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全米プロではOKだったが、全英オープンでは乗用カートに乗れなくなったジョン・デーリーに求められること

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
成績が低迷しても、高い人気を誇るデーリーだからこそ、頑張ってほしい(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 今年5月の全米プロで乗用カートを使用してプレーすることが許可され、注目を集めたジョン・デーリー。だが、来たる全英オープンを主催するR&Aは、デーリーの乗用カート使用の申請を正式に却下した。「痛みに耐えながらプレーできることを祈るばかりだ」と、デーリーは落胆しきりでコメントを出した。

【歩くことは、戦いの一部】

 1991年の全米プロを制し、1995年には全英オープンも制したメジャー2勝のロングヒッター、デーリーは現在53歳。日ごろはシニアの米チャンピオンズツアーに出場しているが、ここ数年は右膝の変形膝関節症に悩まされ、「歩くだけでも、かなり痛い」。

 昨夏は全米シニアオープンで「乗用カートを使わせてくれ」とUSGAに申請したが、USGAは却下した。

 だが、今年の全米プロではPGAオブ・アメリカがデーリーの乗用カート使用を許可。デーリーはカートに乗って颯爽と現れたが、75-76を叩き、あえなく予選落ちした。

 以後は、「何を基準にして選手の乗用カート使用を認めるべきか」が、ゴルフをはじめとする関係各団体の間で物議を醸してきた。

 そんな状況下、全英オープンを主催するR&Aはデーリーの申請を時間をかけて検討していたが、6日に正式に却下した。

「ジョン・デーリーが直面している(膝の)長年の問題と現状に心からお見舞い申し上げるが、慎重に検討した結果、彼の申請を却下する」(R&A)

 その理由は、いくつかあったが、最大の理由は「歩くことは全英オープンという戦いに不可欠な部分だから」。そして、「すべての選手はそれぞれのチャレンジ(挑む事柄)に直面していること」「大会の舞台となるロイヤル・ポートラッシュは険しい傾斜が多く、カート使用に不適切な地形であること」も却下を決めた理由だった。

【デーリー自身の姿勢も重要】

 プロゴルフの大会における乗用カート使用を最初に求めたケーシー・マーチンの一連の出来事を記憶している方は多いのではないだろうか。

 米国人選手のマーチンは、自身の乗用カート使用を認めなかった米PGAツアーを相手取り、1997年に訴訟を起こし、2001年にアメリカ最高裁判所で勝訴した。

 その間、USGAは1998年全米オープンでマーチンのカート使用を許可した。そして2012年全米オープンでは、米PGAツアーの敗訴後だったこともあり、USGAは再びマーチンのカート使用を許可した。

 しかし、そのUSGAが昨年のデーリーの全米シニアでの申請を却下。結局、デーリーは大会を棄権した。その際、周囲からは「マーチンの膝の痛みは先天性の障害によるものだが、デーリーの場合は後天性。その違いが許可か却下の違いを生んだのではないか」という声が上がっていた。

 そして今回、デーリーの申請を却下したR&Aは「先天性か、後天性か」には触れず、前述のように「歩くことはゴルフの一部であること」「誰もがチャレンジに直面していること」「コースの地形上、乗用カートは危険」を理由に挙げ、それらはどれも「なるほど」と頷けるものだったと言っていい。

 デーリー自身は、がっくり肩を落とし、落胆のツイートを発信していた。

「R&AはPGAオブ・アメリカと同じ見方をしてくれない。それが残念でならない。国が違えば、決まりも違うってことか?、、、、(中略)、、、、、痛みに耐えながらプレーできることを祈るばかりだ」

 デーリーは全英オープン覇者の資格で60歳までは出場できる。その「特典」をフル活用するためにも、彼の膝の痛みが少しでも緩和されることを祈っているが、同時に、デーリー自身がゴルフの調子を上げるため、事態を少しでも改善するための努力を行なう必要もあるだろう。

 過去の優勝者の資格で出続けている全米プロでも全英オープンでも、デーリーは2012年以後、すべて予選落ちを喫している。ひたすらカート使用を求めるだけでなく、膝の改善のため、ゴルフの復調のため、デーリー自身がどこまで前向きに真摯に取り組んでいるのか。その姿勢や努力が周囲に伝わってくれば、朗報や吉報が舞い込むチャンスは増えていくのではないだろうか。

 そう祈りつつ、デーリーの全英オープン挑戦を眺めようと思う。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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