない。一方で、ペンネームのような形で通称として旧姓を用いることは、その環境下で許容されている限り何の問題もない。
それでは回答者自身が仮に結婚して(結婚している人は当然その状況下で)名字が変わった場合、働くときに旧姓を通称として使いたいと思うか否か、その判断を択一で答えてもらった結果が次のグラフ。全体としては3割が使いたい、6割が使いたいとは思わないとの結果となった。
実状としては個人の心境以外に就業環境や職種、さらには就業年数や立場などで大きな差異が生じうるため、あくまでも一般論的な話となるが、通称としても旧姓を使いたい人は3割居ることになる。男女別では男性が4割近くなのに対し、女性は2割強にとどまっている。
また年齢階層別では40代まではほぼ変わらずに4割程度が使いたいとする意見だが、50代以降は希望する人が漸減している。この類の調査では高齢層ほど「分からない」の回答率が高まるのが常だが、今件ではそれが見られないのは注目すべき動き。夫婦の名字に関しては高齢層にも興味のある、こだわりのある話なのかもしれない。
これを回答者の性別と年齢階層別でクロス区切りをした上で見たのが次のグラフ。
男性は若年層よりもむしろ40代から50代にかけての方が希望する人の割合が多くなる。これは回答者自身の考えであることに加え、職場での立ち位置・就業期間を考慮したものも多分にあるのだろう。60代を過ぎると値が下がるのは、社会上の価値観に加え、自らが就業するとしても非正規で就業期間も現役時代と比べて短いことから来るものと考えれば道理は通る。
女性は30代までは上昇し、それ以降はほぼ同じ割合で減少していく。正社員として長期間の就業をする上では旧姓の方が都合がよい場合が多いものの、パートなどで働く場合はさほど影響しないのが要因だと考えられる。
居住地別では都市圏、特に東京都区部における希望率が高く、5割近くに達している。地方に行くほど回答率が下がるのは、古来の慣習の浸透度に加え、年齢階層別の居住者率の差異がそのまま表れているのだろう。
他方、未既婚別では未婚者における希望率が突出して高く、既婚者や死別・離別者の値は低め。特に死別・離別者の値は一段と低くなる。それぞれの立ち位置における新姓の意味を考えれば、理解はできる動きといえよう。
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※男女共同参画社会に関する世論調査
2016年8月25日から9月11日にかけて日本国内の18歳以上で日本国籍を持つ人の中から層化2段無作為抽出法によって選別された人に対し調査員による個別面接聴取法で行われたもので、有効回答数は3059人。男女比は1404対1655、年齢構成比は18~19歳60人、20代251人、30代395人、40代540人、50代466人、60代639人、70歳以上708人。