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消費税と税収の関係を確認してみる(2014年)

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 財務省/国税庁

過去において消費税導入・増税が一般会計税収増につながったことは(ほとんど)無い

日本でも消費税が1989年に導入されてから20年以上の月日が経つが、昨今再び消費税周りの話題を良く耳にする。言うまでも無く、2014年4月1日からこれまで5%だった消費税率が8%に引き上げられ、さらに2015年10月には2%上乗せの10%に引き上げられる可能性が多分にあるのが原因。そして消費税率引上げの理由として良く見聞きするのが「財政再建」「安定税収の確保」「不景気下で落ち込み気味な税収のアップ」。特に「財政再建」では「再建化の動きを見せれば、皆が安心して消費行動を積極化する」などという意見も多く語られている。

一方で「消費税を上げて本当に税収は増えるのか」「経済は安定化するのか」「消費は活性化するのか」との疑問もある。特に2014年4月の消費税率引き上げ後の消費マインドの低迷は、消費税のような間接税の比率を上げ、さらに何らかの対策・手当をしても、消費の活性化や景気の回復・安定化にはつながらないとする意見を裏付けるものとして、論議の際に大きく取り上げられるようになった。

そこで今回は過去の税収関連のデータを基に、日本における消費税と税収(一般会計税収)をグラフ化し、その実態を推し量ることにした。

消費税に関する日本の過去の出来事「1989年4月1日に新設(3%)」「1997年4月1日に増税(3%から5%)」「2014年4月1日に増税(5%から8%)」を盛り込んだのが次のグラフ。この数十年間実質的に消費者物価指数はほぼ横ばいなことを考慮すれば、消費者物価の変動は考慮の上では無視できるものと判断する(「過去60年余にわたる消費者物価の推移をグラフ化してみる」参考のこと)。

↑ 一般会計税収と消費税税収推移(兆円)(-2014年度)
↑ 一般会計税収と消費税税収推移(兆円)(-2014年度)

消費税新設直後は税収項目の新設に加え、当時が好景気だったこともあり、税収は純粋に増加。しかしそれも失速し、2年目からは減収に。3年目以降は一般会計税収が「消費税導入時点より」少なくなる事態に陥る。

1997年の消費税税率アップ(3%から5%)により、消費税税収は4兆円ほど上乗せされ、その後は10兆円前後の横ばいを維持する。一方、一般会計税収そのものは導入直後の1997年度はやや上向きになるが、すぐに失速。「税率アップ以降、一般会計税収がアップ時より上回る年度は皆無」の状態のまま現在に至る。

2014年度は現在進行期であることから、各種税収は予算額の段階。しかし消費税率の3%上乗せ分により、消費税税収は5兆円近く増加、これに伴い一般会計税収も50兆円の大台を回復する(予定)。ただ、現時点では予算の段階で、しかも増税導入後の初年度のため「税率アップ以降、一般会計税収がアップ時より上回る」か否かはまだ判断は不可能。

消費税新設直後における「景気が良かった」を確認するため、一般会計税収推移のみ・消費税税収のみそれぞれと、各年度の年度終日における日経平均株価(2014年度は数字取得日前営業日の終値)の推移を重ねたのが次のグラフ。併記対象に日経平均株価を選んだのは、景気を表す経済指標としては株価が一番身近で分かりやすく、さらには税収とも深い関係があるからに他ならない。

↑ 一般会計税収推移(兆円、右)と各年度終日日経平均株価推移(円、右)(-2014年度)
↑ 一般会計税収推移(兆円、右)と各年度終日日経平均株価推移(円、右)(-2014年度)
↑ 消費税税収推移(兆円、右)と各年度終日日経平均株価推移(円、右)(-2014年度)
↑ 消費税税収推移(兆円、右)と各年度終日日経平均株価推移(円、右)(-2014年度)

株価変動と一般会計税収は近しい動きをしているのが分かる。因果関係まではこのデータから「だけ」では実証できないが、少なくとも相関関係は説明できる。「企業業績が上がる」のと「株価が上がる」「企業の利益が増えて法人税が増収する」という関係は容易に理解ができよう。

一方消費税税収は、税率の変更による大幅増収をのぞけば、やはり多少は株価と連動するものの、その額面上の変動幅は小さなもので、安定した税収を維持しているのが確認できる。手堅い税収、というところ(この「手堅さこそが、消費税増税を求める最大の理由である、とする話もある)。

これら過去の事例からを見るに、消費税の新規導入直後の2年間以外は、消費税による一般会計税収の税収増という実態は無かったことになる。さらにいえば唯一増加した「最初の2年間」ですら、景気動向のたまものである面が多分といえる。

相関関係と因果関係

今件がそのまま「消費税を上げても税収全体は増えない」と結論付けるものにはつながらない。過去の事例に基づく相関関係を示しただけで、因果関係を証明したことにはならないからだ。

今件該当時期の日本のGDPの推移を確認すると、実質GDPは漸増、名目GDPはほぼ横ばい(直近金融危機以降は幾分減退)している。「一般会計税収の減少は消費税に影響されたものでは無く、GDPそのものが減ったのが原因では」との意見は通りにくい(実質GDP・名目GDPの違いは「日本の経済成長率をグラフ化してみる……(上)用語解説」を参照のこと)。

↑  日本のGDP(実質・名目、1980年-2013年、兆円)
↑ 日本のGDP(実質・名目、1980年-2013年、兆円)

一方、消費税導入前後から兆しが見え始めたデフレ傾向で、税収弾性値(経済成長に応じて、税収がどの程度増加するかを示す指標。税収伸び率を名目GDP成長率で割ったもの)は高いものとなっている。この値が高くなるほど、景気が悪いほど税収の下落は大きくなり、景気が良くなるほど税収の増加幅は大きくなる。例えば所得税は累進課税が導入されているため、収入が増加すれば、その増加率以上に税収が増える次第。

消費税も税金には違いなく、増税をすれば景気は冷え込む。税収弾性値などを考えれば、その冷え込み感を凌駕する景気対策が(景気と税収の安定、上昇には)必要になる。増税のために予算を投じて、あるいは減税による景気対策をするとなれば、税収増加を目論むという観点での消費税増税は意味が無くなってしまう。

ではなぜ消費税を上げる必要があるのか。それは最初に挙げた理由のうち、「財政再建」(直間比率の是正も含まれる)「安定税収の確保」にあると見なした方が道理は通る。各種グラフから読み取れる、「消費税率1%につき約2兆円の継続的消費税税収」の動きを見れば分かるように、「景気動向にほとんど左右されない、安定税収源の底上げをするため」と見なして間違いは無い。

特に財務省サイドの立場で考えれば、「景気動向に関係なく入る安定収入が、消費税率をかさ上げすればするほど増えるのだから、これほど素晴らしい話は無い」ことになる。景気動向で左右される不安定な他の税収よりも、安定的な消費税の方がそろばん勘定もしやすい。景気動向よりも財務面を重視する財務省筋の観点で考えれば、統合的な、しかし不安定な税収全体の上下より、消費税にウェイトを置く、つまり景気の良し悪しより消費税率のかさ上げに重点を置くのは道理が通る。

しかし財務の安定や確固たる税収の確保もまた、結局は国家そのものの経済を良い方向に歩ませる手法の一つでしかない。その手法一つを実践するために、国そのものの経済成長に水を差し、足を引っ張り、意気消沈させてしまったのでは、身もふたもない。国家全体の観点で考察すると、「健康のためなら死んでも良い」と揶揄されても仕方のない話ではある。

繰り返しになるが、上記グラフはあくまでも過去の事例を基にした、相関関係の提示でしかない。とはいえ、デフレ経済からの脱却、不景気からの回復が十分になされていない現状で、消費税増税に踏み切れば、どのような事態に陥るかを推測するのには、参考になるデータには違いない。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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