苦節19年、「42歳のルーキー」の春
諦めなければ、夢は叶う――とはいえ、大学卒業から19年以上もの間、米PGAツアー選手になる夢を追い続けることは「言うは易く、行うは難し」である。
だが、それを実際にやってのけ、今季からデビューした「42歳のルーキー」が米ゴルフ界で話題になっている。
米国人のクリス・トンプソンはカンザス出身。州内の大学を経て、1999年にプロ転向し、世界の一流選手が集う米ツアーで戦うことを目指して、草の根のミニツアー転戦を開始した。
しかし、全米各地を転戦する費用と試合のエントリーフィーを稼ぐため、副業に時間と労力を食われ、なかなか成績は上がらず、12年以上の歳月が流れた。
2007年に米ツアーの下部ツアー組織であるウエブドットコムツアーになんとか辿り着いたが、米ツアー出場資格はなかなか得ることができず、下積み生活はさらに長期化していった。
その間、結婚し、2人の子供も授かった。
「年齢を重ねれば重ねるほど、人生経験もゴルフの経験も増えるのは、人間として、いいこと。でも、家庭を持ち、子供を持つリアルライフは、どんどん厳しいものになっていった」
昨秋、ウエブドットコムツアーの上位75名に食い込み、米ツアーの下位75名と戦うファイナルズ4試合に出場。その通算成績に基づき、ついに今季の米ツアー出場資格を手に入れた。
【スターとの差を痛感した日】
今季は昨年10月からの開幕シリーズ3試合にすでに出場したが、予選落ちが2回と下位フィニッシュで、成績は振るっていない。ハワイで開催されるソニーオープンは、もちろん初出場だ。
米ツアー選手になる日を夢見ながら、これまで手がけた副業は数限りないという。あるときは、ゴルフのショートゲームのコーチ、またあるときはバスケットボールのコーチという具合に、できることは何でもやったという。
ミニツアーを転戦していたある日、トンプソンはフロリダ州内の試合に出場するため、故郷カンザスから同じミニツアープロ数人と車に乗り合わせ、交代で運転しながら20時間のドライブで試合会場にようやく到着した。
みな長時間ドライブに疲れ果て、よろよろしながら会場入りして練習場へ向かっていくと、係員に「しばらく、ここで止まって待っていてくれ」と制止された。
何だろうと不思議に思いながら、トンプソンらは言われた通り、立っていた。
「すると、空から激しいプロペラ音が鳴り響いた。グレッグ・ノーマンの自家用機。彼はそうやって空からやってきて、会場の芝の上に降り立ち、試合に出ようとしていた」
徹夜の20時間ドライブで会場入りする自分たちと、空からわずか10分ほどで優雅に会場入りするノーマン。
トンプソンは「スターと自分たちの差を痛感させられた」そうだが、同時に「そんなビッグスターと同じ練習場で球を打てることに興奮した」と、とても喜んだそうだ。
その前向きさが、彼をここまで牽引してきたのだろうと思う。
「42歳の僕にこれから何がどれだけできるのか、わからないけど、そんなことは誰にもわからないのだから、とにかく存分に楽しみたい」
苦節19年がようやく報われた今、トンプソンは、初めて我が世の春を謳歌している。彼の「いい春」が、いつまでも続いてほしいと願う。