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鳥取地震が発生 10月23日で新潟県中越地震から12年、熊本地震と共通する教訓を忘れずに

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
ハイパーレスキューの救助(写真:ロイター/アフロ)

鳥取県中部の地震

一昨日、2016年10月21日14時07分ころ鳥取県中部で地震がありました。震源の深さは約10km、マグニチュード(M)は6.6、最大震度は6弱でした。北栄町で3棟の全壊家屋が報じられているものの、昼間の地震で幸い犠牲者はありませんでした。

私はのぞみに乗っていてパソコンで仕事をしていました。突然、パソコンの緊急地震速報が鳴り、地震の揺れが10秒後くらいに来ることを知り身構えました。ですが、揺れが到達するはずの時間でものぞみ車中では揺れを感じることはありませんでした。その後、のぞみは減速して停車し、「停電した」との社内アナウンスがありました。

東海道新幹線では、沿線地震計でP波を検知すると送電を停止して列車を停止する「東海道新幹線早期地震警報システム(通称:テラス)」を導入していまので、これが作動したのだと判断しました。その後、暫くたって停電の理由は地震であるとのアナウンスがあり、十数分後に復電して再び発車しました。改めて、各種の地震防災システムの大切さを実感しました。

さて、今年は、三重県沖の地震、熊本地震、鳥取県中部の地震といった大地震、桜島や阿蘇山の噴火、台風10号をはじめとした風水害など、多くの自然災害に見舞われています。

災害が多発した前回の申年

実は、同じ申年の12年前も災害が頻発しました。主な風水害だけでも、新潟県の三条市や中之島町(現・長岡市)で甚大な被害を出した7月23日新潟・福島豪雨(死者16人)、三重県・宮川村が大きな被害を受けた9月29日台風21号(死者・行方不明者27人)、死者・行方不明者98人を出した10月20日台風23号などがありました。また、地震も、M7.1の9月7日東海道沖の地震とM6.8の10月23日新潟県中越地震が発生しています。火山噴火も、9月1日浅間山噴火がありました。海外では12月26日に甚大な津波被害を出したスマトラ島沖地震(M9.1)が発生し、日本人も42人もの死者・行方不明者を出しました。ちなみに、この年は、50周年記念作として映画『ゴジラ FINAL WARS』が公開されてもいます。映画「シン・ゴジラ」が公開された今年と良く似ています。

さて、今日は中越地震からちょうど12年ですから、この地震を振り返ってみます。

ひずみ集中体で発生した内陸直下の地震

新潟県中越地震は、2004年10月23日17時56分に、新潟県の中越地方の深さ10kmで発生しました。既往の活断層との関係は明確ではないようですが、新潟から神戸にかけてのひずみ集中体の中で発生しました。ひずみ集中体では、過去にも1964年新潟地震(M7.5)、1984年長野県西部地震(M6.8)、1995年兵庫県南部地震(M7.3)、2007年能登半島地震(M 6.9)、2007年新潟県中越沖地震(M6.8)、2011年長野県北部地震(M6.7)、2014年長野県神城断層地震(M 6.7)など、内陸直下のM7クラスの地震が続発しています。

兵庫県南部地震以来の震度7の揺れ

中越地震での揺れは、川口町(現長岡市)で最大震度は7を記録し、兵庫県南部地震以来2回目の震度7の揺れとなりました。残念ながら、熊本地震の益城町や西原村と同様、川口町の震度7の情報の発信は、停電などにより遅滞しました。川口町の震度7が確認されたのは10月30日、被害が甚大だった山古志村も震度6強の揺れだと分かったのは11月2日でした。震度情報は、災害対応初動体制確立に欠くことのできないものですから、ぜひとも改善したいものです。ちなみに、防災科学技術研究所のK-NET観測点・小千谷でも震度7相当の揺れだったことが分かっています。

多くの余震でエコノミークラス症候群による関連死

中越地震の主な被害は、死者68名、全壊建物数3175棟でした。68名の死者のうち、地震による直接死は16名、52名が災害関連死と認定されました。直接死があったのは、強い揺れに見舞われた市町村で、小千谷市7名、旧川口町4名、旧山古志村2名、長岡市2名、十日町市1名です。関連死はより多くの市町村で発生しました。熊本地震に比べ死者が少ない一つの理由は、土曜の昼間の地震だったことにもありそうです。

この地震では、本震発生後の1時間にマグニチュード6以上の地震が3度も発生し、震度6強の揺れを2度観測しました。その後も余震が続いたため、多くの住民が車の中で長期間寝泊まりしました。このため、静脈血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)などによる関連死が多く発生しました。熊本地震でも余震が多数発生し、車中泊の住民が多くいましたが、中越地震の反省で、静脈血栓塞栓症の予防・周知が図られたため、状況は改善されました。

豪雨災害に続いて中山間地を襲った地震

2004年は、夏から秋にかけて10個もの台風が上陸しました。とくに、地震直前の10月20日から21日にかけての台風23号では、98名もの犠牲者を出しました。舞鶴市では水没した観光バスの上で37名の乗客が夜を明かして救助を待ち無事救出されました。テレビで実況中継された様子を覚えている方も多いと思います。新潟県中越地震は、多雨で地盤が緩んだ中山間地を襲ったため、多数の土砂崩れが発生し、多くの集落が孤立しました。

全村避難した旧山古志村

震度6強の揺れに見舞われた旧山古志村では、芋川流域で多数の崩落が起き、河道閉塞も生じて、水没した家屋もありました。多くの集落が孤立したため、山古志村では全村避難することになりました。道路の寸断による孤立の問題は、中山間地の地震災害に共通する問題です。山古志村は、斜面を利用した美しい棚田や、にしき鯉の池、牛の角突きの闘牛などが有名で、日本の原風景ともいえる中山間地特有の風土をもった村でした。2003年の連続テレビ小説「こころ」でも描かれました。まさにその翌年に発生した地震でした。

上越新幹線の脱線

この地震では上越新幹線で「とき325号」が脱線しました。新幹線の営業運転中の脱線事故は初めてです。熊本地震でも九州新幹線で回送中の列車が脱線しました。この地震の後、新幹線の脱線レール対策が施されるようになりました。在来線も路盤の崩壊など甚大な被害を受けました。道路も、土砂崩れで閉塞しあらゆる陸路が寸断されました。地震発生から92時間後に、東京消防庁の消防救助機動部隊(ハイパーレスキュー隊)が、がけ崩れで埋もれた乗用車から2歳の男児を救助した様子は、多くの人の記憶に残っていると思います。これ以降、ハイパーレスキュー隊の存在が知られるようになりました。

東京では高層ビルのエレベータで閉じ込めが

震源から200kmも離れた東京では、高層ビルのエレベータが緊急停止して乗客が閉じ込められました。地震動によるエレベータのワイヤの共振によって、ワイヤが切れる事象もありました。東京都心のビルは、新潟で起きる地震では、揺れが強くなる傾向があります。これ以降、エレベータの地震対策が進むようになりました。東京は、新潟の地震で起きた地震では長周期で良く揺れる傾向があります。

新潟県中越地震から12年、改めて熊本地震と共通することが多いことに気づかされます。災害は忘れた頃にやってくると言います。過去の災害教訓を忘れないでおきたいと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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