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ホールアウト後に知った「マンバのために」の意味。T・ウッズが語ったコービー・ブライアントの思い出

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
「マンバのために」の意味、友の死をこのときウッズはまだ知らなかった(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 「マンバのために!マンバのために!」ギャラリーのそんな声を何度も耳にしながら、タイガー・ウッズにはホールアウトするまで、その意味がわからなかったそうだ。

 1月26日は米ツアーのファーマーズ・インシュアランス・オープン最終日。通算83勝目が期待される中、ウッズはパットが決まらず、フラストレーションが溜まるプレーを続けていた。

 そんなウッズの耳に入ってきたギャラリーたちの「マンバ」とは、かつて「ブラックマンバ(毒蛇)」の異名を取った元NBAのスーパースター、コービー・ブライアントを指していた。

 この日、米・西海岸の午前10時ごろ、1機のヘリコプターがロサンゼルス郊外の山中に墜落。乗っていた9人全員が死亡。乗っていたブライアントと13歳の娘ジアナちゃんが突然、この世から去った。2人は娘のユース・バスケットボールの大会へ向かう途上だった。

 全米のメディアが臨時ニュースでその悲報を伝えたのは、ウッズがスタートした後だった。コース上のギャラリーは手にしていたスマホなどでニュースを知り、「コービーのために祈ろう」「コービーのために勝ってくれ」という願いを込めながら、「マンバのために!」というメッセージを投げかけていたが、ウッズはそれが友の死を指していることを想像すらしていなかった。

 9位タイで4日間を終えたウッズに、相棒キャディのジョー・ラカバが初めて悲報を伝えた。ラカバはラウンド半ばに一部の関係者や近くで撮影していたカメラマンなどから知らされていたが、ボスであるウッズの心情を気遣い、プレーを終えるまでは、あえて何も告げずに沈黙を貫いたそうだ。

 ブライアントの死を知らされたウッズは「ただただショックだ。信じられないぐらい悲しい」と語り、友の思い出を徐々に口にした。

【ウッズとブライアント】

 ブライアントがNBAのロサンゼルス・レイカーズ入りしたのは1996年。その年の秋、ウッズはプロ転向して米ツアーにデビュー。2人はともに米国のスポーツ界を担う若きスターとして大きな注目を集めた。

 当時、ウッズは現在の拠点であるフロリダではなく、まだロサンゼルス近郊に住んでいた。ともに「ご近所」だった2人は、一緒にトレーニングをしたり、食事をしたりと親交を温めていった。

 互いに試合を観戦し合うこと、しばしば。ブライアントが2016年に引退してからもジムで一緒に過ごすこと、しばしばだったとウッズは振り返った。

「コービーは細かいことにまで注意を払う選手だった。だから彼はNBAで突出していたのだと思う」

「コービーはいつも闘志を燃やしていた。常に向上心を持ち、動画を眺めては研究し、最善の戦い方を見つけようとしていた」

 ウッズが淋しそうに口にした一言が心に刺さった。

「人生はとても脆い。だからこそ、今を大事に生きなければいけない」

 世界ナンバー1のブルックス・ケプカは同大会には出ていなかったが、ブライアントへの弔意を発信していた。

「コービーは僕の心のヒーローだった。毎朝、目が覚めて、スマホを開くたびに、僕は彼の言葉を見て刺激を受けてきた」

 全米、そして世界が悲しみに包まれたこの日、ゴルフ界では1999年にプライベートジェットの墜落事故でこの世を去ったペイン・スチュワートをあらためて想った人々も多いことだろう。

 素晴らしきアスリートを失ったことが、あまりにも残念でならない。安らかに眠ってほしい。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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