土俵問題 心停止1分ごとに10%救命率低下 医師の視点から

目の前で誰かが倒れていたとき、あなたは対処できるだろうか(写真:アフロ)

この記事の要点は下記です。

・ある報告において、

 心臓が止まると、1分間に10%ずつ救命率が下がる

 心臓マッサージは救命率を改善し、脳の後遺症を減らす

・心臓が止まった人がそのまま死に至るか蘇生するかは、病院に運ばれる前の処置で決まる

・心臓マッサージは誰でもできる!「胸を強く押す」!

市民向け救命処置コース受講のすすめ

 

少し前に話題になった、こちらのニュース。

 

日本相撲協会は、京都府舞鶴市で春巡業を行った際、土俵上でのあいさつ中倒れた同市市長の応急処置にかかわった女性に対し、土俵から下りるよう促したことを謝罪した。大相撲では伝統的に女性が土俵に上がることを禁じているが、人命にかかわる状況でそうした価値観を優先させようとするのは不適切だとの批判が噴出していた。

出典:救命処置の女性に「土俵下りて」、相撲協会が「不適切」と謝罪(CNN)

 

この件については色々な意見があると思いますが、全体を通して医療者として感じたことは、

「心臓が止まったらどれくらい一刻一秒を争うかが、現実味を持って、本当の意味では、世間に伝わっていない」

ということでした。

 

下図のように、病院の外で心臓が止まった場合、とりわけ電気ショックが必要な不整脈があった場合は、1分ごとに救命率が7~10%低下します(※1)。

 

「心室細動による心停止後の生存退院率と心停止から除細動までの時間」※1の論文より抜粋、改変
「心室細動による心停止後の生存退院率と心停止から除細動までの時間」※1の論文より抜粋、改変

 

5分経っただけでも、半分の人が亡くなる

 

特殊な環境でなければ、多くの人は死を身近に感じることは少ないかもしれませんが、人間は生き物であり、必ずどんな人でも、100%、いつかは死にます。1秒前に元気だった人でも、心臓が止まったそのときから、適切な処置がされなければ、本当に亡くなります。

 

そして、総務省の調査では、救急隊が救急要請された現場に到着するまで平均8.5分、病院に収容されるまで平均39.3分かかっています。(平成29年度救急・救助の現況より)

 

つまり、病院の外で心臓が止まった場合、その人が生き延びるか、社会復帰するかは、病院に着く前に、ほぼ勝負はついてしまっています

病院に着く前の処置が何よりも大切であり、その処置は早いほど良いのです。

私は現場で心からそれを実感し、プロである医療者向けに救命処置の指導をするようになりました。

 

救命センターでも、病院に着いてからどんなに沢山の医療者や高度な医療資源を費やしても、心臓が止まってすぐに心臓マッサージがされてこなかった場合は、助からないことがほとんどです。医師は、救命センターで救急隊から心停止患者受け入れ要請の電話が鳴ると、「卒倒した瞬間に発見されているかどうか」「卒倒した瞬間から心臓マッサージがされているかどうか」を必ず確認します。それは、その後の経過が全く違うからであり、最重要な情報だからです。

 

ではどのような処置が必要なのか。心臓マッサージとAEDです。

繰り返しますが心臓が止まってから、1分ごとに救命率が7~10%低下するという報告がありますが、有効な心臓マッサージが行われた場合、救命率の低下を3~4%にとどめることができます。亡くなる方を半分にできるのです。(※1)

 

救命処置は、誰にでもできる

  

目の前で倒れたら、たとえ救命処置講習を受けていなくてもいいので、

「胸のまんなかを強く押す」

これだけでもお願いします(詳しい心臓マッサージの仕方は後述※5)。

今回市長の方が卒倒された原因はくも膜下出血とのことですが、平成28年中の救急搬送人員数のうち、心肺機能停止症例数は12万3,554件、そのうち心原性(心臓に原因があるもの)は7万5,109件と半分以上を占めています(※2)。

 

そして心臓が止まっているとき、その原因が何であろうと、救命に必要な処置は「心臓マッサージ」と「AED」です。(AEDは必要な状態のときに電気ショックがかかるように自動解析装置がついているので、自分で判断する必要はありません。意識のない人が倒れている段階でとにかく素早く持ってきて準備することが大切です。)

 

また、心臓マッサージは、脳神経の機能を保つことに直結します。

 

日本全国の統計から2005年~2012年の病院外での心停止例について解析したところ、一般市民により心臓マッサージがされた場合は、しなかった場合と比較し、脳神経の重症な後遺症がなく生存できる確率が52%高かったのです(※3)。

 

下図で平成28年中の実情をみても、一般市民が心肺蘇生を実施した場合は、心肺蘇生が実施されなかった場合と比べ、一ヶ月後の生存者数、社会復帰者数とも大きく違いがありました(※4)。

 

一般市民が目撃した心原性心肺機能停止傷病者のうち、一般市民による心肺蘇生等実施の有無別の生存率・社会復帰率(平成 28 年中) ※小文字括弧内数値は平成 27 年中数値
一般市民が目撃した心原性心肺機能停止傷病者のうち、一般市民による心肺蘇生等実施の有無別の生存率・社会復帰率(平成 28 年中) ※小文字括弧内数値は平成 27 年中数値

 

また、この土俵問題について、相撲協会は新たに下記の通り見解を示しました。

日本相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)は、緊急時には例外として女性が土俵に上がれるとの見解を改めて示した

出典:「女人禁制 緊急時は例外」 相撲協会が一般の意識調査へ(東京新聞)4月28日

 

医療的な面からいってこの変化自体はいいこととして捉えられますが、下記を伝え続けます。

 

・ ある報告において、

 心臓が止まると、1分間に10%ずつ救命率が下がる

 心臓マッサージは救命率を改善し、脳の後遺症を減らす

・心臓が止まった人のがそのまま死に至るか蘇生するかは、病院に運ばれる前の処置で決まる

・心臓マッサージは誰でもできる!「胸を強く押す」

 

目の前で誰かが倒れた場合、その人の末路はその場の処置で決まります。

日本赤十字社などが市民向けコースを頻回に開いているので、この機会に受講してみてはいかがでしょうか。

 

<日本赤十字社 救急法基礎講習(心肺蘇生・AED)について>

http://www.jrc.or.jp/search/study-link/index.html

上記から各支部(地域ごと)に飛んで講習を探せます。

東京支部の開催予定:http://www.tokyo.jrc.or.jp/application/kyukyu/kiso.html

 

 

※5 心臓マッサージの正しいやり方

日本循環器学会 コール&プッシュ 誰でもできる胸骨圧迫+AEDの蘇生法
日本循環器学会 コール&プッシュ 誰でもできる胸骨圧迫+AEDの蘇生法

日本循環器学会 コール&プッシュ 誰でもできる胸骨圧迫+AEDの蘇生法

押す位置:胸のまんなか(図の緑色の部分)

押す深さ:5cm以上

押す速さ:1分間に100~120回

押したらちゃんと戻す(戻さないと心臓に次の心臓マッサージ分の血が貯められない)

 

 

 

※1Part 4: the automated external defibrillator: key link in the chain of survival. European Resuscitation Council. Resuscitation. 2000;46(1-3):73-91.

※2 総務省HPより:www.fdma.go.jp/html/hakusho/h29/h29/text/2-5-5-2.txt

※3 Nakahara S, Tomio J, Ichikawa M, et al. Association of Bystander Interventions With Neurologically Intact Survival Among Patients With Bystander-Witnessed Out-of-Hospital Cardiac Arrest in Japan. JAMA. 2015;314(3):247-54.

神経学的予後が良好な生存例は、その場にいた人による心臓マッサージありの場合8.4%(6594/78592例)、心臓マッサージなしの場合 4.1%(3595/88720例)であり、オッズ比 1.52(1.45-1.60)

※4 総務省報道資料 平成29年版 救急・救助の現況(2018年12月19日)