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北海道・東北沖で心配される巨大津波の再来

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震

 先月、4月21日に内閣府防災担当の「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震モデル検討会」から、日本海溝・千島海溝沿いで予想される最大クラスの地震について、想定すべき震源断層モデル、予想される津波高・浸水域、震度分布の概要が公表されました。検討の対象とされたのは、東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震の震源域の北側に隣接する場所です。南側については、今後の検討課題になっています。

 提案された最大クラスの地震は、岩手県沖から北海道日高地方の沖合の日本海溝沿いで発生する「日本海溝(三陸・日高沖)モデル」と、襟裳岬から東の千島海溝沿いの「千島海溝(十勝・根室沖)モデル」の2つです。両方の震源域が同時に活動することも否定できませんが、予想される津波高は、2つに分けた場合と大差ないとの判断で、両モデルが作られたようです。地震規模(モーメントマグニチュードMw)は、前者はMw9.1、後者はMw9.3です。東北地方太平洋沖地震のMw9.0や、中央防災会議が想定した最大クラスの南海トラフ巨大地震のMw9.1を上回る超巨大地震です。

地震調査研究推進本部による千島海溝沿い地震活動の評価

 千島海溝沿いの地震については、地震調査研究推進本部が2017年12月19日に「千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版)」を公表しています。東北地方太平洋沖地震の発生を受け、最大クラスの地震についても検討が行われ、Mw8.8程度以上の地震が30年以内に発生する確率を7~40%と評価しました。

 北海道では、平川一臣・北海道大名誉教授を中心に、津波堆積物調査が精力的に行われ、過去の巨大地震の履歴が明らかにされてきました。北海道は、古文書などの資料が残っていない代わりに、地中の津波堆積物の保存状態が良く、沢山ある火山の噴火堆積物により地層の年代を調べやすいそうです。

その結果、過去6500年間に超巨大地震が最多で18回発生しており、最新の活動時期は17世紀前半だったことが分かりました。平均すると発生間隔は約340~380年で、すでに前回から400年程度経過していることから、高い発生確率になりました。

 ちなみにM8クラスの巨大地震に関しては、「根室沖」でM7.8~8.5のプレート間地震の発生確率を70%程度と評価しており、南海トラフ沿いの地震の70~80%と同程度の高い確率になっています。南海トラフ沿いでは、有史以降にM9クラスの超巨大地震は起きていませんから、千島海溝沿いの方が超巨大地震はより切迫していると考えられます。

予測された津波高と震度

 内閣府防災の検討では、最大30m程度の高い津波高が予測されています。青森県以北や岩手県内の宮古市以北では、東北地方太平洋沖地震の津波高よりも高くなっています。北海道ではえりも町で30m弱と最も高く、根室市からえりも町付近で10~20m、苫小牧市や函館市で10m程度、青森県では八戸市で25mを超え10~20m、岩手県でも宮古市では30m弱で10~20mの場所が広がっています。心配されるのは福島第一原発です。防潮堤高さを超える13mの津波高が推計されています。汚染水が貯蔵されたタンクからの流出が心配されます。

 震度については、北海道厚岸町で震度7となっており、北海道から青森県、岩手県の太平洋岸で震度6強の揺れが予想されています。

 この結果を受けて、4月21日に開催された中央防災会議の防災対策実行会議で、「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ」の設置が決まりました。2020年度中に、予測された津波と震度をもとに被害予測を行い、具体的な防災対策を検討する予定です。

今後、期待される検討

 予想被災地域では1993年釧路沖地震でも問題となった寒冷地ゆえの課題を抱えています。冬季に地震が起き停電すれば水道管が凍結し破断します。吹雪の中や、凍結した路面では津波避難に困難が伴います。暖房が無ければ生活ができません。津波によって港湾機能を失い、停電で青函トンネルや空港が利用できなくなると、北海道は孤立し、2018年北海道胆振東部地震のような事態も想定されます。2003年十勝沖地震で生じた石油タンク火災も心配されます。長周期地震動は予測されていないようなので、今後の検討が望まれます。

 一方、北海道などの寒冷地の家屋は耐震的です。最大震度7だった2018年北海道胆振東部地震でも、揺れによる家屋倒壊での犠牲者はありませんでした。降雪対策のため屋根が軽量で、寒冷のため窓が少なく壁勝ちで、凍土対策で基礎が頑丈だからです。さらに、南海トラフ地震と比べて、津波到達までの時間があること、被災人口が少ないこと、相対的に自立力が強い地域であること、などは有利に働きます。被災地の特徴を踏まえた検討が必要です。

 また、日本海溝・千島海溝沿いには日本海溝海底地震津波観測網(S-net)が整備されています。地震計、水圧計、傾斜計で常時モニタリングされている観測情報を活用して、南海トラフ地震対策で導入された臨時情報についても、検討が行われることが望まれます。

感染症終息前の地震発生に備えて

 感染症拡大の中、災害からの避難のあり方を考えておく必要があります。命を守るには、あらゆる人が確実に「難」を「避」ける必要があります。安全な場所、家に住み、備蓄などが十分だったら避難は不要です。一方、危険があるなら緊急避難場所への確実な避難が肝心です。避難所では、感染防止のため、避難空間の分離、三密の防止、衛生状態の確保などの対策が必要になります。

 このため、4月28日に、「新型コロナウイルス感染症対策としての災害時の避難所としてのホテル・旅館等の活用に向けた準備について」という事務連絡が、内閣府防災、消防庁、厚生労働省、観光庁の連名で、都道府県などに発出されました。また、厚生労働省と観光庁から、日本ホテル協会、日本旅館協会、全日本シティホテル連盟、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会に対して、「新型コロナウイルス感染症対策としての災害時の避難所としてのホテル・旅館等の活用に向けた準備について」という協力依頼が行われました。災害が発生した場合、ただちにホテル・旅館等を避難所として開設できるよう準備を進める呼びかけです。縦割りになりがちな我が国ですが、今般は、府省庁が力を合わせて、地震や豪雨災害に備えて対応しているようです。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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