2013年の携帯電話業界を契約者数動向から振り返ってみる
全体数は増加へ、社別では2増1微増
今や日常生活の上で欠かせない存在となった携帯電話(一般携帯電話(フィーチャーフォン)とスマートフォンの双方)。今年もさまざまな動きを見せたが、今回はその動きを契約者数の動向という切り口から振り返ることにする。
まずは今年一年(現時点での最新公開データは11月分まで)の動きを、電気通信事業者協会(TCA)が毎月発表している公開データをもとに確認していく。
NTTドコモ、au(KDDI)、SBM(ソフトバンクモバイル)の3社を合わせた携帯電話契約総数は増加の一途。3社間の増減状況を見ると、SBMが常に先頭を走る形でauがそれに続く。一方ドコモは先に行く2社に追いつく機会が無いどころか、前月比でマイナスの月すら複数月体験してしている。先行二社が競技用自転車で競走をしているさなか、ドコモはママチャリで追いかけているという雰囲気。
各社の勢いの違いはMNP(ナンバーポータビリティ。電話番号などを変えずに、契約携帯電話会社を移行できる仕組み)の動きにも表れている。
auとSBMはプラス圏、ドコモはマイナス圏のみ。これはドコモなら「auやSBMに移転するドコモ契約者数が、auやSBMからドコモに契約し直す人よりも多い」ことを意味する。学校に例えると、転校していく生徒数の方が転入してくる生徒数より多い状態。これが契約者数の増減に小さからぬ影響を与え、上記のグラフにもある通り契約者数の増加具合において、ドコモと他2社間には差が開いていく。結果としてドコモのシェアは低下を続けている。この1年(11か月間)でドコモのシェアは1.75%ポイント減り、その分auとSBMが吸収している状態。
現時点(2013年11月分)ではドコモ45.6%、au29.0%、SBM25.4%。契約者数の上ではドコモが一番、auが二番、そしてSBMがそれらに続く状況に違いは無いものの、契約者数の変移の観点から勢いを見ると、「SBM堅調、au順調、ドコモ一人負け」と評せることになる。
ドコモの「iPhone開国」は吉野家の「牛丼値下げ」に似ている
携帯電話の契約者数動向に変化を与え得る、携帯電話業界の出来事を思い返してみると、「低コストの定額制サービスが次々に登場」「iPhone 5s/5cの発売とドコモのiPhone発売参入」「ドコモのツートップ戦略と3トップ化への転換」「スマートフォン用ゲームアプリ、コミュニケーションアプリの盛況ぶり」「auでの通信障害相次ぐ」「LTEサービスの品質競争」「NECカシオとパナソニックのスマートフォン事業からの撤退」など多数が頭に浮かぶ。
これらの事象の中で、もっとも大きなインパクトを与えた、牛丼チェーン業界ならば「吉野家の牛丼価格値下げによる三社横並び状態への移行」(吉野家が牛丼を280円に値下げ・牛丼御三家横並び状態に)に該当するのが、「iPhone 5s/5cの発売とドコモのiPhone発売参入」。iPhoneの新機種発売も十分な衝撃ではあるが、それ以上にドコモの「iPhone開国」は大きい。牛丼業界における「吉野家の牛丼値下げ」により松屋とすき家の「牛丼価格プレミアム」が無くなったのと同様に、ドコモがiPhoneの販売に参入したことで、auとSBMの「iPhone販売プレミアム」が無くなってしまった。
携帯電話の中で今や主流となったスマートフォン。iPhone以外にも多種多様な機種は存在するが、詳しい機能や特徴を知らない、興味が無い人にとって、スタンダードで安全牌的な存在は、今やiPhoneに他ならない。新たにスマートフォンを購入する人だけでなく、一般携帯電話(フィーチャーフォン)所有者がスマートフォンに買い替える場面においても、これまでは「iPhoneのある」というだけで、auやSBMへと移転する人は多かった。MNP件数動向を一年ベースでは無く、もう少し長期間の範囲で見るとそれが良くわかる。
元々ドコモはMNPの点でも低迷気味。しかしSBMがiPhoneを導入したことでドコモのMNPのマイナス幅は拡大。そしてauもiPhoneを販売し始めるに至り、ドコモのMNPにおけるマイナス幅はさらに、加速度的に拡大していく。これが「iPhone販売プレミアム」の効果。
ところが2013年9月にドコモでもiPhoneを販売しはじめたのをきっかけに、同社のMNPのマイナス幅は急速に縮小していく。かつてSBMやauがそうだったように、販売し始めの不慣れなところもあり、今なおMNPはマイナス、つまりドコモからの流出数の方が多い状況に変わりは無いが、下げ止まらぬ崩落状態からは脱し、改善方向に進んでいる。
牛丼業界のプレミアム問題と異なり、携帯電話の契約者数動向ではドコモの販売体制の整備状況に加え、すでにiPhoneシリーズが一定数普及していること、新規参入を果たしたiPhone 5s/5cそのものの商品価値・販売におけるインパクトの問題などから、即効性は見られないものの、少しずつ、確実に影響は生じている。
無論先行するSBM、auは共に、iPhone販売に関しては経験則、充実性などの先行特権を活かし、無くなったプレミアムの代替と成すような施策を次々と打ち出している。またLTE関連を中心に、各社とも他社に対する優位性をアピールし、その裏付けとなる環境整備と開発を推し進めている。
来年には「iPhone販売プレミアム」の消失が明確化することになる。携帯電話の契約者数動向においては、ドコモの状況回復具合が一番の注目点。とりわけMNPの動向に注目することで、その流れを推し量ることができよう。
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