米国民は中国を好きなのだろうか、それとも嫌いなのだろうか
米ソの冷戦構造が終わり、世界の多極構造化を経て、米中間の対立がクローズアップされるようになった昨今。国民感情としてはどのような心理変化が起きているのだろうか。中国の経済力が世界的に注目を集め始めた2005年以降における、米国側の状況を、同国の民間調査会社Pew Research Centerが2015年9月に発表した、同国市民ベースでの対中懸念に関する調査報告書「Americans’ Concerns about China: Economics, Cyberattacks, Human Rights Top the List」から探っていく。
次に示すのは各年春において、ほぼ同様の条件下で中国に対する心境を「強い好意」「好意」「嫌悪」「強い嫌悪」(+「分からない」、回答拒否)の選択肢から一つ選んでもらった結果。前者二つを「好意派」、次の二つを「嫌悪派」で合算し、その推移を見たものである。赤の嫌悪派が多ければその年は嫌悪感情が強く、青の好意派が多ければその年は好意感情が強いことになる。
経年推移に関して報告書では特に補助解説は無いが、2013年に嫌悪感が上昇する前においては、2008年の42%が最大だった。この年は大統領選挙の年でもあり、対中関係にスポットライトが当てられた年でもある。また、金融危機ぼっ発の翌年でもあることから、経済不調のストレスが対外的な方向に向けられたと見ることもできる。とはいえ、その2008年においても好意派と嫌悪派の差異は3%ポイントでしかなかった。
ところが2012年において嫌悪派・好意派が同率になったのをターニングポイントとし、それ以降は好意派・嫌悪派が逆転した形で推移する。直近の2015年ではやや差異が縮まっているのものの、2014年においては20%ポイントもの差が出ている。
この傾向について回答の詳細部分の推移を見たのが次のグラフ。
2011年から2012年にかけて、明確に「強い好意派の減少」「好意派の減少」が生じている。同時に「不明・回答拒否」が大幅に増加し、心境上の迷いが生じていることがうかがえる。そしてその翌年の2013年以降は「嫌悪」「強嫌悪」の比率が増加しているが、主に2013年以降においては「不明・回答拒否」が嫌悪派にシフトしているようにみえる。
アメリカの政府としての姿勢はオバマ大統領の誕生以降、親中路線を貫いていた。しかしそれに乗じる形で中国の対応がアメリカにとっては不利益に傾く状況が増加したこともあり(いわゆるGoogle事件、南沙諸島問題、少数民族や中国国内の言論弾圧など)、2011年には親中からの方針転換をうかがわせる複数の動きが見えている(2011年9月の米中ロ共同演習、11月のオバマ大統領によるオーストラリアでの「対中国抑止」宣言)。これらの動きが今件の結果にも表れているのだろう。あるいは国民ベースでの反発が施策を後押ししたとも考えられる。
アメリカにおける対中強硬意見は現行のオバマ大統領属する民主党の支持者より、共和党支持者の方が強く、また高齢者の方が強い反発を抱いている。
来年のアメリカ大統領選挙の結果次第では、米中間にさらなる変化が生じるかもしれない。
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