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「憲法改正」「兵力100万人以上の国防軍創設」「財源は消費税」の妄言を試算してみる

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 世の中には頭痛を引き起こすような妄言があり、それを信じてしまう人も……

「消費税を財源とした100万人兵力の国防軍」の妄言

消費税率の引き上げを間近にひかえ、多種多様な論説が飛び交っている。中でも(その真偽のほどは別として)話のネタとしてよく目に留まるのが、「消費税率の引き上げで得た税収は軍事費増強に使われる」というもの。折しも中国の覇権主義的行動の顕著化、さらには昨今のウクライナ情勢もあり、軍事関係の話となると注目を集めやすいこともあり、「新鮮なネタ」として良く使われるようだ。また、憲法改正と絡めて現政権のバッシングと連動させやすいのも受けている感はある。

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そのような状況の中、今朝方目に留まったのは、朝の眠気を吹き飛ばすような内容。その論調にいわく、「現首相は自衛隊の国防軍化を狙っており、憲法改正論議もその伏線である」「国防軍創設の祖として銅像を建立されることになる」「国防軍は兵力100万人以上、人員はネット右翼を名乗る若者たちが沢山いるから問題はない」「防衛予算として必要になる財源は40兆円。消費税で賄う」というものだった。記述されたのは1年近く前だが、今なお反復する形で不特定の人から語られているのは、トピックスキーワードが多数盛り込まれていることに加え、大本の記事が置かれている場所の関係で、信頼のおける内容(、者による記述)だと誤認されているところが多分にあるからだろう。

内容的にはそれこそネットスラングで表するところの「チラシの裏」レベルのものだが、このようなものでも書かれる場所によっては真相性を底上げされてしまう。案の定、当方のもとにも半ば信じた上での問い合わせがあるほど。色々な意味で頭を抱えたのは言うまでもない。

消費税率をどこまで挙げれば「100万人」が出来るのか

せっかくなので、どれほど妄言なのかを実際に試算してみることにした。つまり「40兆円の国防軍予算なるものを確保するため、どれほどまでに消費税率を引き上げる必要があるか」というものだ。

直近の防衛予算は大体4.7兆円(「防衛相・自衛隊/予算等の概要」)。これを40兆円に引き上げるのだから、35.3兆円が不足する。これをすべて消費税でまかなうことになる。

一方、「消費税と税収の関係をグラフ化してみる」でも解説した通り、現行の消費税率5%によって得られる税収はほぼ10兆円。税率3%の時が6兆円足らずだったことも合わせ、単純計算・フェルミ推定のレベルではあるが、消費税率1%で2兆円の増収が見込めることになる。

↑ 一般会計税収と消費税税収推移(兆円)(-2013年度)
↑ 一般会計税収と消費税税収推移(兆円)(-2013年度)

つまり、「35.3(兆円)÷2(兆円/%)=17.65%」となり、現行税率に17.65%追加、すなわち消費税率を22.65%に引き上げれば「兵力100万人の国防軍」の出来上がりとなる次第。

ただしこの試算の場合、「実際の消費税率の引き上げ時に行われる景気対策としての引換減税措置は一切なし」「消費税率を引き上げると税収全体が減る経験則(他の減税措置、消費性向悪化などに伴う景気減退)は考慮せず」の上でのものとなる。これらも考慮した場合、実際には初年度は25%に引上げ、それ以降は毎年1%位ずつ引き上げて最終的に消費税率は30%位にする必要があるだろう。

ヨーロッパ諸国でも消費税(付加価値税)は精々20%後半で、しかも多種多様な減税・免税措置が成された上での話。今件設定ではもちろんそのようなものは無い。そしてこれに、所得税、住民税、その他各種租税公課が国民一人ひとりに課せられることになる。それこそ江戸時代の五公五民どころの話ではない。いかに非現実的な内容であるかはすぐに分かるはず。

もう一つのトリック的な「消費税による財源確保」

上記の試算は税率引き上げによる財源確保。実はもう一つ、「消費税を財源として40兆円の国防費を確保」という命題を果たす方法がある。それは消費税の課税対象額を増やすこと。

上記の試算にある通り、大体税率を現行の5%から25%に、つまり5倍に引き上げれば必要な予算は確保できる。見方を変えれば、税率がそのままの場合、課税対象額を5倍にすれば良いだけの話。そう、物価はそのままで安定させ、国の景気を無茶苦茶良くして消費性向を5倍にし、消費税がかかる金額をそれだけ増やせばいいのである(物価上昇を否定したのは、それをアリとしてしまうと、単純に5倍になるインフレを起こしてしまえばよいことになる……が、それでは今件命題の解決にはならない)。

もちろんこれも、無理な話であることはすぐに理解できる。

目を引くキーワードの集大成で作られた妄言に惑わされることなかれ

今件の元ネタとなった「妄言」は、世間の話題に登っているキーワードが多数盛り込まれ、いかにもそれらしい権威づけが各所でなされ、一見すると確からしい、しかも覚えやすい数字が並べ立てられたがために、話題・噂の対象となった。大体「100万人」という兵力も体外なもので、「少なくともこれ位は無いと派兵は出来ない」と書き手の思い込みのみでその数字が出されている。

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「ネット上でウソやデマにだまされないためのチェックリスト」で解説した通り、書き手が何らかの専門家の肩書を持ち(記述内容分野の専門家である必要はない! 権威がありそうな読まれ方をすればOK)、海外の人物が語った話として事例が出されていたとしても、それが正しい、真実味のある、本当のものとして信じて良い内容のものであるとは限らない。

そして得てして、真実性の低い妄言であればあるほど、人の目を引き付けるために「今話題の言葉」「ある特定の考えを持つ人が信じたくなるような内容」「少し大きめの、覚えやすい数字」を盛り込んでいるものである。詳しく精査する人などあまり居ない。パッと見で、ざっと読みで信じ込ませてしまえば、書き手側の戦略的勝利となる。

特に先の震災以降、この類の話が増えてきた感は否めない。くれぐれも注意して欲しいものである。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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