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東日本大震災から11年 経済界が動き出した 商工会議所が地域レジリエンスの核に

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
日本商工会議所のHPより

日本商工会議所の報告書

 先月2月18日に日本商工会議所が「商工会議所を核とした地域の防災・減災対策の推進に関する中間報告書 ~レジリエントで豊かな地域経済社会の実現へ~」という報告を公表しました。

 報告書では、各地の商工会議所に対するアンケート調査やヒアリングを通して、過去の災害での商工会議所の役割の大きさを明らかにすると共に、商工会議所や中小企業の課題もまとめています。また、防災対策の現状についても整理されています。商工会議所の会員企業の多くは中小企業ですが、残念ながら事業継続計画(BCP)の策定率は高くありません。これらの分析を受けて、商工会議所自身や会員企業の災害対策を進めると共に、商工会議所が核になって多様な主体が連携し、地域が一丸となってレジリエントで豊かな地域経済社会を実現していくことを目指しています。

東日本大震災での商工会議所の取り組み

 災害が起きたとき、地域の商工会議所は、被災企業の支援や産業復興に大きな役割を果たします。2011年3月11日に発生した東日本大震災では、大津波によって、沿岸部を中心に大きな被害を受け、多くの企業が被災し、ライフライン途絶などもあって、地域経済が壊滅的な打撃を受けました。例えば岩手県では、9つあった商工会議所のうち、沿岸地域に位置する久慈、宮古、釜石、大船渡で大きな津波被害を受け、宮古、釜石、大船渡などでは商工会議所会館が浸水するなどして被災しました。地域経済の核でもある商工会議所が被災すると、地域事業者への支援力も弱体化します。そんな中、被災商工会議所は、会員企業の被災状況の確認や事業再開のための支援を全力で行いました。これを支えたのが、他の商工会議所です。

全国の商工会議所が被災商工会議所を支援

 岩手県では、盛岡商工会議所が主導する岩手県商工会議所連合会が被災商工会議所への支援体制を整え、内陸の商工会議所と被災した沿岸部の商工会議所とで対口支援が行われました。職員派遣や物資支援などを通して、窓口相談や情報システムの立ち上げ、情報・通信・事務機器、自転車・バイクの物資支援が行われ、「金融相談」、「法律相談」、「社会保険相談」などが実施されました。また、「遊休機械無償マッチング支援プロジェクト」により、全国の商工会議所の会員企業が利用していない機械を被災事業者に提供するなど、商工会議所の全国ネットワークが生かされました。

過去の災害からの教訓

 東日本大震災を経験し、広域災害を想定した近隣・広域の商工会議所間での人的・物的支援に関する事前協定や、行政との事前防災協定や、商工会議所、都道府県商工会議所連合会、ブロック商工会議所連合会などの各階層での連携の必要性が分かりました。また、2016年熊本地震では、日頃から事業者と顔の見える関係にある商工会議所だからこそ、事業所のBCP策定や防災対策の促進、発災後の事業継続に向けた支援が可能であることが分かりました。さらに、2018年西日本豪雨では、災害時に拠点となる商工会議所会館の施設・設備強化の大切さが分かりました。

災害時の事業継続支援拠点、商工会議所の自助は道半ば

 過去の災害経験を教訓として、2019年に施行された中小企業強靭化法では、商工会議所を災害時の事業継続への支援拠点として位置づけ、商工会議所等と市町村が事業継続力強化支援計画を共同作成することになりました。ですが、肝心の商工会議所の事業継続力は十分ではありません。商工会議所会館のうち3割強が、耐震的に問題があることが分かりました。公的な防災拠点に比べ耐震化が余り進んでいません。BCPの策定率も6割弱にとどまっており、商工会議所自身の事前対策は道半ばのようです。また、災害時の商工会議所と行政、近隣商工会議所、商工会、会員企業等との間での連携体制も必ずしも十分ではありませんでした。

確実に起きる南海トラフ地震を前に

 全国には515の商工会議所があり、今後30年間の地震発生確率が70~80%と予想される南海トラフ地震で震度6弱以上、到達津波高3m以上の被害が想定されている地域に、238の商工会議所が立地しています。こういった巨大災害では、行政は住民対応に注力せざるを得ず、企業支援や産業復興には商工会議所の役割が大きくなります。

 このため、商工会議所自身が、災害後にも事業継続できるよう、日頃から備えておくことが何よりも必要です。また、地域の経済団体として、地域内の様々な関係者をコーディネートして連携力を高めると共に、全国の商工会議所ネットワークを活用して広域連携を進めるなど、日頃から連携体制を構築しておくことが大切です。

商工会議所を核に公民連携、地域一丸で防災を

 レジリエントで豊かな地域経済社会を実現するには、商工会議所を核に、公民連携によって地域一丸で防災・減災対策を進め、中小企業や地域のインフラを強靭化し、様々な連携を強化する必要があります。前者のためには、災害拠点となる商工会議所会館の強靭化や、中小企業等の防災力強化のための支援、地域全体の強靭化や災害に強いまちづくりに向けた要望・提言の作成が、後者のためには地域内での様々な組織の連携、近隣商工会議所等との連携、県境を越えた商工会議所間の連携などが必要になります。

 これから予想される大規模災害を乗り越えるためには、それぞれの地域で公民が連携し、総力をあげて防災・減災に取り組むことが大切で、地域のシンクタンクでもある商工会議所は大きな役割を果たします。地域経済の事前対策推進や災害発生後の迅速な復旧・復興には、商工会議所は欠かせません。大災害後の生活や生業の持続のため、商工会議所のこれからの取り組みに大いに期待したいと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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