自転車乗用中の交通事故死者数を年齢別に見ていくと
漸減から横ばいの自転車乗用中の交通事故死亡者数
エコ志向や健康志向、ガソリン代の高騰に伴う自動車の代替手段として、そして震災以降の交通手段におけるリスク分散・保険的手段の確保の観点など多種多様な理由で、自転車への注目は高まりを見せている。昨今では道交法の改正も行われ(2015年6月施行)、さらに自転車専用・優先レーンの整備も加速化している。それと共に自転車が係わる事故、さらにはその事故で不幸にも命を落としてしまう事例への懸念も増すことになる。今回は2017年2月に警察庁が発表した、2016年中の交通死亡事故の状況をまとめた報告書「平成28年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」を元に、年齢階層別の自転車乗用中における交通事故死者数の動向を精査していく。
まずはデータが取得可能な2005年以降における、自転車乗用中の死者数推移(対自動車によるものが多いが、対歩行者・対二輪車・自転車相互・自転車単独までも含めた合計値)。直近年となる2016年分は、該当者の年齢階層別の状況も合わせてグラフ化している。
2005年以降は緩やかながらも確実に減少傾向にあった自転車乗車中の死者数。日本の総人口は漸減しているが、その減り方を大きく上回る形での減少傾向で、明らかに交通法規の順守浸透度合いの改善、啓蒙や規制の強化、さらには医療技術の進歩など、各方面の状況改善による結果が出ていると判断できる。
だが、2012年以降は上下を繰り返しながら緩やかな減少の動きに移行している。これは主に(自転車事故によるリスク体現化率の高い)高齢者人口の増加に伴うもの。直近年でも大部分は高齢層によるもので、55歳以降は急激に人数が増えていることが分かる。一番多いのは70代後半と80代前半で、2016年1年間であわせて172人もの人が自転車乗車中の事故で亡くなっている。
高齢層は自転車乗車中の交通事故死者数の減り方がゆるやか
それではこれを大まかな年齢区分、具体的には未成年(19歳以下)・成年(20~64歳)・高齢層(65歳以上)に仕切り分けし、その動向を確認する。人数そのものの推移に加え、各年の合計に占める比率の推移を合わせて精査する。
高齢層はややもみあいを見せながらも比率の上では増加傾向にある。つまり高齢層の人数そのものが増えていることもあり、他の年齢層と比べて死亡者数の減少率が小さく、結果として死者数全体における比率が増加した形である。2011年を最後に6割を切ることは無くなり、2012年以降は継続して増加中。
一方成年、若年層は人数、比率共に漸減傾向にある。ただし成年は2010年以降は30%を行き来し、横ばいの気配も見せていた。直近では大きく減少し、流れの変化を覚えさせる。未成年者は少しずつながらも確実に減少中。直近年は比率でこそ増加しているが、人数は減少を続けている。
取得可能な最古となる2005年と、直近の2016年との人数を比較すると、未成年者では52%、成年では51%もの減少が見られるが、高齢層では33%の減少に留まっている。各年総数に占める比率が昔と比べ、高齢層において増加してしまうのも仕方がない。
これらは死者数の絶対値の動向だが、次に示すのは各年齢階層における人口10万人当たりの該当数。この数が大きいほど、その年齢階層で自転車乗車中に命を落とす人の割合が高いことになる。例えば20歳前半の2016年における値は0.07とあるので、20歳前半の人が10万人いると、そのうち0.07人が2016年に自転車乗車中に亡くなったことになる。
現時点で値が取得可能な最古のものとなる2005年の分を併記したが、元々数が少ない成年層はあまり変化が無いものの、未成年者のうち14歳までは大きく減少し、環境の整備や啓蒙などが進んでいることがうかがえる。また高齢層も割合としては大きく減っているが、元々の値が大きいことから、減った上でも成年や未成年と比べると大きいのには違いない。
そして高齢層の人数そのものが増加しているのはご承知の通り。従って対10万人比で減少する、環境整備や啓蒙の浸透、医療技術の発展などがなされても、絶対数そのものの減少度合いがゆるやかなまま、そしてさらには横ばいにシフトしてしまう次第ではある
自転車乗車中の交通事故による死者数そのものは減りつつあるが、「自転車事故による搭乗者の死者数の約2/3が高齢者」との現実は否定できない。「自転車に乗らないように」のような強行指導はさすがに不可能だが、自分の体の具合・能力の限界と十分相談しながら、無理のない運転を心掛けてほしい。あるいは自動車免許のように、年に一度の自転車運転講習を義務付けるなどの制度を設けるのも一案だろう。
事故が起きれば本人だけでなく、巻き込まれた人もまた大きな悲しみを背負うことになる。自分自身はもちろんだが、せめて自分の身の回りの人には、「自転車における無理な運転」は慎むように声をかけてほしいものだ。
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