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忘れがちな水の大切さ、災害への備えは十分?

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

生きるために無くてはならない水

日本は水資源に恵まれた国のため、私たちは水がいつでもあることが当たり前だと思っています。ですが、大規模地震が発生すると、水道管が破断したりして、長期間、水が途絶します。阪神・淡路大震災でも仮復旧に1ヶ月半、全戸通水には3ヶ月がかかりました。東日本大震災でも、地震の1ヶ月後に東京都・金町浄水場の水道水から放射性ヨウ素が検出され、ペットボトルの水が売り切れてしまったことを思い出します。水が無ければ生きていけません。洗面、入浴、トイレ、洗濯にも不自由します。今一度、水について考えてみたいと思います。

水が届くまでの長い道のり

河川などから我が家まで水が届くには長い道のりがあります。まずは、ダムなどの貯水池に水を貯め、その水を河川から取水口から取水し、導水管で浄水場に送って水をきれいにし、さらに送水管で送った水を配水池に蓄え、配水管で各家庭まで運び、止水栓・メータを通って家庭に送られます。この間には、水資源機構、国土交通省、都道府県の企業庁、市町村の水道局など、様々な組織が関わっています。残念ながら、組織間で連携が十分に取れていないのが現状だと思います。また、自治体の水道事業は財政状況が厳しいため、老朽化した水道管の耐震化が遅れているようです。対策度合いは地域によって相当に差があるようです。

停電しても水が届かない

綺麗な水を自然流下させていた時代と違い、現代は、水を綺麗にして送るために、浄水施設、配水池へのポンプアップ、集合住宅での水のポンプアップなど、電気が欠かせません。このため、非常用ディーゼル発電機などの準備が必要となりますが、燃料の確保も含め、十分な対策が取られていないのが現状です。また、水質が変化しやすいため、飲用水は長期間の保管ができません。災害時に重要となる医療活動には水が欠かせません。万が一、災害拠点病院で水が不足すると大変なことになります。また、水が無ければ、消火活動も滞ります。

足りない給水車

断水したときに頼りになるのが給水車です。ですが、給水車の数は1000台くらいです。人口10万人に1台です。小さな災害では全国の給水車が駆けつけてくれますが、広域の災害では、全く不足します。東京都は特に少なくて、10台しかないようです。給水車が不足すると、車に給水タンクなどを乗せて配給することになると思われます。その場合にも、車両と運転手の確保が必要になりますし、道路が通れることが前提になります。

欠かせない水の備蓄

私たちは、普段、一日一人当たり200リットル以上の水を使っています。私たちの体が必要とする水は1日に3リットル程度です。4人家族だと2リットルのペットボトル6本分になります。生きるためだけでも4人家族で1日当たりペットボトル1ケースが必要ということです。都会に住むなら、1週間程度の備蓄は必要でしょう。ただし、これだけの量ではトイレすら使えませんから、常にお風呂に水を張っておくなどの備えもしておかなければいけません。

大災害の後、家の中の掃除をするにも水が必要になります。一度、水が無い生活を想像してみてください。ぞっとします。そこで我が家では、年末に、少し浅めの井戸を掘ることにしました。残念ながら、水質検査の結果、飲用には適さなかったのですが、入浴、トイレ、洗濯、掃除などには使えるのではと期待しています。一人一人できることから、備えを始めたいと思います。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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