Yahoo!ニュース

昔と今、どっちが地震に強い?

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長
(写真:アフロ)

江戸と現代

皆さんは、昔と今とで、どちらが安全な社会とお考えでしょう? 例えば、江戸の元禄時代と今とを比較してみましょうか。

元禄期の我が国の人口は約3000万人、江戸の人口は、100万人くらいだったと思われます。これに比べ、今は、日本の人口は12700万人、首都圏の人口は3500万人、東京の人口は1300万人くらいになっています。日本全体では4倍に、東京は10倍以上に増えていることになります。人が集中すると一旦災害が起きた時の被害は激甚になります。

居住地

かつての集落の場所を見てみると、おおむね、台地の上か、丘陵地の麓、あるいは、自然堤防の上に位置していて、地盤がしっかりした高台に位置していました。このため、揺れは小さく、液状化のる危険も少なかったと思います。自然の怖さが痛いほど分かっていたため、できるだけ安全な場所に住まいを構え、うまく自然と折り合いをつけながら暮らしていたのでしょう。

家屋

また、家屋は平屋の建物が多く、屋根も茅葺や板葺だったようです。このため、家屋内の揺れは、地盤の揺れと同じ程度だったと思います。当然、貧しいので家屋の中には家具もほとんどありませんでしたから、家具が転倒して下敷きになることもありません。農村社会では人が集中していませんから、家屋が隣接することも多くなく、火事が燃え移る危険性は少なかったと思います。

生活

農家が多かったので、職住近接、かまどで煮炊きをし、井戸水を使い、明かりは灯明、便所も汲み取りです。ライフラインの途絶の心配もありませんし、帰宅困難問題もありません。農村社会ですから、地域で協力しないと田植えもできません。このため、住民同士の助け合いの力もしっかりありました。

そして、3世代同居が当たり前で、祖父母から、孫世代に災害教訓もしっかり伝えられていました。

現代社会

それに比べ現代社会はどうでしょうか? 確かに科学技術が進歩し、建物の耐震化も進みました。ですが、山を削り、海や池を埋めてまちを広げたため、災害危険度の高いところに、たくさんの家屋が建つようになりました。人工環境に慣れてしまい、自然の怖さを実感することも減ってしまいました。

家屋が密集し、高層化したので、火災危険度も高まり、私たちが経験する揺れも強くなっています。家屋の中には大きな家具が沢山あり、室内危険度も増しています。まちが拡大したため、高速の交通機関に頼った遠距離通勤、帰宅困難問題も増えてきました。そして、電気、ガス、上下水道が無ければ生きていけません。核家族化し、地域でのコミュニティの力も弱くなっています。

新しい価値観を見つけてみませんか?

南海トラフ巨大地震や首都直下地震を前に、価値観を変えてみてもいいかもしれませんね。高速鉄道の整備が進んでいますので、時間距離はずっと短くなっています。インターネット時代ですから、田舎での在宅勤務もできます。昔の良さを取り戻しつつ現代生活をエンジョイする方法は色々ありそうです。住まいのありかた、生活の仕方など、ちょっと見直してみてはどうでしょう。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

福和伸夫の最近の記事