Yahoo!ニュース

東日本大震災から10年、繰り返す液状化や地すべりなどの土砂災害

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:Paylessimages/イメージマート)

再び起きた丘陵地の宅地造成地の被害

 東日本大震災では、仙台市郊外にある宅地造成地で数多くの地すべりが発生しました。丘陵地にある谷を埋めた盛土造成地や、斜面を切土・盛土した場所です。同様の被害は、1978年宮城県沖地震でも多数発生しており、被害が重なった場所もあります。盛土した地盤は柔らかくて崩れやすく、弱い表土の上に盛土されると、地下水の水みちとなりやすい谷部では、地すべりが起きやすいようです。地すべりが起きると、耐震性のある家屋も被害を受けてしまいますので、宅地選びには注意が必要です。

少なめだった大規模土砂崩れ

 一方で、地震前に降雨が少なかったことが幸いしたのか、大規模な土砂崩れは那須火山帯周辺の福島県白河市などに限られ、2008年岩手宮城内陸地震や2016年熊本地震、2018年北海道胆振東部地震のような土砂崩れは起きませんでした。

 過去の海溝型の巨大地震では、大規模な土砂崩れが多数発生しています。例えば、南海トラフ地震の1707年宝永地震では静岡県下の安倍川上流での大谷崩れや、富士川上流での白鳥山崩れ、由比・薩埵峠の地すべりをはじめ、愛知県、三重県、和歌山県、高知県、香川県など広域で土砂災害が発生しています。また、相模トラフ地震の1923年関東地震でも丹沢山系を中心に大規模な土砂崩れが起きています。神奈川県には関東地震のときに堰き止められてできた震生湖もあります。

大規模に発生した液状化

 強い揺れに見舞われた東北3県に加え、震源から離れた茨城県、千葉県、東京都でも広域に液状化が発生しました。とくに、利根川や旧河道周辺、東京湾岸の埋立地や干拓地での液状化は顕著で、東京湾岸の液状化は42平方キロにも及びました。揺れはそんなに強くなかったのですが、長く続いたために地盤内の水が染み出し、液状化しやすくなったようです。

 中でも浦安市や千葉市の住宅地の戸建住宅の液状化被害は深刻で、家屋が沈下・傾斜し居住ができなくなりました。大規模な集合住宅は杭基礎で支えられているので構造的な被害はありませんでしたが、水道管・ガス管などの損壊でライフラインが途絶し、生活に支障が出ました。一方で、液状化対策が行われていたディズニーランドは無被害だったようです。

 液状化が心配される場所の宅地を選ぶ際には、地盤の液状化対策の有無を確認しておくと良いでしょう。また、家を建てる時には、杭基礎の採用や表層地盤改良など、見えない部分にお金をかけることが望まれます。

 また、宮城県女川町では、杭基礎で支えられた鉄筋コンクリート造建物が津波によって転倒・流出しました。液状化によって杭の抵抗力が無くなって、津波の力で転倒・流出したと考えられます。液状化と津波の複合作用の問題は、今後の沿岸に建設する建築物の課題です。

亜炭鉱跡の陥没

 強い揺れに見舞われた東北3県では、数百か所で亜炭鉱跡が陥没しました。亜炭は、明治以降、家庭用燃料として使われていましたが、とくに戦時中など、石炭の入手が困難だったときに大規模に採掘されました。坑道が充填されず放棄された亜炭坑道は、風化などによって脆くなっており、強い揺れで崩落して陥没したようです。

ため池の堤防の決壊

 福島県にある農業用ため池の藤沼湖の堤体が強い揺れで決壊して、150万トンものの水が流出しました。下流にあった家屋を押し流し、死者・行方不明者8人の犠牲者を出しました。ため池は全国に16万もあり、耐震的に問題の残る堤防も多く残されています。地元住民が管理するため池も多いため、耐震性向上は大きな課題になっています。

心配される南海トラフ地震での土砂災害

 発生が懸念される南海トラフ地震では、様々な土砂災害が心配されます。東日本大震災の教訓に学び、事前の対策を少しでも進めておきたいと思います。

 大阪や名古屋などの大都市近郊には、丘陵地に多くの宅地造成地があります。急傾斜地にも家屋が多数あります。こういった場所では、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)が発表された時には、事前避難も考えておく必要があります。

 また、宝永地震や安政地震のときのような大規模な土砂崩れが起きれば、道路が寸断されたり、河川が堰き止められたりします。とくに、富士山や箱根の火山堆積物が覆っている静岡県東部は、東西の交通の要衝でもあり、心配されます。また、中山間地では、道路寸断による孤立や、堰止湖の決壊による下流域での土石流などの心配もあります。

 大阪湾や伊勢湾の沿岸部は液状化の発生危険度も高く、住宅地の被害に加え、埋立地に集積するエネルギー施設やライフライン施設の被害も心配されます。

 東海地域には、岐阜県御嵩町や名古屋の東部丘陵をはじめ、亜炭鉱跡が広がっており、強い揺れによる陥没の危険性もあります。亜炭鉱跡の早期の充填が望まれます。また、西日本には多くのため池がありますので、ため池の下の土地利用の改善や、堤体の改修も必要です。

 地震災害に加え、豪雨による地盤災害も多発していますから、改めて、周辺の地形や地質、地名の由来などに気配りしてみましょう。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

福和伸夫の最近の記事