全米オープン優勝の悲願より生涯グランドスラムより、長女の卒業式を優先するフィル・ミケルソンの家族愛

全米オープン欠場の可能性をメモリアル会場で明かしたミケルソン(写真/舩越園子)

「フィル・ミケルソンが全米オープンを欠場する!?」

そんなニュースが一度はウエブサイト上に流れ、メモリアル・トーナメントのメディアセンターは騒然となった。

だが、その第一報は実は少しニュアンスが違っていたようで、第3ラウンドを終えたミケルソンは詰め寄せた大勢の米メディアの前で、こう明かした。

「僕の長女のアマンダがハイスクールの卒業式で総代としてスピーチをする。でも卒業式は全米オープン初日の6月15日と重なり、しかもカリフォルニア(西海岸)の時間で午前10時開始。それから(全米オープン会場へ)移動したら、僕の初日のティタイムが何時だとしても、間に合うことはまずできない」

だから欠場をすでに決めた?それとも、その日に実際にスタートに間に合わないとなった時点で欠場するつもり?

「今の時点で欠場を確定させる意味はない。まだ何が起こるかわからないから、もう少し大会が近づいてから最終決断するつもりだ。でも、補欠選手やUSGA(全米ゴルフ協会)が事前に準備ができるよう、僕の事情を今のうちに伝えておきたいと思った」

天候や予期せぬ何かが起こり、卒業式に出席した上に全米オープンのティタイムにも間に合うという奇跡のような離れ業が可能にならない限り、ミケルソンは今年の全米オープンを欠場するという苦渋の選択をすることになる。

そして、欠場となる可能性は、きわめて高い。

「全米オープンは僕が一番勝ちたいと思っている大会だ。でも、僕は家族とともに生きる人生の大事な瞬間がとても楽しみで、ワクワクしている」

【全米オープンとミケルソン】

1992年にプロ転向したミケルソンは現在46歳。すでに米ツアー通算42勝、メジャー5勝を挙げ、生涯シードも獲得。そして世界ゴルフ殿堂入りしているベテラン中のベテラン選手。90年代以降の米ゴルフ界においては、タイガー・ウッズとミケルソンが人気を二分してきた。

だが、ウッズがプロ転向翌年の97年マスターズを皮切りにメジャー優勝を重ね始めた一方で、ミケルソンはメジャー惜敗を重ね、「メジャー優勝なきグッドプレーヤー」という屈辱的な称号を授かっていた。

名門パインハーストCCで開催された1999年の全米オープンでは、初産を控えた愛妻エイミーとのホットラインとなるポケベルをゴルフバッグにしのばせ、「たとえ最終日最終組で優勝争いをしていたとしても、もしもエイミーの身に何かあったら、僕は試合を棄権して、すぐにエイミーの元へ駆けつける」と宣言。

その“緊急事態”は起こらず、ミケルソンはペイン・スチュワート(故人)との激しい優勝争いを演じたが、惜敗。その翌日にエイミーが生んだ女の子が、この6月にハイスクールを卒業するアマンダだ。

ミケルソンは2004年マスターズでメジャー初優勝を飾り、翌年には全米プロでも勝利。2006年と2010年にもマスターズで優勝を重ね、2013年には全英オープンも制した。

だが、「一番勝ちたい」と言い続けてきた全米オープンだけは、6度も2位になりながら今なお未勝利のままだ。

全米オープンを制すれば、メジャー4大会すべてを制してキャリア・グランドスラム達成となる。元・米空軍パイロットだった父親のスピリッツを受け継ぎ、愛国心に溢れるミケルソンは「アメリカのナショナルオープンで勝って、アメリカのナショナルチャンピオンになりたい」と、この20数年間、言い続けてきた。

「全米オープンは僕が一番勝ちたいメジャーだけど、娘の卒業式は人生を振り返るとき素敵なシーンとなって蘇る。これを外すことはできない」

【米ゴルフ界の反応は?】

ミケルソンの胸の内を聞いていた米メディアは誰もが笑顔だった。

愛妻エイミーの初産のときも、愛妻エイミーと実母メアリーがほぼ同時に乳がんと診断されて手術を受けた2009年のときも、ミケルソンがどれほど家族を大切に思っているかは、すでにみんなが知っている。

キャリア・グランドスラム達成がかかっている全米オープンを欠場する覚悟を固めているのだから、その覚悟を尊重しよう。メモリアル・トーナメントのインタビューエリアは、そんな空気に包まれていた。

6月15日から4日間、ウイスコンシン州ミルウォーキー近郊のエリンヒルズで開催される今年の全米オープンは、かつて数々の名勝負を演じたタイガー・ウッズとフィル・ミケルソン、2人のビッグスターが不在となるであろう。

だが、ダスティン・ジョンソン、ローリー・マキロイ、ジェイソン・デイ、ジョーダン・スピースといった若きメジャーチャンプたち、あるいは我が日本の松山英樹が、熱い戦いを披露し、世界中のゴルフファンを沸かせてくれることを期待したい。

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て、89年に独立。93年渡米。以後、米ツアー選手たちと直に接し、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの魅力を独特の表現で発信し続けている。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。26年間の米国生活に区切りを付け、2019年から日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、さらには武蔵丘短期大学客員教授を務めるなど活動範囲を広げている。

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