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Vol.6 ラグビー 今シーズンのNTTドコモが最後まで「ねばり強い」ワケ

福富信也東京電機大学理工学部/(株)ヒューマナジー代表取締役
写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ

今シーズン、ラグビーTOP LEAGUE NTTドコモレッドハリケーンズのチームアドバイザーをしている福富信也です。

このコラムでは、チームワークの強化・チーム力の最大化、いわゆるチームビルディングという立場でレッドハリケーンズをサポートしている私が、”チームは今、どのような課題に直面しているのか” “チーム内にどのようなリスクが潜んでいるのか”、そのうえで ”どのような改善策を処方したのか(するつもりか)” をわかりやすくご紹介していきます。

一般的には、技術・戦術・フィジカル的な要素がチーム強化につながる重要なファクターだと認識されていますが、このコラムでは ”チームワーク” という側面からアプローチしていきます。

そして今回は、ファーストステージ最終節・神戸製鋼コベルコスティーラーズ戦を前に、私からチームへの想いを文章にしてみました。

## 第6節ヤマハ戦直前、選手たちに送った動画メッセージ

写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ
写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ

早いもので2月20・21日に開幕した今シーズンのTOP LEAGUEは、今週末に開催される第7節でファーストステージ終了となります。

皆さんの目に、今シーズンのレッドハリケーンズのラグビーはどのように映っているでしょうか。チームが一体となり最後まで諦めない姿勢、1%の可能性を信じて相手に立ち向かっていく ”ねばりのラグビー” を体感いただけているのではないでしょうか。

チームはここまで6戦して4勝2敗、グループ3位につけています。

レッドハリケーンズが勝利した4試合のうち、なんと3試合が7点差以内の接戦でした。また、最終盤での大逆転勝利が目立ち、ドラマチックな戦いに感動した方々も多いはずです。

さらに、2つの黒星について着目してみると、第4節の強豪パナソニック戦は13-26、第6節ヤマハジュビロ戦は21-33、と大崩れしていないことに気づきます。

昨シーズンは新型コロナウィルス感染症拡大の影響を受け6試合開催してリーグ中止、1勝5敗の成績でした。5つの黒星を見ると、今節対戦するリーグ屈指の強豪神戸製鋼には97-0、前節対戦したヤマハには82-7という屈辱的な大敗を喫しました。このことからも、今シーズンの「ねばり強さ」は際立っています。

実はあまり口に出してはいませんでしたが、大崩れしないチームこそ私の求めていた理想のチーム像です。

勝敗というコントロールできないことに振りまわされてしまうチームは、仮に前半で大きくリードを奪われようものなら、後半になって大崩れします。その理由は ”戦意喪失” とチームの ”空中分解” が考えられます。勝利のみを目的にしているチームは、前半で勝利の可能性が大きく遠のいた時点で戦意を喪失してしまいます。また、得点を奪って一矢報いたいと思い攻撃的になる選手や、これ以上失点したくないと思い守備的になる選手など、チームがバラバラになって空中分解してしまうです。

しかし、コントロール可能なことにのみエネルギーを注ぐよう徹底して意識改革をした結果、今シーズンは見事に変貌を遂げ、大崩れしなくなりました。

「私たちは、応援してくださるサポーターの皆さんに、 ”素敵な体験” を届ける職業なんだ」と繰り返し伝えてきた効果だと自負しています。どんなスコアになっても、最後まで全力を尽くすこと、今できるベストを尽くすことでしか人々に感動を届けることはできません。私は選手たちに言いました。「サポーターは単に試合を観て満足してくれるわけではない。全力を尽くす姿勢に期待してくれているんだ」と。

そこで今回は、第6節(前節)ヤマハ発動機ジュビロ戦当日の朝、私がチームに向けて送った動画メッセージの内容をほぼノーカットで書き起こしてみました。

※動画メッセージの内容につきましては、コラム用に編集しています

筆者提供
筆者提供

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トミです!

日野戦までの5試合、コロナ禍ということもあって、関東に住む僕は試合会場にいける回数が限られていましたが、テレビを通じてレッドハリケーンズの試合を常にチェックしてきました。いつも感動を本当にありがとう。

ここまで戦ってきた5試合、どれも落とすことができない“大切な試合”でした。すべての試合に対して、全力で挑んだ結果、幸運にも一定の勝ち星に恵まれてきたのだと思います。そして、勝ち星に恵まれたチームだけが、”本当に落とせない大切な試合”に出逢う権利を得ることができるのです。僕は長年の経験上、次のヤマハ戦が大一番だと踏んでいます。

仮に、前節の日野戦のように、開始早々にノーホイッスルでトライが奪えたとしても、簡単な試合になるとは限りません。勝利が約束されるわけでもありません。重要なことは、どんな試合展開になっても、外的要因に振りまわされないこと。気負わず、過信せず、意気込み過ぎず、各自がチームから与えられた責任を果たし続けることが重要です。

きっと、試合の流れによってはボーナスポイント(3トライ差以上のトライを獲得したチームに勝ち点1を上乗せ)を獲りたいと思うこともあるかもしれない。でも、その欲がチームの一体感を乱し、連帯を失うきっかけになるかもしれません。

僕だけかもしれませんが、日野戦では、少しだけそんな雰囲気を感じました。幸先よく開始2分でトライが奪えたことで、試合運びにおいて選手間で少しバラつきが出ていたように見えました。結果的には、「簡単な試合は1つもない」ということを学びましたね。

そういう時こそ、大事にしてもらいたいのが「バランスと勇気」という言葉。

試合を手堅く進めるためには「バランス」が大切。しかし、どうしてもトライが欲しいときなどは、ここ一番で「勇気」をもってリスクを負わなければ勝てません。バランスを取り続けていても相手の脅威にはならないからです。

重要なことは、いつリスクを負って、勇気を振り絞るのか、という点です。

選手が個々バラバラにリスクを負ってしまうと統率を失い、逆に隙を与えてしまいます。試合中にチームでしっかりとコミュニケーションを取り、「ここでリスクを負うぞ!」「ここは覚悟を決めよう!」「皆で同じ船に乗ろう!」というように共通認識を図り、15人のパワーを一気に結集させることで、初めて相手の脅威となりうるのです。

その瞬間、ピッチ上の15人だけではなく、ベンチメンバー、ノーゲームメンバー、チームスタッフ、そしてサポーターなどすべての人たちが「勇気」を感じ取り、スタジアム全体が盛り上がります。終盤の苦しい時間帯でも、スタジアムが一体となって選手の背中を押してくれます。

リーグ5戦で4勝をあげた私たち。ここまでを振り返ると、試合終盤で逆転する形が続いてきましたね。サポーターの皆さんは、試合終了のホイッスルの音が鳴る最後の瞬間まで期待してくれています。これは紛れもなく、この5試合で皆が”素敵な体験”を届けられている証しです。

そして、試合に出られていないノーゲームメンバーの存在が非常に大きいと思っています。彼らの熱量はリーグNo.1だと誇りを持っています。ここまでの結果はノーゲームメンバーの熱量のおかげだと思っています。

彼らこそ、見えないところで誰よりも戦っています。彼らは、なかなかリーグ戦出場機会が乏しいだけでなく、コロナの影響で練習試合さえもままならず、モチベーション維持が非常に困難な状況です。それでもチームプレーに徹し、来る日も来る日も苦しいトレーニングを重ねています。ピッチに立つメンバーは、彼らの思いを背負って戦うことが責務なのです。

そして、スタッフを含め、チーム70人がシーズン終了まで走り続け、最後に良い景色を見られるようにと日々共闘しているわけです。

ヤマハ戦、ぜひ悔いのない戦いをしてください。

凡事徹底!

期待しています。

※ノーゲームメンバー:ラグビーは試合に先発出場する15名に加え、ベンチメンバー(交代要員)8人まで、その試合の出場可能選手として登録されます。ノーゲームメンバーとは、対象の試合で登録外となった選手のことを指します

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## このタイミングでメッセージ動画を送ったわけ

写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ
写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ

私が、なぜヤマハ戦を前に動画メッセージを送ったのか ―

私は試合のたびにメッセージ動画を送っているわけではありません。第2節のNECグリーンロケッツ戦以来、今回が2度目でした。理由はシンプルで、この試合を今シーズンの大一番になると判断したからです。「ヤマハは第6節ドコモ戦で、今シーズンのベストパフォーマンスを発揮するだろう」と私は予測し、それを一部のスタッフにも伝えていました。そう予測した理由はいくつかありますが、その一部を以下に挙げます。

・ヤマハはドコモに勝てば3位浮上のきっかけを作れる

・今シーズンのドコモを例年以上に警戒している

・チーム功労者の五郎丸歩選手が引退表明し、一緒に戦える試合が限られている

・今シーズン出場機会が少ない五郎丸選手の先発出場がすでに発表されている

自分たちの順位上昇、ドコモへの警戒、五郎丸選手への敬意など、ヤマハが実力発揮するためのあらゆる好条件が揃ったのが第6節だったのです。そのため、私は五郎丸選手がメンバー入りするかどうか、木曜日のメンバー発表を見届けてからメッセージ動画を作成しました。

対戦相手の事なので推測の域を出ませんが、特に五郎丸選手の先発メンバー入りは大きいのではないかと感じていました。

私が過去に関わってきたサッカー界のスーパースターで、サッカーJ1のヴィッセル神戸に在籍していたダビド・ビジャ選手(元スペイン代表、同国代表の最多得点記録保持者)は、2019シーズン途中の11月13日に突然の引退表明をしましたが、その後、チームはリーグ戦と天皇杯(プロアマと問わず、国内のサッカーチームNo.1を決めるトーナメント形式で開催される大会)を含めて5連勝を記録、そのまま天皇杯優勝まで上り詰めました。

また、20年以上前の話になりますが、1998年に当時Jリーグに所属していた横浜フリューゲルスが経営上の理由から消滅すると報道された10月29日以降、選手たちは署名活動に協力してくれる市民やサポーターへの感謝の気持ちが高まり、「チームの存在価値を証明したい」「この最高のメンバーと1日でも長くプレーするためには天皇杯で優勝するしかない」という一心で戦い、破竹の勢いで公式戦9連勝を記録。最終的に天皇杯優勝を成し遂げました。(天皇杯はトーナメント形式のため、敗退した時点でチーム消滅となることが決まっていました)

阪神淡路大震災のあった1995年、被災地神戸のプロ野球球団オリックスブルーウェーブは、被災地を勇気づけるため「がんばろうKOBE」を合言葉にリーグ優勝(翌年は日本シリーズを制して日本一)に輝きました。

2011年の東日本大震災の被災地、仙台に本拠地を構えるJリーグベガルタ仙台も、J1に昇格して2年目で下馬評は決して高くないなか、「被災地の希望の光になる」を合言葉に開幕から12戦無敗を記録し、チーム史上最高の4位(18チーム中)、翌年はリーグ準優勝まで駆け上がりました。

これらのことからも分かるとおり、「この人(メンバー)と少しでも長くプレーしたい」「この人(メンバー)とプレーできる貴重な時間を大切にしたい」「誰かを勇気づけたい」「感謝の気持ちを示したい」など、価値観・使命感が刺激されることでパフォーマンスに好影響をもたらした事例はたくさん存在します。 ”単なる1試合” 以上の重みと価値を感じる時、チームは潜在能力を発揮するのです。

今回のヤマハは、功労者である五郎丸選手へのリスペクトという、十分過ぎる大義名分があったと考えることができます。

ベストパフォーマンスを発揮してくる可能性のある相手に対し、私たちのやるべきことを再度見つめなおす必要があったのです。

## 「バランスと勇気」でゲームコントロールを

写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ
写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ

勝利することは嬉しいことです。しかし、サポーターの皆さんが本当に欲しているのは単なる勝利ではなく、選手が連帯し、躍動し、それぞれの特徴が混ざりあい、最後まで戦う姿勢を見せてくれることだと私は思っています。本当に感動した試合は、翌日になっても余韻を楽しめます。退屈な勝利など欲していないはずです。

だからこそ、私たちレッドハリケーンズには「このくらい頑張ればいいだろう」という終わりは存在しません。私たちが皆さんに提供したい ”素敵な体験” に終わりはないのです。

今シーズンは、残り10分で相手にリードを許していたとしても、「必ずひっくり返せる」「必ずチャンスはくる」という気持ちで、チームとサポーターが一体となって戦えているのではないでしょうか。ただし、まだまだ圧勝できるような実力が備わっているわけではなく、「どちらに転んでも不思議ではない試合をギリギリでモノにしてきた」という事実を受け入れ、謙虚さを胸に刻まねばなりません。

ここまでを振り返ると、「勝敗」というコントロールできないコトにモチベーションをかき乱されることなく、コントロール可能なコトにのみ関心を持つ、というマインドが根付いてきた実感はあります。大敗することがなくなったことが、何よりの証しです。どんなスコアになろうともサポーターに ”素敵な体験” を届けたいと価値観・使命感が育ってきたように感じます。

先述のとおり、ファーストステージ最終節は昨年97-0という屈辱を味わったリーグ屈指の強豪・神戸製鋼コベルコスティーラーズが相手です。この相手にレッドハリケーンズのラグビーがどこまで通用するか、進化と真価が問われます。

このコラムで繰り返しお伝えてしていますが、大切なのは「凡事徹底」と「脇役の熱量」です。そして、ファーストステージ最終節のあとに行われるプレーオフトーナメント(順位決定戦)への備えも必要な時期になってきています。トーナメント戦では、リーグ戦のように引き分けで勝ち点を分け合うことはできません。必ず勝敗を決する必要があるため、より一層「バランスと勇気」を上手に使い分けるゲームコントロール力が必要となります。

したたかにバランスを取って苦しい時間帯を耐えつつ、試合の流れを読み、タイミングを見計らい、勇気をもってチーム一丸でリスクに挑む決断力を備えたいところです。

## チームの根っこ

写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ
写真提供:NTTドコモレッドハリケーンズ

今回のコラムの最後に、試合に出ていないメンバーについて、もう一度触れたいと思います。

現在のレッドハリケーンズは、彼らがいるからチームが存在します。その重要性は理解しつつも、誰もがピッチに立ちたいと願い続けているのも事実です。

なかなかメンバー入りできない現実を受け入れられず、自己嫌悪に陥ることもあるでしょう。自暴自棄になりそうなことだってあるでしょう。人やモノや環境のせいにしたくなることもあるでしょう。時には、愚痴や文句の1つも言いたくなるでしょう。シーズンも終盤に近づくと、来シーズンのことが頭をよぎり不安に駆られる選手だっているでしょう。毎日想像を絶する厳しいトレーニングをしても練習試合すらない今シーズン、朝起きて気持ちを奮い立たせることが難しい日が続いていることでしょう。

しかし、彼らはそんな弱い自分に打ち勝とうとインテグリティ(高潔さ)を保ち、自らの存在価値を証明し続けるため、必死に戦っています。「花に根」「人に心」、大切なモノは見えないところに存在します。大切なモノは見ようと意識しなければ見えないのです。レッドハリケーンズにとって大切な存在は、試合に出ていない選手たちなのです。

サポーターの皆さん、ぜひ見ようと意識しなければ見えない部分に注目してみてください。今シーズンのドコモの「ねばり強さ」の秘訣が見えるはずです。彼らは、大きな葛藤と戦いながら、自制心と高潔さで日々ギリギリの精神状態のなか戦っています。現在はコロナの影響で練習見学していただくことができませんが、日常が戻ったらぜひスタジアムでは見えない部分にも目を向けていただけると嬉しいです。見えないところで「チームの根っこ」として安定感をもたらす心強い存在に、皆さんも勇気づけられることと思います。

今回のコラムは以上となります。

チームスローガン「PLAY TO INSPIRE」の精神を胸に、凡事を徹底し、諦めない姿勢、勝利の可能性を1%でも高める努力、そしてファーストステージ最終節、強豪神戸製鋼を相手に「バランスと勇気」で立ち向かうレッドハリケーンズにご期待ください。

東京電機大学理工学部/(株)ヒューマナジー代表取締役

横浜F・マリノスコーチを経て、現在は東京電機大学理工学部の教員。 Jリーグ監督に必要なS級ライセンス講習会の講師を務める。2016-17年北海道コンサドーレ札幌(J2優勝、J1昇格)、2018-19年ヴィッセル神戸(天皇杯優勝)、2020-21年ラグビーNTTdocomo(リーグワン参入)、2022-23藤枝MYFC(J2初昇格)、2024年からはFC東京のアドバイザーに就任。 スポーツチームのみならず、大企業から中小企業まで研修実績多数。その他、講演・メディア出演・雑誌連載など。著書→脱トップダウン思考(2019)、チームワークの強化書(2022)など。(株)ヒューマナジー代表取締役。

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