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台風による停電と空港の孤立はなぜ繰り返されるのか?伊勢湾台風60年を前に検証

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:ロイター/アフロ)

金曜帰宅時には切迫感が少なかった台風15号

 9月5日・木曜15時に南鳥島近海で発生した台風15号は、発達しながら北西に進み、伊豆諸島近海を北上して、9日・月曜3時頃に三浦半島付近を通過、5時前に千葉市付近に上陸し、水戸付近を通って太平洋に抜けました。日本周辺の海水温が高く、勢力を落とすことなく発達しながら上陸したため、中心気圧960hPa、最大風速40m/sの「強い」勢力で上陸しました。

 小型の台風でしたが、強い風によって送電鉄塔が倒れ、倒木や飛来物などで配電設備が損壊し、未だ停電が続いています。大型で、中心気圧975hPa、最大風速30mだった昨日の台風17号と比べ、被害に大きな差があるのはなぜでしょう。

土日に急発達した台風

 気象庁が、台風発生と発表したのは5日・木曜15時です。そのときの中心気圧は1002hPa、最大風速は18m/sでした。その後、翌6日・金曜の6時に1000hPaと20m/s、15時に996hPaと25m/sと、勢力は余り発達しませんでした。台風のサイズも小型で、強風域が小さいので強い風は吹いていませんでした。予報円も大きく、首都圏直撃という危機感は、金曜時点には余りなかっただろうと想像されます。

 それが、週末になって、海水温の高い日本近海で勢力が一気に増します。7日・土曜の朝10時に970hPa、35m/s、8日・日曜の朝6時に960hPa、40m/s、さらに21時には神津島周辺で955hPa、45m/sと「非常に強い」勢力まで発達しました。そして、上陸時は、960hPa、40m/sでした。観測史上1位の最大風速を観測した地域も多数あります。小型の台風なので、いきなり強風に襲われることになり、世田谷では、強風に飛ばされて頭を打って死亡した50代の女性も出ました。

金曜帰宅時に危機対応の判断ができたか

 気象庁が臨時の記者会見を開いたのは、上陸前日の日曜の午前11時でした。首都圏を直撃することが予想され、「首都圏を含めて記録的な暴風になる恐れがある」と、最大限の警戒を呼びかけました。日中の備えを考えれば、ギリギリのタイミングだったと思われます。

 日曜の午後3時以降は新幹線も順次運行を取りやめ、首都圏の鉄道も最終電車を早めるなどして、翌朝8時まで運行を見合わせるなどの予告をしていました。実際には、強風による倒木や飛来物によって運行開始が遅れた鉄道も多くありました。

 首都圏の遠距離通勤者で危機対応にあたる要員は、日曜の午前の段階で出勤の判断をしていなければ、台風対応は困難でした。行政の危機管理要員は役所の近くに居住しますが、自宅に居住する一般企業では交通機関が止まると要員の参集は困難になります。このことが、初動の遅れにつながったのかもしれません。これは、首都圏などの大都市ならではの問題です。

被害の把握の遅滞

 消防庁によると、9月23日時点の被害は、死者1人、重傷者10人、軽傷者135人、住家の全壊85棟、半壊1,088棟、一部損壊12,325棟となっています。住家被害については、千葉県が約9割を占めています。残念ながら千葉県の被害状況把握が遅滞しており、状況を悪化させています。

 千葉県が発表した住家被害数を、9月9日から23日まで並べてみると、190、207、245、294、607、1,193、1,262、2,787、3,912、6,313、9,608、10,115、11,419、11,659、12,567となっています。東京から1~2時間で行ける場所にもかかわらず、7日たっても1割の被害しか把握できていなかった状況は、目を疑います。屋根の被害なら、衛星、航空機、ヘリコプター、ドローンなどで空中写真を撮影すれば、被害の概略把握は可能です。最新の災害情報技術が活用されていないように感じられます。

昨年から続く台風被害

 昨年の大きな被害を出した台風21号、24号と比べると、15号の対応の悪さが目立ちます。これらの台風の最大の中心気圧、最大風速、上陸時の中心気圧、最大風速、死者、負傷者、全壊、半壊、一部損壊家屋数、停電戸数を、台風15号と比較してみます。

   上陸日 中心気圧hPa/ 死者+ 負傷者 全壊  半壊 一部損壊 停電戸数

       最大風速m/s 行方不明

       最大  上陸時

21号  9/4 915/55 950/55  14  980  68  833 97009 298万

24号 9/30 915/55 960/40 5+2  227  53  384  9639 181万

15号  9/9 955/45 960/40   1  145  85  1088 12325  93万

一部損壊の多さが目立ちます。地震と台風とでは、一部損壊の影響は異なります。台風の場合には、屋根のダメージが大きいため、その後の雨で被害が拡大し、生活への影響が深刻になります。台風での家屋被害に対しての行政支援のあり方は、今後の課題と言えそうです。

遅れる停電解消

 停電の復旧も遅滞しています。当初の復旧見込みも甘く不正確でした。東京電力管内の停電は9日11時7時50分時点で約934,900軒、うち、栃木県約1,200軒、茨城県約99,200軒、埼玉県約4,100軒、千葉県約637,100軒、東京都約12,200軒、神奈川県約141,500軒、静岡県約39,600軒でした。千葉県内の停電戸数を9月9日から23日まで並べてみると、602,300、550,100、433,600、318,500、186,900、144,100、131,400、78,000、65,900、44,300、30,300、19,800、4,300、3,100、5,400となっています。倒木が多かったとは言え、昨年の台風被害に比べ、停電復旧の遅れが目立ちます。台風通過後の厳しい残暑の中、エアコンが使えず熱中症にかかる人も多く出ました。電気がなければ水の供給も滞り、電気と水が不可欠な病院は困難を極めました。

昨年の台風と比べ遅い停電復旧

 ちなみに、昨年の台風21号では、関西電力は220万軒が停電になり、1300本以上の電柱が折損しましたが、3日後には95%、5日後には99%、16日後には全復旧しています。また、台風24号では、中部電力は119万戸が停電しましたが、3日後に96%が復旧し6日後には全復旧しています。

 東京電力の復旧の遅さが気になります。ホワイトカラーが多く、高速交通機関に頼る首都圏の弱さなのかもしれません。人が集積する都会は、田舎に比べ電気への依存度が遥かに高いので、発電・送電・変電・配電・受電の安全度は他地域よりも格段に高くしておく必要があります。また、避難の手段や拠点にもなりえる自家用車を持たない人が多いため、いざという時の逃げ場もありません。

陸でも起きた空港の孤立

 昨年の台風21号で問題となった海上空港の孤立が、陸上の成田空港でも起きてしまいました。空港の足となる鉄道やバスが運休し、高速道路も通行止めになったため、都心から離れた空港が孤立状態となってしまいました。台風通過後に、飛行機が続々と到着したため、当日の夜には1万3千人をこえる人が足止めになりました。交通機関が途絶えると、乗務員や空港職員も空港に来ることができず、欠航になった出発便もあったようで、人が溜まってしまったようです。

 実は、筆者も10日、常磐線で水戸に赴きました。往路は時々停電しながらも水戸まで辿り着けましたが、帰路は停電で常磐線が不通になってしまいました。やむを得ず、つくばに移動し、つくばエクスプレス経由で名古屋に戻ることになりました。一本の線路に頼る地域の脆弱さを実感しました。

 もしも、台風15号の進路が東京湾の西側だったら、全く違った被害が生じていたと思われます。昨年の台風21号や大阪府北部の地震でも、人口集積地の災害脆弱性を強く感じました。ポンプアップに頼る海抜ゼロメートル地帯に町が広がる様子を見るにつけ、土地利用のあり方を再考することの必要性を感じます。

 海水温の上昇によって、上陸直前に発達し、勢力を増しながら上陸する台風が増えています。明後日は、災害対策基本法制定のきっかけとなった伊勢湾台風から60年を迎えます。一人一人、災害との付き合い方を考え直していきたいと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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