老夫婦のみ世帯と子供の住む家との距離関係から「近居」の進行状況を確認する
高齢者世帯とその子供の世帯との、物理的距離関係として最近注目を集める「近居」。同居では無く遠くでも無い、独立した立ち位置だが気軽に行き来できる距離感を持つ世帯関係が該当する。その浸透状況を総務省統計局による「2014年全国消費実態調査」の公開値を元に、高齢者(65歳以上)のみの夫婦世帯(老夫婦)の居住地とその子供の居住地の関係から確認していく。
両世帯の距離関係に関して、「同居している、あるいは二世代住宅などで同一敷地内に住んでいる」「別居だが徒歩5分以内の距離にある」「やや遠いが片道1時間未満の距離にある」「1時間以上かかる距離にいる」「子供そのものが居ない」に仕切り分けを行う。さらに直近の2014年分に関しては「片道1時間未満」を「片道15分未満」「片道(15分以上)1時間未満」に細分化する。なお「全体」は有業者が居る世帯・居ない世帯双方を合わせたもの、「有業者無し」は有業者が居ない世帯、つまり実質的に年金生活者世帯に限定した結果となる。
経年変化を見ると、現在に近づくに連れて同居・二世帯住宅の様式は減り、極めて近居(5分以内)は変わらず。片道1時間以内で行き来できる一般的な近居スタイルの割合は漸増し、その分遠居(本来の概念における「別居」)の世帯は減っている。単純な比率の上での話としてまとめると「同居や距離が離れたスタイルが減り、多少距離を置いた形での近居が増えている」となる。近すぎず、遠すぎず、適度な距離への適正化と表現できよう。
また高齢夫婦世帯全体と年金生活世帯とを比較すると、わずかだが後者の方が同居率・極めて近居率が低く、遠居率が高い。年金のみで生活ができる状況に移行した以上、完全な別個の世帯であるとの認識が強くなっているのかもしれない。
高齢者自身とその子供の意図がどのようなもので、どれほど距離を置くべきかの思惑は個々の考え方、価値観によるところが大きいが、例えば「国民生活に関する世論調査」(内閣府、2015年8月)においては、「一般的に、老後は誰とどのように暮らすのがよいと思うか」との設問で、高齢者に属する年齢となる60代と70歳以上自身は次のような回答を示している。回答者は高齢者個人だが、世帯ベースの決定にも多分に影響すると判断しても良いだろう。
「国民生活に関する世論調査」では「近くに住む」の具体的定義が無い。回答者の判断で選択されることになる。そのため、今件全国消費実態調査との単純比較は不可能だが、高齢男性は特に息子夫婦との同居を強く望み、高齢女性はどちらの子供とでも良いので近居を望んでいる傾向が強いのが分かる。
今件調査項目は高齢夫婦世帯が対象。意見力を考慮すると、多分に男性の意思が強調されるものと考えられる。単身高齢世帯と比べ、近居化はやや遅れが生じるのではないだろうか。
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