この1年余り、新型コロナウイルスの流行により、リモートワークも含め生活サイクル、環境が変わった方も多いのではないでしょうか。健康診断は、身体の様子を定期的にチェックする良い機会です。せっかく受けたのであれば、結果を有効活用していきたいですね。本記事では、健康診断の有効活用のポイントや、特に注意したい項目/数値について、産業医かつ臨床医である筆者が解説していきます。

健康診断の活用 4つのポイント

労働と健康は密接に関連しています。労働により健康が損なわれないよう、また健康状態に応じて働けるよう、健康診断結果をうまく利用したいものです。有効活用のポイントは4つあります。

1 二次検査を勧められたらちゃんと行く

健康診断は、あくまで「スクリーニング」であり、病気がある可能性を探るものです。まずは広く探って、さらに詳しい診察や検査をすることで、確定診断に至り、その病気がどのくらい危険な状態なのか、治療は必要なのか、どんな治療がよいのかなど、調べていくわけです。だから受けっぱなしでは意味がありません。異常があれば、二次検査に行ったり運動や食生活を改善するなど、何かしら行動に移す。これが一番の活用方法になります。

2 動脈硬化リスク5項目はまとめて考える

高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙、の5項目は、該当項目が多ければ多いほど動脈硬化のリスクが高くなります。さらに、年齢が上がれば加齢による動脈硬化も加わりますし、ここに職場での「過重労働」が加わると、脳・心血管疾患の危険性はさらに高まります。5項目のうち1つでも当てはまる場合は、他のリスクはないかをチェック、他にリスクがあれば一緒に改善を目指すことがお勧めです。過重労働については、会社の産業医や労務と相談することをお勧めします。

3 数値は時系列でみる

健康診断は、毎年1回(場合により2回)の受診が義務付けられています。基準範囲からの逸脱が少しであったとしても、もし一年ごとに徐々に悪化している、急に悪化の幅が大きくなったなどがあれば、注意が必要です。職場や受診先が変わっても比較できるよう、健康診断結果は毎年保存しておくと安心です。

4 数値が良くなった原因、悪くなった原因を考える

結果とその原因を考えることの重要性は、健康診断だけではなく、日常生活や仕事も同じですよね。原因がわかれば、今後にも役立ちます。ただし、良くなっている場合はまだしも、悪くなっている場合は、自己判断で結論づけないことが大事です。受診が必要な場合は受診し、原因がわかったらそれに対応する方針をとりましょう。

特に注意したい項目/数値は?

次に、一般的な健康診断の項目について、特に注意すべき結果や数値を解説していきます。中でも生活習慣病に関する項目は、コロナ禍の生活スタイルの変化で影響を受けていることが予想されます。これまで異常を指摘されたことがない方でも、体重が増えたと感じている方、コレステロールの数値が徐々に上がっている方は特に注意して確認いただきたいと思います。

<胸部レントゲン検査(胸部X線検査)>

胸部レントゲン検査は、肺癌、肺結核、肺炎、肺気腫、縦隔腫瘍、心肥大、胸部大動脈瘤(りゅう)など、さまざまな病気を見つけるきっかけとなります。

この検査では肺や心臓、太い血管など重要臓器が多く写りますが、あくまで病気の特徴を見つけるにとどまります。二次検査を勧められたときは、改めて病院で必要な診察や検査を受け、治療方針を検討することが大切です。

<血圧>

高血圧は数値が高いだけでは症状が出ないため、放置されてしまうことも少なくありません。しかし、動脈硬化がじわじわ進んでいくと、症状が出たときには脳卒中や心筋梗塞など重い病気として発症することがあるため、日頃の管理がとても重要です。

日本における男女計7万人ほどの研究で、年齢によらず血圧は脳心血管病死亡と関連があること、さらに、若い年齢層でその関連がより強まることが指摘されています(文献1)。

画像制作:Yahoo! JAPAN
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その指摘を表したのが上の図です。どの世代も血圧と脳心血管死亡のリスクに関連がありますが、特に働く世代の「中壮年者」は高齢者と比べ、血圧が高くなるほど死亡リスクも高まる傾向が強いことがうかがえます。

さらに、血圧は将来の認知症や日常生活のしにくさ(ADL低下)と関連していることがわかっています。下の図は、血圧が高くなるほど、そうしたリスクも高まる傾向を示しています。将来元気な状態で長生きしたい場合は、血圧は最も気をつけたい体の指標のひとつといえます。

画像制作:Yahoo! JAPAN
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<血糖>

糖尿病は、血糖値や、過去1〜2カ月前の血糖値を反映しているHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)という項目でチェックします。

健康診断の項目において、血糖値(空腹時血糖が126 mg/dL以上、随時血糖が200 mg/dL以上)とHbA1c(6.5%以上)の両方があてはまる場合、またはどちらか一方だけの場合でも糖尿病の典型的な症状や糖尿病網膜症があれば、糖尿病の診断となります。

糖尿病は神経、目(ときに失明)、腎臓、壊疽(えそ=足の感染と腐敗など)、心血管疾患、などさまざまな影響を及ぼす全身に関係する病気です。少なくとも上記の数値のどれかにひっかかるようであれば、通院を開始することをお勧めします。

血糖値が非常に高い(300 mg/dl以上など)か非常に低い状態は、昏睡(こんすい)状態、果ては命に影響を及ぼすこともあり、職場で業務調整が検討されることもあります。

<脂質>

脂質は、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド、TG)でみます。LDLコレステロールやTGが高ければ高いほど、HDLコレステロールが低ければ低いほど、動脈硬化が進みやすくなります。

まず、極端に数値が高い状態(LDL-C 200mg/dL以上など)が続く場合は、やはり動脈硬化性疾患(脳卒中や心筋梗塞など)のリスクが懸念されるため、過重労働をさけるよう業務制限が検討されることもあります。また、中性脂肪(TG)が非常に高い(500mg/dl以上)と膵炎(すいえん)のリスクが高まるので注意が必要であり、これも受診を強くお勧めします。

上記の数値より低くても治療は必要ですし、その他の危険因子(高血圧、喫煙、糖尿病、心筋梗塞などの家族歴の有無など)によってどれくらいの数値を目指すべきかが異なってくるため、数値に何かしらの異常があれば受診を検討してください。

ちなみに、日本動脈硬化学会から一般向けに「冠動脈疾患発症予測ツール これりすくん(https://www.j-athero.org/jp/general/ge_tool/)」のアプリやウェブ版が出ており、参考になります。

日本動脈硬化学会「冠動脈疾患発症予測ツール」データ入力後の結果画面の一例
日本動脈硬化学会「冠動脈疾患発症予測ツール」データ入力後の結果画面の一例

なお、コレステロール値は生活習慣の影響を受けますが、遺伝的な要因による「家族性高コレステロール血症」というものがあり、この場合はリスクがとても高く、男性では20代から、女性では30代から心筋梗塞の発症が起こりえます。若いのにLDLコレステロールが180 mg/dl以上の方はこちらが考慮されます。

<肝機能>

肝機能は主に、GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTP、ALPの結果からみます。脂肪肝、ウイルス性肝炎、アルコール性肝障害、肝硬変、総胆管結石、胆管炎、薬剤などでこれらの数値に影響が出ます。肝細胞癌の約70%がウイルス性肝炎(B型あるいはC型)の既往歴があり、また、脂肪肝、アルコール性肝障害も肝細胞癌の要因と考えられています。健康診断をきっかけにこれらの病気が見つかればその段階で、癌になる前に治療を始めることができます。肝細胞癌も、ある程度は予防が可能なのです。

<体重>

体重が年々増えて基準範囲を超える場合は、生活習慣の是正が必要であり、保健指導が検討されます。コロナ禍の運動不足や食習慣の変化により、今年は体重が大幅に増加してしまった、という方も少なくないのではないでしょうか。

肥満と死亡についてはよく研究されており、BMI (体格指数=体重kg÷身長m)22.5〜25の「標準体重」の死亡リスクがもっとも低く、BMIが上がると死亡リスクも上昇したという報告もあります(文献4)。BMIには筋肉量や脂肪量の割合などは加味されていませんし、解釈に注意が必要ですが、傾向をつかむのには参考になる結果です。肥満を改善することで、血圧を下げたりHbA1cを適正にしたり、コレステロール値が改善したり、良いことがたくさんありますので、健康診断をきっかけに減量を試みるのも良いかもしれません。

一方、意図的な体重コントロール(ダイエット。食生活の改善や運動など)をしていないのに体重が減っている場合(目安として6~12カ月間に5%以上。体重60kg±1〜2kgの方が、57 kg±1〜2kgになるなど)は、癌や糖尿病、甲状腺機能亢進症、うつ病などの可能性が考えられるため、健康状態の確認が勧められます。

<貧血>

貧血は主に、Hb(ヘモグロビン)の値をみます。貧血は、出血、栄養欠乏、血液の病気、慢性の病気、女性では婦人科の病気などが原因となって起こります。異常がある場合は、内科と婦人科の受診を検討しましょう。

動悸、息切れ、易疲労感など自覚症状がある場合には要受診ですし、数値がかなり低い場合(8mg/dL以下など)ではめまいが出現することもあり、転倒による二次被害(頭を打つなど)の可能性があるため早めの対応が必要です。

<心電図>

心電図では、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞など)、不整脈などがわかります。ただし、心電図検査は検査しているその時だけの心臓の状態を表しており、異常を100%キャッチできるわけではありません。動悸や胸痛の症状がある場合は、心電図で異常がなくても受診しましょう。心電図の結果で二次検査を勧められた場合は、内科(特に循環器内科)の受診がお勧めです。

精査の結果、失神や心臓突然死のリスクがある場合は、運転事故や転落事故につながる可能性のある業務は危険なため、業務調整が行われる可能性があります。

また、心臓病の種類によっては、長時間労働や深夜業務が病気に悪影響である場合があるため、これも業務調整の対象となる可能性があります。

以上、一般的な健康診断の各項目のまとめになります。

二次検査で命拾いしたケースも

繰り返しになりますが、基本的には健康診断の結果で二次検査を促されたら、医療機関を受診しましょう。筆者は最近、健康診断がきっかけで大動脈瘤が見つかったという働き盛りの方を診療しました。大動脈瘤はひとたび破裂すると体の中で大出血となり、突然死するリスクのある病気ですが、破裂や解離(血管が裂けること)に至るまで無症状で経過し気づかれないことも多く、健診で見つかることは珍しくありません。健診から二次検査を受けたことで、大げさではなく命拾いしたケースといえます。

健康診断を受けて何もしないのはもったいないです。健康は大事な資産ですから、健康診断をぜひ活用し、ご自愛いただければ幸いです。

<参考文献>

1) Fujiyoshi A, et al.; Observational Cohorts in Japan (EPOCH- JAPAN) Research Group. Blood pressure categories and long- term risk of cardiovascular disease according to age group in Japanese men and women. Hypertens Res. 2012; 35: 947-953.

2) Ninomiya T, et al. Midlife and late-life blood pressure and dementia in Japanese elderly: the Hisayama study. Hypertension. 2011; 58: 22-28.

3) Hozawa A, et al.; NIPPON DATA80 Research Group. High blood pressure in middle age is associated with a future decline in activities of daily living. NIPPON DATA80. Hum Hypertens. 2009; 23: 546-552.

4) Di Angelantonio E, Bhupathiraju SN, Wormser D, Gao P, Kaptoge S, de Gonzalez AB, et al. Body-mass index and all-cause mortality: individual-participant-data meta-analysis of 239 prospective studies in four continents. The Lancet. 2016;388(10046):776–86.

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】