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全米プロ2日目、首位に立った松山英樹の今の強さを示す、ある統計

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
遠くのカップに沈め、遠かった目標に到達する松山になりつつある(写真/舩越園子)

首位と3打差の15位で初日を発進した松山英樹が、2日目は7バーディー、ノーボギーの64をマークし、通算8アンダーで、ついに首位に立った。

出だしの4ホールをしっかりパーで切り抜けると、5番で2メートル半を沈めて初バーディー獲得。そこから先は、61をマークして米ツアー通算5勝目を挙げた前週のブリヂストン招待最終日の再現のように、打てばピンそばに付き、次々にバーディーパットを沈めていく見事なゴルフを披露した。

3アンダー、4アンダー、5、6、7、8アンダーへ。レッドナンバーは着々と増えていったが、松山の表情は穏やかなままだった。リアクションも右手を軽くひょいと上げるだけの小さくて同じ動作の繰り返し。ガッツポーズらしいガッツポーズを取ることはなく、ひたすら淡々とプレーし続けた。

12番から4連続バーディーを奪い、次なるパー5の15番でティショットを打った直後に雷雨中断のホーンが鳴った。

せっかくのいい流れが止まってしまうのではないか。この中断はどう影響してくるのだろうか。そんな周囲の心配も松山にはまったくの無意味だった。

再開後、その15番では左ラフから右ラフへと渡りながらも3打目で見事にピンに寄せてバーディー獲得。16番ではティショットを大きく右に曲げ、コーポレートテントのすぐそばに止まったが、冷静にドロップ処置を行ない、セカンドショットはバンカーにつかまりながらもパーセーブした。

17番(パー3)では「今日のベストショット」と松山自身が評した8番アイアンの見事なショットでピン2メートルを捉え、この日、7つ目のバーディー獲得。先に首位でホールアウトしていたケビン・キスナーを、ついに捉え、首位に並んだ。

【僕は何も思っていない】

メジャー優勝は松山の夢であり目標でもある。2日目を終え、メジャーで初めて首位に立った松山。前週のブリヂストン招待での快勝に続く会心のゴルフ、会心のスコアゆえに、松山のメジャー初優勝達成に寄せられる期待は言うまでもなく大きい。

だが、ホールアウト後の松山自身は、周囲の期待や喧騒を「まったくない」と打ち消した。雷雨中断の影響は「まったくない」。コースの状態が大きく変わっても「こういうのはフツウにあるんで」。前週の最終日のような最高のプレーだったと思うかと問われれば、「まったく違う」。

メジャーでついに首位に立った高揚感はないか?気合いは入るか?

「まったくないです。僕以外の人がメジャー、メジャーというだけで、僕は何も思ってない」

ドキドキ感はない。それどころか「予選通ればいいなと思ってプレーしていたら、うまく伸ばせて、すごいなと思っていた人(=キスナー)と並んで、びっくりしました」。

無欲無心でプレー。平常心でプレー。それが、結果的にみんなが驚く好プレー、好スコアにつながり、かくして松山は明日の3日目にメジャー初優勝を目指し、最終組でプレーすることになった。

【長いパットを沈めるように】

「すごいなと思っていた人と並んで、びっくりした」というフレーズを聞いて、すぐに想起されたのは前週の表彰式で聞いた松山自身の言葉。

「スタート前のウォーミングアップが最悪だったので、まさかこんな素晴らしいラウンドができるとは思っていなくて、最後まで信じられなかった」

一見、達成できるとは思えないものが達成できたという事実と実感。松山はそんな体験を繰り返しながら、どんどん強くなっている。

そういえば、全米プロ初日の夜、15位で好発進した松山のさまざまな統計を眺めていて、彼がその日、1位にランクされたカテゴリーを発見した。

「Putts Made Distance  158フィート11インチ(=約48メートル) 1位」

あまり馴染みのないデータだが、何を示しているかと言えば、バーディーパットであれ、パーパットであれ、ボギーパットであれ、各ホールでカップに沈めた最後のパットの距離を足し上げたものだ。

松山の今季のこの統計のアベレージは(この時点まででは)67フィート3インチで190位と低めだが、前週のブリヂストン招待では4日間のアベレージが88フィートに伸び、そして全米プロの初日は一気に158フィートへ伸びていた。

それが何を意味するか?平たく言えば、入るとは思えないような長いパットをカップに沈める度合いと長さが驚異的に伸びていることを示している。

長いバーディーパットを沈めてスコアを伸ばし、長いパーパットを沈めて、たとえミスしたあとでもダメージを最小限に抑え、そうやってしぶとくプレーする松山が、この2週間でどんどん成長していることを示している。

最悪のウォーミングアップから信じられないような勝利を挙げたり、すごいなと思っていた選手に追撃をかけて追いついたりというのも、このパットのデータとどこか通じるものがあるように思える。

そして今日の2日目も、好スコアに貢献したのはショットよりパットだと松山は言う。「今日は、いいパットができた」

 

遠くにあるカップにボールを沈める力が増し、遠くにあった目標に近づく力も増している。力任せに力むのではなく、うまく力を加減できるようになっている。

体をいたわり、穏やかな心を保ち、逸る心を抑えつつ、持てる技を最大限に活かす。「心技体のフル活用」という統計があったなら、今の松山は間違いなく、その1位にランクされるはず。

そんな今の松山英樹だからこそ、明日からの2日間に大いに期待が持てる。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、ラジオ福島、熊本放送でネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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