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ウッズが通算82勝の偉業、「MAX(最大限)の力」で達成された歴史的瞬間

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
通算82勝目を挙げ、穏やかな笑顔でファンに応えたウッズ(写真:AFP/アフロ)

 タイガー・ウッズの歴史がまた1つ刻まれた。ZOZOチャンピオンシップを制して通算82勝目を挙げ、故サム・スニードの記録についに並んだ。

 それが私たち日本の土の上であったことも、また歴史的な出来事だった。

【些細なことが重要】

 昨年9月に米ツアー最終戦のツアー選手権を制して大復活。今年4月にマスターズを制してメジャー15勝目、通算81勝目を挙げたウッズだが、その後の成績は振るわなかった。

 そして今年8月、左膝の手術を受けた。今大会は、手術後、初の実戦となり、わずか5週間の準備期間が果たしてどんな戦いにつながるのかが開幕前から注目されていた。

 膝の状態、肉体全体の回復度を問われるたびに、ウッズは「問題ない」と答えてきたが、悪天候による不規則進行で5日間の長丁場となり、「スイングにはさほど影響は無かったが、グリーンでラインを読む際、しゃがむのは大変だった」。

 その程度なら、大したことはないと思うかもしれない。百戦錬磨のウッズにとって、そんなことは「些細なことと思われるかもしれない。でも、そういうことが重要だった」とウッズは最後に明かした。

 そう、通算82勝という偉大なる記録は、一見、些細なこと、小さなこと、当たり前なことを、黙々と、コツコツと積み重ねてきた集大成だ。

【歳月の流れ、ウッズの変化】

 ウッズの戦い方も月日の流れに伴って緩やかに変化を遂げてきた。

 1996年にラスベガス招待で初優勝を挙げて以来、若かりし日のウッズは、思い切り攻める一方のアグレッシブなゴルフで人々を魅了した。右拳を突き上げるフィストパンプと勝利の雄叫びこそは、強いウッズの象徴だった。

 だが、人生の山谷を経験し、43歳になったウッズは、無理をしないゴルフ、年齢なりのゴルフを心掛けるようになり、守ることが一番の攻めになることを教えてくれるようなプレースタイルになった。

 月曜日に持ち越された残り7ホール。ウッズはただの一度も無理なゴルフをすることなく、追撃を目論んでいた松山英樹との差を2打以上に保ち続けていた。

 そうしたら最後はバーディーパットがカップに転がり込み、終わってみれば、3打差で勝利。

 激しいガッツポーズは、やはり取らなかった。その代わり、日本の大勢のファンに「応援ありがとう」の感謝の意を込め、穏やかな笑顔をたたえながら、右手を挙げて挨拶をした。

【みんなのMAX】

 結果を見れば、「さすがはウッズの楽勝」と思えるかもしれないが、最大限の覚悟と気合い、最大限の努力で、厳しい戦いを乗り越えた勝利だった。

 あいにく見舞われた豪雨により、金曜日はプレーができず、土曜日は無観客試合となったことは残念だった。だが、コースの復旧作業に当たった130名のメンテナンススタッフは「できることを最大限やった。最善を尽くした」と胸を張り、その努力はウッズの胸に届いていた。

 会場に入ることが叶わなかったギャラリーは、フェンス沿いから拍手や声援を送った。そんな日本のファンの最大限のエールもウッズの胸に届いていた。

「温かいサポートを月曜日からずっと感じていた。ありがとう。来年また戻ってくることを楽しみにしています」

 ウッズ、ファン、そして大会関係者。みんなの「MAX(最大限)」の力が合わさり、最高の大会になった。通算82勝の歴史的瞬間は、みんなの心が通い合ったベスト・メモリーになった。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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