「アクシデントは起こるもの」と動じないタイガー・ウッズのマスターズ14年ぶりの優勝の目指し方
マスターズ2日目。36ホール目の18番をパーで終えたタイガー・ウッズがクラブハウス方向へと歩き出すと、小道の両サイドに立つギャラリーの群れから「タイガー!」「タイガー!」の歓声が絶え間なく上がった。
ウッズは白い歯を覗かせ、穏やかな笑顔を見せた。
「楽しい1日だった」
眺めていたギャラリーにとっても、TV観戦していた世界中のファンにとっても、ウッズの力強いフィストパンプを久しぶりに見ることができたこの日は、手に汗握り、心が躍った1日だった。
【久しぶりのフィストパンプ】
ファンの興奮が一気に高まったのは、ウッズの14番。ティショットを左に曲げたウッズがラフから打ち出した第2打は、ウッズ自身は「グリーン手前でも良かった」そうだが、実際はホップアップしてグリーンを捉えた。
その直後、ウッズが歩き出すと同時に周囲のギャラリーがウッズめがけて押し寄せようとした。その動きを制御しようと大慌てで走り寄ってきたマーシャルが、雨でぬかった地面で足を滑らせ、転倒した。
ウッズは衝突を避けようと咄嗟に自分の足を上げたが、避けきれず、マーシャルの足がウッズの足に多少なりとも当たった。だが、ウッズは違和感を覚えながらも、最大限、平然を装っていた。痛みを感じている様子ではなかったが、違和感が残っている足首を静かに回すに留め、できる限り、表情を変えず、グリーン方向へ目をやり続けていた。
その場面は、どんなことが起ころうとも決して動じないウッズの意志の強さと集中力の高さを物語っていた。 いや、むしろ、起こってしまった突発的な出来事を逆利用するかのように、気合いを入れ直したようにも見受けられた。
グリーンに到達したウッズは6メートルのバーディーパットを沈め、通算5アンダー、8位タイへ浮上。続く15番、パー5でも、7メートルのバーディーパットをねじ込み、握り締めた右拳を空に向かって突き上げた。
オーガスタでウッズが力強いフィストパンプを見せたのは、一体いつ以来だっただろうか。久しぶりのフィストパンプは、ウッズが首位に1打差まで迫ったことを示し、それは、彼が14年ぶりにマスターズ優勝に迫り始めたことをも示していた。
応援するファンの拳にも力が入り始めた。
「ゴー、タイガー!」「タイガー!」
オーガスタにタイガーコールが響き渡った。
【アクシデントは起こるもの】
しかし、あと1打伸ばして首位に並ぶことができぬまま、ウッズは通算6アンダー、6位タイで36ホールを終えた。17番も18番も3メートル以内のバーディーチャンスに付けながら、どちらも決め切れず、パーどまりになった。
クラブハウス方向へ歩き出したウッズに歓声が飛ぶ傍らで、コンセッションスタンドで売られている飲み物のカップが、いくつか投げ込まれ、怒声も飛んだ。
上がり2ホールで、せっかくのチャンスを続けざまに逃したことを野次る声。だが、そうした落胆の声とて、ウッズへの大きな期待の裏返しでもある。
ウッズ自身、すべてをとても前向きに捉えていた。
「安定したプレーができた。我慢強いプレーができた。最後のホールも上りのラインに付けたことが何より良かった。パットは全体的に良かった。雨でグリーンはソフトだったが、5番、6番アイアンでもボールを受け止めてくれた。オーガスタでそんなことは滅多にないからね」
とにかく、いいことを探す。そして、起こってしまったことの影響は最小限に留める。
「アクシデントは起こるもの。前進あるのみだ。僕は大丈夫だったよ」
転倒したマーシャルの足が当たった14番の出来事も、取り合わず、気にしない。そんなウッズの姿勢が、いい流れにつながり、連続バーディーにつながった。
「楽しい1日だった」
落胆より、満足感と達成感を噛み締めていたウッズ。すでに笑顔は消え、決勝2日間を見据えて表情は引き締まっていた。
「明日以降のことは、天気次第でゲームプランを練る」
どんな天候になろうとも、何が起ころうとも、動じず、臆せず、前のめりになることもなく、ウッズは淡々と黙々と戦い続けることだろう。
サンデーアフタヌーンに14年ぶりにグリーンジャケットを羽織るウッズの姿を見ることはできるだろうか。あと36ホール。勝利の二文字だけを追い続けるウッズから、もう目が離せない。