Yahoo!ニュース

【熊本地震】地震の連鎖、改めて住宅の耐震化の大事さを知る

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

何より大切な耐震化

国は、建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)に基づいて、2015年までに住宅や多数の者が利用する建築物の耐震化率を90%とする目標を定めていました。また、「国土強靱化アクションプラン2015」等で、2020年までに95%とする目標を定めました。ですが、2013年時点の耐震化率は、住宅が約82%、多数の者が利用する建築物は約85%に留まっており、これらの達成は困難だと言われています。そんな中、熊本を強い揺れが襲いました。

耐震化率とは

兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)で、古い耐震基準による住宅での犠牲者が大きかったことから、1981年以前の住宅や建物を耐震化することの重要性が指摘されました。そこで、耐震化の進捗状況として耐震化率という指標を使い、その向上を図ってきました。耐震化率とは、1981年以降の建物数に、旧耐震基準の建物のうち現行基準並みの耐震性のある建物数を加えた割合です。実際には、建て替え建物数の方が耐震補強する建物数より遙かに多いため、建て替え率の高い大都市の耐震化率が高くなっています。ちなみに、熊本県の戸建木造住宅の耐震化率は2008年時点で66.7%でした。

例えば、建物の供用年数を50年と考えると、新耐震基準が導入された1981年から14年後に発生した兵庫県南部地震の時期の耐震化率は30%程度、35年が経過した現時点の耐震化率は70%程度と見込むことができます。

阪神淡路大震災に比べ建物被害は減った

熊本地震での建物被害の特徴は、阪神淡路大震災と共通点が多く、再び甚大な被害を出したことは建築耐震に携わる一人として無念に感じます。ですが、被害量は、21年前に比べ、随分減っているように思います。熊本県の人口は兵庫県の人口の1/3ですから、約10万棟の全壊家屋を出した阪神淡路大震災と同様の被害だとすれば、数万棟の全壊数になってしまいますが、現時点、報じられている全壊数はこれより遙かに少ないようです。とくに、耐震補強が進んだ小中学校の校舎被害は殆ど報じられていません。21年間の耐震化の取り組みの成果でもあるように思います。

東灘区と益城町の被害の違い

阪神淡路大震災で最も大きな被害を出した東灘区は、当時、16万人弱の人口でした。死者は1471人です。1993年の住宅統計調査によると、住宅数は7万1千棟、そのうち新耐震建物の数は2万7千棟ですから、耐震化率は36%になります。東灘区の全壊棟数は1万4千棟弱でしたので、比を取ると全壊率は20%程度になります。

一方、熊本地震で大きな被害を出している益城町の人口は、3万3千人です。お亡くなりになった方は20人です。2011年の調査では、約9700の戸建住宅のうち、新耐震基準の住宅が約5200、耐震性を有する旧耐震基準の住宅が約800とされています。従って、耐震化率は、62%程度になります。また、益城町の緊急調査によると、10276棟の住宅のうち、1026棟が全壊と報じられていますので、全壊率は10%程度になります。被害判定の基準が不明なので、単純な比較はできませんが、阪神淡路大震災と比較して、耐震性が劣る住宅が半減した結果、全壊率も半減したように思われます。このことから、耐震化の大切さが実証されたとも言えそうです。

地震の連鎖で、繰り返し襲った強い揺れ

一連の熊本での地震では、最大震度が6弱を超える地震が7回、震度5弱を超える地震が17回発生しています。一番強い揺れが襲ったのは、16日1時25分の地震です。それに先だって、14日21時26分に震度7、15日0時3分に震度6強となった地震が発生しています。この2つの地震の後で、最も大きな地震が起きました。

16日未明の地震の強い揺れ

図は、益城町で震度7となった14日と16日の地震で、防災科学技術研究所が設置しているKiK-net益城観測点で記録された地震動の擬似速度応答スペクトルを示しています。図には、過去の震度7を記録した地震動も示しています。図から、16日の地震動は、古い木造家屋に大きなダメージを与える周期1秒程度の揺れが極めて強く、阪神淡路大震災で甚大な被害となったJR鷹取の記録と同程度の厳しい揺れであることが分かります。また、14日の揺れに比べ倍程度の揺れとなっています。

益城町で記録された地震動の擬似速度応答スペクトルと速度波形
益城町で記録された地震動の擬似速度応答スペクトルと速度波形

連鎖する地震による住宅の損壊

14日の地震で壊れていなかった建物も16日の地震で倒壊したようです。針金を何度も繰り返し曲げると折れてしまうのと同じように、建物も何度も地震の揺れを受けると壊れやすくなります。ただし、益城町の揺れを見ると、1秒前後では16日の揺れの方が14日の揺れよりも明らかに大きいですから、古い木造家屋が多く倒壊したのは納得できます。

一方、0.5秒程度の揺れは、14日の方が16日よりも厳しくなっています。新しい住宅は、古い住宅よりも短周期で揺れやすいので、万一、14日の揺れでダメージを受け、住宅が長周期化していたら、16日の1秒前後の揺れで被害が拡大したことも十分に考えられます。

繰り返す地震への耐震基準のあり方は?

残念ながら、現行の耐震基準では、何度も強い揺れを受けることを想定していません。強い揺れに対しては、多少建物が損壊しても、人命を守れれば良いとしていますが、地震の連鎖を考えると、強い揺れでも損傷を許さない設計を指向する必要もありそうです。

地震の連鎖での避難が命を救った?

一連の地震での益城町の死亡率は0.06%、全壊数に対する死亡者数の比は0.02となっています。一方、阪神淡路大震災による東灘区の死亡率は0.9%、全壊数に対する死亡者数の比は0.11でした。益城町では、東灘区の1/15、1/5と遙かに小さくなっています。低い死亡率の一つの要因は2度の震度7の揺れにありそうです。連続する強い揺れで、損傷を受けた住宅の住民の多くが避難所や自動車に避難してくれていました。最も被害の大きい益城町では2000人弱の人が住宅の外に避難をしていたようです。万一、いきなり16日の揺れを受けていたら、さらに多くの犠牲者が出ていただろうと想像されます。

応急危険度判定には、時間がかかります。被災地の方々には、住宅の傾きや壁の損傷が認められたら、安全と判断されるまでは、避難所などに避難していただければと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

福和伸夫の最近の記事