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「小春日和」は春だろうか、それとも冬だろうか

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 何気なく使っているその慣用句、本来の意味かな?

何らかの出来事や事件、言い伝えを起因として、本来のものとは異なる新しい意味を持つようになった、単語の組合せによる言葉を慣用句と呼んでいる。しかしその意味が当初のものとは異なる認識をされている場合も少なくない。今回はいくつかの言い回しに関して、文化庁が2015年9月に発表した「平成26年度 国語に関する世論調査」の概要から、その実情を確認していくことにする。

次に示すのは4つの慣用句「おもむろに」「枯れ木も山のにぎわい」「小春日和」「天に唾する」に関して、二つの意味(うち一つは本来の意味)を提示し、そのいずれかの意味と思っているか、それとも双方の意味だと認識しているか、あるいはそのいずれでもないと覚えているか、さらには分からないかのいずれかで答えてもらった結果を集計したもの。グラフ上では本来の意味の選択肢の棒を赤で着色し、回答項目部分の背景色を変えている。

↑ 慣用句などの使い方について(2014年度)
↑ 慣用句などの使い方について(2014年度)

「天に唾する」は本来の意味で認識されている率が6割を超え、異なる意味の選択肢を選んだ人は2割強。ところが「おもむろに」「小春日和」は本来の意味の回答率がもっとも高いことに違いは無いが、もう一つの選択肢の回答率も肩を並べるほどの値を示している。つまり本来とは別の意味で覚えている人が多分に居る。

さらに「枯れ木も山のにぎわい」に至っては、本来の意味「つまらないものでも無いよりはまし」より、「人が集まればにぎやかになる」の方が多く回答を集めている。今回の結果を見て、はじめて「人が集まればにぎやかになる、との意味では無かったのか」と驚く人もいるに違いない。

これを各用語の二つの選択肢、「本来の意味」と「別の意味(≒世間一般に使われる事が多々ある意味)」に関する回答率を、年齢階層別で見たのが次以降のグラフ。青棒は本来の意味、赤棒は別の意味で統一してある。

↑ 「おもむろに」の意味の回答率(2014年度、年齢階層別、一部)
↑ 「おもむろに」の意味の回答率(2014年度、年齢階層別、一部)

50代に至るまで、本来の意味とは異なる「不意に」として認識している人の方が多い。60代になってようやく「ゆっくりと」の回答率が高くなる。40代までは異なる意味での理解者が2/3を超え、世代間でこの言葉を使って会話をした場合、意思疎通の上でギャップが生じる懸念がある。

↑ 「枯れ木も山のにぎわい」の意味の回答率(2014年度、年齢階層別、一部)
↑ 「枯れ木も山のにぎわい」の意味の回答率(2014年度、年齢階層別、一部)

上記の通り今回の4つの言い回しでは唯一、異なる意味の方が広く知れ渡っているものだが、すべての世代において本来の意味以外で理解している人が多いことが分かる。40代と70歳以上でやや差異が大きいが、特段法則性のある動きではない。

 ↑ 「小春日和」の意味の回答率(2014年度、年齢階層別、一部)
↑ 「小春日和」の意味の回答率(2014年度、年齢階層別、一部)

20代までは異なる意味合いで認識している人の方が多い。特に10代は2/3近くが春先だと考えている。50代から60代で本来の意味で理解している人が増えるが、70歳以上で再び差が縮まるのは興味深い。

↑ 「天に唾する」の意味の回答率(2014年度、年齢階層別、一部)
↑ 「天に唾する」の意味の回答率(2014年度、年齢階層別、一部)

今回例示された4つの言い回しでは唯一、全年齢階層で本来の意味の回答率の方が高い。30代以降になるとさらに大きく差は開いていく。60代以降でやや本来の意味の回答率が減るのは、代わりに「分からない」の回答が増加するから。

これら4つの言い回しで、本来の意味の選択肢に関して「正しい意味」、別の意味(≒世間一般に使われる事が多々ある意味)を「間違った意味」と表現していないのは、専門用語や明確な定義が成されていない慣用句の場合、時代の流れ、利用状況によって、本来とは異なる意味もまた、利用しても問題ないものと認識されることが多々あるからに他ならない。いわば言葉の進化、変化とでも呼ぶべきだろう。「確信犯」が好例である。

他方、今回挙げたものの中では、例えば「おもむろに」のように、年齢階層などの属性別で解釈の多数派が異なる場合、意思疎通の中でその言葉を用いると、誤解釈が生じる可能性がある。十分に注意してほしいものだ。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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