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事実誤認の「少年重大事件は増えている」。昔から信じている人は多かったのか

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 最近とみに語られるようになった「少年非行の重大化、増加」だが…!?

高齢層で「少年重大事件は増加」との誤認識が増えている

先日「実際は減っている、けど8割近くは「5年前と比べて少年重大事件は増えている」と思っている」でも言及した通り、内閣府の調査「少年非行に関する世論調査(平成27年7月調査)」によれば実情とは逆に、「少年による重大事件は昔と比べて増加している」と認識する人が8割近くに達している。

↑ 実感としておおむね5年前と比べて、少年による重大な事件が増えていると思うか(2015年7月)
↑ 実感としておおむね5年前と比べて、少年による重大な事件が増えていると思うか(2015年7月)

この現象は昔からのものだったのだろうか。同調査の過去分を合わせ、検証していく。

内閣府では過去にも何度かに渡り少年事件に関する世論調査を実施しており、もっとも古いものは1983年実施のものが確認できる。他方、「過去と比べて少年による重大事件が増えているか否かの認識」に関しては、「5年前」ではなく「昔」とのやや曖昧な表現も合わせれば、1998年以降直近分まで都合5回分が比較対象として抽出可能。ただし1998年は全体値しか取得ができない状態となっている。

そこでまずは1998年以降の各調査結果から全体、男女別に「5年前(昔)と比べて少年重大事件は増えている」と考えている人の割合の推移を見ていくことにする。

↑ 実感としておおむね5年前(昔)と比べて、少年による重大な事件が増えていると思うか(増加派)
↑ 実感としておおむね5年前(昔)と比べて、少年による重大な事件が増えていると思うか(増加派)

全体値のみが取得できる1998年の値が高値だが、これは調査直前の1998年1月に少年によるナイフを使った「栃木女性教師刺殺事件」が発生し、世間を大きく騒がせたのが原因。

それ以降は高値を示していることに違いは無いが全体としては少しずつ漸減。ところが直近の2015年では再び増加の動きに転じている。「重大」の明確な定義が無いために回答者の判断に任せる部分が多分にあるが、スマートフォンなどを用いた新たな事件が増えており、それが「重大な事件」の増加と認識されている可能性が高い。実際、調査の他項目でも例えば「最近の少年非行はどのような少年が起こしているか」との問いに、45.3%の人が「スマートフォンやインターネットなどに依存している少年」と答えている(51.5%の「保護者が教育やしつけに無関心な家庭の少年」に次いで高い値)。

一方、これを回答者の年齢階層別に見たのが次のグラフ。全体値しか取得できない1998年分はのぞいている。

↑ 実感としておおむね5年前(昔)と比べて、少年による重大な事件が増えていると思うか(増加派)(年齢階層別)
↑ 実感としておおむね5年前(昔)と比べて、少年による重大な事件が増えていると思うか(増加派)(年齢階層別)

2011年に至るまでの減少ぶりはどの世代でも変わらないが、2015年に上昇へと転じている動きは、実のところ50代以上の高齢層による増加認識の結果であることが分かる。元々それ以前も70歳以上は別として若年層ほど「重大少年事件は増加している」との認識は少なかったが(70歳以上が少ないのは単に「分からない」の回答率が多いから)、2015年の調査では70歳以上も大きく上昇し、「若年層から中堅層まで」と「高齢層」でほぼ二分化した形となっている。

なぜ誤認識が起きるのか、その理由を周辺環境から推測

実情である「少年による重大事件は減っている」とは異なる認識がまだ過半数であることに違いはないものの、中堅層までは誤認識は減少を続けている一方で、高齢層は増加に転じている。この動きは「実際は減っている、けど8割近くは「5年前と比べて少年重大事件は増えている」と思っている」でも言及しているが、高齢者ほど「過去の事案は忘れてしまった」「過去に無かったタイプの事件が起きたことで『増えた』と認識する」などの仮説を補強する動きとして注目に値する。

この動向をもう少し細かい属性別で確認するため、10年経過による変化を計算したのが次のグラフ。10年間ではすべての属性で減少しているため、減少した値を%ポイントで算出している。たとえば全体では14.5%とあるが、これは2005年(93.1%)から2015年(78.6%)の間に、14.5%ポイント増加派が減ったことを意味する。

↑ 実感としておおむね5年前(昔)と比べて、少年による重大な事件が増えていると思うか(2005年→2015年)(増えている派合計の減少%ポイント)
↑ 実感としておおむね5年前(昔)と比べて、少年による重大な事件が増えていると思うか(2005年→2015年)(増えている派合計の減少%ポイント)

男女別では女性、年齢階層別では高年齢、居住地域別では地方、子供の年齢別では上の年ほど、減少%ポイントが少ない。それだけ事実の認識浸透が進んでいない、相対的には後ずさりしていることを意味する。

高齢層は単なる事実情報のアップデートが進んでいない・昔の事案を忘れているで説明できるが、子供が年上の動きはあまり関係が無い(年上の子供がいる世帯ほど、回答者本人も年上の可能性は高くなるが)。こちらは上記で触れている、「昔無かったが今は見受けられる」事案の代表格である、インターネット・スマートフォンによるトラブルが、自分自身の子供の身の回りでも起きている、重大ではないが事件あるいはリスク的状況が生じていることが、大きく作用しているのだろう。又聞き、メディア経由よりも、身近でリスクが体現化される、あるいはその可能性があるのなら、少年非行への懸念が一層高まるのも無理はない。

また、情報密度が昔と比べて濃厚になり、距離的に広い範囲での犯罪情報が耳に相次ぎ入るようになり、具体的事例はともかく数が増えたように思えるようになった、新しいタイプの少年犯罪は珍しさ・タイムリーさもあり繰り返し報じられるため、少年も含めた犯罪報道そのものの変質(エンタメ化)など、複数要因も容易に想定できる。今調査の別項目で明らかにされているが、実際に身の回りで起きている少年非行はいじめや万引きなど旧来からの少年非行が多数に及んでいる一方、広く社会的に見て問題視されていると思っている少年非行では、ネット利用の事案が上位に顔を見せている。さらに少年非行の社会環境面における要因としては「スマホが問題」との認識が多数に及んでいる(「少年が非行に走るその原因、社会環境では「スマホが問題」との認識多数」)。

↑ 広く社会的に見て/実際に身の回りで起こり問題となっている少年非行(複数回答)
↑ 広く社会的に見て/実際に身の回りで起こり問題となっている少年非行(複数回答)

ネット利用の少年非行は少なくとも多くの保護者世代では、自身が子供の際には経験しなかったようなものに違いない。特にスマートフォンはここ数年で普及が進んでいることもあわせ、「増加している」との認識につながり、それが少年非行全体のイメージとリンクされてしまう。

さらにそれらが報道で集中的に伝えれれば、増加イメージは深く心に刻まれる。例えば昨年夏のマクドナルドにおける異物混入騒動以降、報道が過熱化するに連れて異物混入事案が増えたように思えたのが良い例。確率論的にはそれ以前から、そして世間一般の話題としては鎮静化した後も、それなりに事案は発生しているのだが、目新しさ、注目事案として報道から認識されなくなったこともあり、伝えられる機会が減ったことから、あたかも異物混入は無くなった「ように見え」「思え」てしまう。

事実と異なる内容が伝播され、信じてしまう、知識として習得してしまう背景には、さまざまな事情や理由があるが、大体構造的には同じようなもの。伝えている側が楽しい、何らかの利益を得ることができるだけなら、それも情報伝達の手法の一つではある。しかしそれが不特定多数に誤認識をもたらし、実害につながる、迷惑を被る人がいるのなら、それは極力避け、間違いを正し、事実を周知させねばならない。

また、伝える側も十分な配慮、具体的には印象論のみで注目を集め「記憶に刻ませる」などの大義名分を振りかざすのではなく、数量的・統計的な事実を元に伝えていくことが求められよう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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