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チームの健康診断

福富信也東京電機大学理工学部/(株)ヒューマナジー代表取締役
(写真:イメージマート)

連載第1回では、「チーム」「チームワーク」「チームビルディング」というキーワードについて、私なりの定義をお伝えしました。また、掴みどころのないチームワークというものを人間のカラダに例えて説明しました。そして、チームビルディングという漠然とした概念を、「人間の健康とお医者さんの関係」でご理解いただきました。

今回は、チームの健康状態をチェックするにはどんな点に着目したらよいか、具体的なポイントについて触れていきたいと思っています。

チーム診断のポイント

私たち人間が健康診断を受けるとき、心電図、採血、レントゲンなどの精密検査をし、まずは正確な情報を収集します。

その結果を参考にしながらお医者さんが診察し、問題があると判断した場合は具体的な治療方針を計画したり、処方箋を出したりしてくれます。

健康に生活を送れているつもりでも、本人の自覚なく病気が進行していることもあります。

それは職場という生命体も同じです。特に気になる点がないからと言って、問題の種がないというわけではありません。

まずはチームの健康状態をチェックし、正しく現状把握することが肝要です。

では、チームの健康診断をする上で、どんなポイントをチェックすればいいのでしょうか。項目は多岐にわたりますが、今回は以下の6つに絞ってご紹介していこうと思います。

①意思決定と納得感 ②リーダーシップ ③フォロワーシップ ④雰囲気    ⑤コミュニケーション ⑥能力の活用

写真:アフロ

<①意思決定と納得感>

チームの意思決定プロセスは非常に重要です。

どのようなプロセスを経て決定したかがメンバーのやる気に大きく影響を及ぼすからです。密室での決定、メンバーへの一方的な押し付けでは実行段階でつまずきます。

皆の合意が取れればベストですが、当然ながら意思決定に時間がかかってしまうデメリットもあり、悩ましいところです。

意思決定までのプロセス、決定事項に対するメンバーの理解度や納得度をチェックする必要がありそうです。

もちろん、理解や納得を得られなくてもリーダーとして押し切らなければならないタイミングもありますが、可能な限り誠実な対話が求められます。

一般的には「意思決定に要する時間」=「判断する人の数」×「判断基準のばらつき」とも言われていますので参考にしてみてください。

写真:アフロ

<②リーダーシップ>

リーダーの影響の与え方はどうでしょうか。トップダウンとボトムアップが比較されがちですが、どちらが良いということは一概に言えず、状況に応じて使い分けることが大切です。

昔と今では求められるリーダー像も変わってきていますし、業種・業態・チーム(個人)の成熟度、平時と緊急時など、状況によって求められるリーダーシップスタイルは異なります。

メンバーもチームも未熟な場合は、優秀なリーダーによるトップダウンで全体の底上げを図るのが有効です。また、非常事態や混乱時には強いリーダーが求められます。

一方で、個やチームが成熟しているのであれば、民主的なスタイルでのびのびと能力を発揮してもらった方が効果的でしょう。

写真:イメージマート

<③フォロワーシップ>

フォロワーシップとは、リーダーをサポートする機能のことです。メンバーの参加度・没入度・役割発揮度とも捉えることができます。

メンバーが、他人事ではなく自分事のように前のめりで、粘り強く仕事に取り組めているかどうかをチェックしてみてください。

その象徴的な行動としては「フォロワーからリーダーへの提案」が挙げられます。

忠実なフォロワーはリーダーにとっては扱いやすい反面、目標達成への意識が薄く、指示をこなすことをゴールと捉えている可能性があります。

目標達成への意識が強いフォロワーは、忠実さだけでなく、時に覚悟と勇気をもってリーダーに提案をすることもあるのです。

写真:アフロ

<④雰囲気>

ムードメーカーはいるか、(良くも悪くも)誰がどんな雰囲気を作り出しているか、雰囲気の変化を意識しているか、雰囲気を良い方向へとコントロールできるメンバーはいるか。

これらの項目は業績と直結しないという印象からか軽視されているように感じますが、実は非常に重要なポイントです。

リーダーの機嫌が悪いと職場全体の雰囲気が硬直することがあります。また、仕事が繁忙期になるとギスギスしてしまうこともあります。

ちょっとした雑談も許されないようなピリピリとしたオフィスの雰囲気ではプラスのアイデアが出てこないばかりか、お互いに気軽な相談もできず、助け合う文化が育ちません。

結果的に、深刻になるまで問題を隠してしまい、大惨事につながることさえ考えられます。

雰囲気の変化をつぶさに感じ取り、ユーモアをもって明るい雰囲気を作り出せるメンバーは貴重な存在なのです。

また、メンバーが自分らしく振る舞えているかも確認しておきましょう。

職場が心理的に安心・安全な場であれば自然と感情表現もできますが、人間関係に不安があれば、笑顔を見せたり、雑談をしたりもできない殺伐とした雰囲気になってしまいます。

写真:アフロ

<⑤コミュニケーション>

発言の仕方はポジティブか、批判・攻撃・文句・嫌味・感情の吐き捨てのような発言はないか、発信に対してリアクションがなく発信者が孤独になっていないか、コミュニケーションが上から下への一方通行になっていないか。

もしそのような状況がみられるとしたら、メンバーのやる気が削がれてしまう大きな原因となります。

また、せっかく勇気をもって発信しても、周囲が何のリアクションもしないとしたら、発信者は孤独で不安になります。良い職場であれば、常にポジティブな言葉が飛び交い、些細な発信にも皆が何らかの反応し合うものです。

また、非言語コミュニケーションも忘れてはいけません。表情や態度はメンバー相互に影響を与え合うものです。

例えば、メンバーの相談に対して、リーダーがパソコン作業をしながら応じているとしたら、その態度からメンバーはどんな印象を受けるでしょうか。常に眉間にしわを寄せていたら、メンバーはどんな印象を受け取るでしょうか?言語を介さないコミュニケーションこそ大切なのです。

写真:イメージマート

<⑥能力の活用>

人は皆、「自分の強みを生かして貢献したい」と願っています。

適材適所で活躍できているかどうかは、やりがいや責任感にも影響を及ぼします。

苦手なこと、押し付けられたことにはモチベーションは上がりません。

メンバーの強みや弱みをお互いに把握し、それを理解した上で特徴を最大化できる環境(人的配置)を作り出すことが大事です。

例えば、個々の長所がぶつかり合ってしまったり、補完関係がなかったりすると、部署内でのチームワークが構築できずにモヤモヤした気持ちになります。

写真:イメージマート

ここまで、思いつくままにチームの健康診断項目を挙げてみました。

良い、悪いという判断をすることが目的ではなく、これらの視点をもって職場を「観察」し、まずは現状を把握することが大事だと思います。

本来これらの項目は不可分であり、それぞれが密接かつ複雑に影響を与え合っているので、どれか1つだけを改善するのは難しいかもしれません。

では、それらを根本的に解決していくにはどうしたらよいのでしょうか。

偽りの平和

人間にとって「風邪は万病の元」と言われますが、組織の場合は「偽りの平和」が万病の元だと思っています。

実は、上記6項目の健康診断項目すべてに関わる部分でもあるため、ここからは「偽りの平和」について簡単に解説していきます。

写真:アフロ

「長い物には巻かれろ」「口は禍の元」「沈黙は金」ということわざのとおり、日本には古くから「権力には逆らわない」「余計なことは言わない」という考え方があります。

思うことがあっても組織の決定には黙って従うことが正解とされてきました。

しかし一方で、「千差万別」とか「十人十色」という言葉もあるように、「人は皆それぞれ違って当然」という考え方もあります。

皆それぞれ違う考えを持っているのに、それを押し殺して黙って従っている状態を、私は「偽りの平和」と呼んでいます。

「もっとこうしたら良くなるのに…」

「私はこれが得意だから任せてもらえたら頑張るのに…」

「なんでこんな決定に従わなければいけないのか…」

そんな不満や疑問が晴れないメンバーたちを権力と威嚇で束ねているようでは、いつまでたっても主体的に仕事をしてくれることはないでしょう。

怒られないため、保身のため、無難なことしかしなくなるのが関の山です。

「失敗を恐れずチャレンジしてほしい」という経営陣の思いとは対極のマネジメント手法と言えます。

写真:イメージマート

心の安全

万病の元である「偽りの平和」から脱却していくために、一体どうしたらよいのでしょうか。

今回はそのヒントとして「心の安全」という処方箋(考え方)をお伝えして締めくくります。

「心の安全」とは、

「こんなことを言ったら馬鹿にされるかも」

「こんなことを言ったら評価を下げられるのではないか」

「余計なことを言って過剰な責任を負わされたらどうしよう」

という不安のない状態のことを指します。

「心の安全」が担保されていれば、率直に対話や議論ができます。

議論の末に重要事項が決定すれば、

「自分も意思決定に関与した」

「意思決定のプロセスを見届けた」

という思いから、責任感も湧いてきます。

自分の意見が採用されたとなれば、なおさら責任感が湧くことでしょう。

「心の安全」を担保するための第一歩は、「人は皆それぞれ違う」という極めて当たり前のことを理解し、威嚇と権力で従わせるマネジメントから脱却することです。

人それぞれの違いを認め、それらを武器にするマネジメント手法を身につけることで、会社全体が自由闊達になり、アイデアに溢れたチームになっていくのです。

次回以降は、「偽りの平和」から脱却するための「心の安全」の重要性とその環境づくりについて、少しずつ論を進めていくこととします。

東京電機大学理工学部/(株)ヒューマナジー代表取締役

横浜F・マリノスコーチを経て、現在は東京電機大学理工学部の教員。 Jリーグ監督に必要なS級ライセンス講習会の講師を務める。2016-17年北海道コンサドーレ札幌(J2優勝、J1昇格)、2018-19年ヴィッセル神戸(天皇杯優勝)、2020-21年ラグビーNTTdocomo(リーグワン参入)、2022-23藤枝MYFC(J2初昇格)、2024年からはFC東京のアドバイザーに就任。 スポーツチームのみならず、大企業から中小企業まで研修実績多数。その他、講演・メディア出演・雑誌連載など。著書→脱トップダウン思考(2019)、チームワークの強化書(2022)など。(株)ヒューマナジー代表取締役。

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