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震度7の揺れが2度襲った熊本地震から6年、望まれる耐震化

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:イメージマート)

震度7の揺れが2度襲った熊本地震

 6年前の2016年4月14日21時26分、熊本県の日奈久断層帯の北端で、深さ11kmを震源とするマグニチュードMj6.5の地震が発生し、益城町で震度7を観測しました。さらに、28時間後の4月16日1時25分に、日奈久断層帯の北東に隣接する布田川断層帯で、深さ12 kmを震源とするMj7.3の地震が発生し、西原村と益城町で震度7を観測しました。2つの地震の間には、4月15日0時3分に、最初の震源の南西側でMj6.4の地震が起き、震度6強の揺れを観測しました。

 過去に、震度7の揺れを観測した地震は、熊本地震に加え1995年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)、2004年新潟県中越地震、2011年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)、2018年北海道胆振東部地震がありますが、2度も震度7を記録したのは熊本地震だけです。また、15日と16日の地震では、初めて長周期地震動階級4を記録しており、色々初めてのことが多い地震でした。

複数の活断層が連動し阿蘇山も噴火

 熊本地震の後、日奈久断層帯や布田川断層帯に加え、阿蘇地方や大分県中部の別府-万年山断層帯でも数多くの地震が発生しました。日奈久断層帯、布田川断層帯、別府-万年山断層帯という隣接した断層帯が連動して、活発な地震活動が続きました。8月までの5か月間に、最大震度が7の地震が2回、6強が2回、6弱が3回、5強が5回、5弱12回もありました。また、震源の近くにある阿蘇山では、本震が起きた4月16日に小規模な噴火があり、さらに10月8日に36年ぶりの爆発的噴火がありました。また、震度7を記録した地震の2か月後の6月には集中豪雨が発生し、地震で緩んだ地盤で土砂災害が発生しました。2020年に発生した令和2年7月豪雨(熊本豪雨)や新型コロナウイルス感染症(covid-19)などとの複合災害も大切な視点です。

 隣り合う震源域での地震の連動や震源域近くの火山の噴火などは、規模は異なるものの、心配される南海トラフ地震での東海地震と南海地震の連動、富士山の噴火を彷彿とさせるものです。

強い揺れによる甚大な被害

 震度7の強い揺れにより、家屋倒壊、土砂崩れ、液状化などの被害が発生しました。消防庁によれば、2019年4月12日現在、関連死を含む死者は273人、負傷者は重傷者1,203人、軽傷者1,606人、住宅被害は全壊8,667棟、半壊34,719棟、一部破損163,500棟、公共建物被害が467棟と報告されています。死者の内、直接死は50人、その内、4月15日までに9人の死者が確認されています。直接死が多かったのは、震度7の揺れに見舞われた益城町の20人と西原村の5人に加え、大規模な土砂崩れが多発した南阿蘇村で16人となっています。死因は、家屋倒壊が37人、土砂災害が10人でした。また、関連死の中には、2か月後の集中豪雨で亡くなった5人が含まれています。

 直接死に比べ関連死の多さが目立ちますが、避難生活によるストレスや持病悪化、車中泊によるエコノミークラス症候群などが原因のようです。もう一つ、4月14日と15日の強い揺れで、多くの住民が避難をしており、本震時に倒壊家屋の中にいた住民が少なかったことで、直接死が減じられていたという面もあります。このことは、南海トラフ地震対策で導入された臨時情報の有効性を示すとも言えます。

 ちなみに、平成の30年間にMj7.3の地震は、兵庫県南部地震、熊本地震、2000年鳥取県西部地震の3つがありますが、直接死の数は、それぞれ約5500人、50人、0人です。人口が集中する大都市の脆さが表れており、首都一極集中の早期是正の大切さが分かります。

公共施設、インフラの耐震化の問題

 熊本地震では、宇土市役所が半壊したのに加え、八代市、益城町、大津町、人吉市の計5市町の庁舎が被害を受け、役所機能が維持できなくなりました。損壊した熊本市民病院など、入院患者を転院させた病院も認められました。熊本県は耐震基準の地震地域係数が0.9や0.8と小さく設定されており、防災拠点にも適用されていることに問題があります。

 震度7の揺れに2度見舞われた益城町総合体育館では、4月14日の地震でメインアリーナの天井板の一部が落下しました。避難所が不足する中でも、町長の決断

で避難所として開設しなかったことで、天井の殆どが落下した4月16日の本震で新たな犠牲者を出さなかったことは、不幸中の幸いでした。

 九州新幹線は、14日の地震で回送列車が脱線しました。新幹線の脱線は、新潟県中越地震、東北地方太平洋沖地震、本年3月16日に起きた福島県沖の地震でも発生しています。震源が離れた海で起きる地震では緊急停止システムによる減速が可能ですが、活断層による直下の地震では猶予時間が不足するので、脱線防止や逸脱防災などの安全対策が不可欠です。高速道路の跨道橋の落橋や盛土被害、阿蘇大橋の落橋や土砂崩れなどによる道路閉塞も目立ちました。改めて防災拠点やインフラの耐震対策の大切さが分かった災害です。

 一方で、2000年以降に建設された住家の被害は、震度7の揺れを2度も受けたにもかかわらず比較的軽微でした。それに対し、事業継続ができなかったビルは多いようです。現行の耐震基準が保証している安全性には、建物によって差があるようです。現代社会に相応しい耐震基準を考えていく時期だと思います。

復旧しつつある文化財

 熊本地震では多くの文化財が被害を受けました。中でも、熊本のシンボルでもある熊本城の被害が大きく報じられました。大小天守の屋根瓦が崩れ、しゃちほこも落下しました。石垣が各所で崩れ、重要文化財の長塀や櫓が大きな被害を受けました。また、阿蘇市にある重要文化財の阿蘇神社も楼門と拝殿が全壊しました。何れも全面復旧と言うわけにはいきませんが、熊本城の天守は昨年3月に復旧が完了し、内部の一般公開が始まっています。阿蘇神社も拝殿が再建され、楼門の修復も来年12月には完了するようです。日本には数多くの文化財建築物があり、これまでの地震でも多くの被害が出ています。日本の宝とも言える文化財の耐震対策について改めて考える必要があります。

厄介な長周期パルス

 熊本地震では、益城町の田んぼの中に、約2mの断層の食い違いが現れました。このずれに伴って、震源近くでパルス的な長周期の揺れが観測されました。秒速1mくらいの速度で横に2mずれ動くと思ってください。こういった揺れが苦手なのが、地震に対して安全だと言われる免震建物です。多くの免震建物は地下にある免震装置の上に載っていて、周辺は擁壁に囲まれています。地盤が2mも動くと建物が擁壁にぶつかってしまいます。今のところ抜本的な解決策は見つかっていないようです。

 このように、熊本地震では新たな課題が色々現れました。改めて6年前の地震被害を思い出し、これからの大地震に備えていきたいと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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