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セレブと取り巻きで盛り上がる 音声SNS「クラブハウス」5つの特徴

藤代裕之ジャーナリスト
音声SNS「クラブハウス(Clubhouse)」の特徴。筆者作成

音声SNS「クラブハウス(Clubhouse)」が話題を集めています。起業家や投資家から利用が始まり、タレントやモデルなどが自身のソーシャルメディアで紹介して注目度が上昇。大学生に聞いてみると、数日前にはサービス名も知らなかったが、今は利用に必要な「招待」を求めるメッセージが飛び交っているとのこと。

「クラブハウス」は、飲み屋の雑談のようなサービスで、コロナ禍で忘れていた楽しさを味わえますが、TwitterやFacebookといったこれまでのソーシャルメディアとは大きく異なる特徴を持っています。筆者は『ソーシャルメディア論』(青弓社)を編集し、ソーシャルメディアの歴史などをまとめましたが、正反対とも言える特徴には驚きすらあります。

1.クローズド(オープン)

「クラブハウス」はソーシャルメディアの特徴であるオープンであることを否定しています。ルーム(room)と呼ばれる部屋をつくり、そこで会話をしたり、聞いたり、できるので同じようにオープンだと思うかもしれませんが、同意を得ることなくルームの記録はできません。また、オフレコは守るということも規約に定められています。

ソーシャルメディアは話題の共有が最大の魅力であり、それが伝播していく構造がありますが、ルームにいる人以外には共有を禁止にしているのです。利用規約の禁止事項を紹介した上記の記事では、「人の口に戸は立てられないのでは?」と疑問を投げています。確かにその通りなのですが、この規約にこそ「クラブハウス」の特徴が凝縮されていると考えます。

2.ピラミッド(フラット)

次にフラット。これもソーシャルメディアの大きな特徴です。フラットな構造を持つからこそ、有名人の投稿に絡むことも可能ですが、「クラブハウス」では利用者同士の関係性の構造がまるで異なります。

「クラブハウス」は、モデレーター(司会)、スピーカー、リスナーと大きく3つの役割に分かれています。モデレーターには大きな権限がありルームをコントロールできます。リスナーは、手を上げてスピーカーに立候補できますが「無視」も可能です。スピーカーをリスナーに移動させたり、ルームから退出させることも可能です。モデレーターに認められ、許されなければ、発言の機会はありません。

ルームは、六本木のクラブのVIPルーム(行ったことないですがw)や文壇バーのようなものです。この2つは違って見えるかもしれませんが、実はその構造は同じで、有名人が勝つということです。そこそこ有名であっても、さらに大物の芸能人や著名な作家がくると、席を移動するハメになります。それが嫌ならお店を出ていくように、ルームを退出するしかない。普通のお客さんは、そういう有名人を遠巻きにしつつ、その会話に聞き耳を立てるのです。

3.メインストリーム(オルタナティブ)

インターネットのカルチャーは、ヒッピーとハッカーの理想が交じり合って形成されたと言われます。反権威主義的で自由を尊重するそのカルチャーが、オープンでフラットなサービスを生み、オルタナティブ性を有してきました。

これまでのソーシャルメディアは一部の人に熱狂的に支持され、それからメインストリームへと駆け上がるという成長プロセスを見せてきました。インスタグラマーやユーチューバーという有名人も生まれました。動きは周縁から中心へでした。

しかしながら、「クラブハウス」はオルタナティブではありません。アメリカでは俳優やミュージシャンなど「セレブ」の利用で話題になり、日本でも起業家や投資家から盛り上がったのも、リア充で、ウェイな人たちが楽しむものだからです。動きは中心から周縁へです。

起業家や投資家から盛り上がったことに違和感があるというコメントも見られますが、圧倒的に違うのは、起業家や投資家がビジネス性をプレゼンするのではなく、面白がって率先して使っていることです。「クラブハウス」は時間を溶かすサービスです。にもかかわらず多くの起業家や投資家がルームを開き続けています。忙しいのに六本木のクラブに入り浸るIT社長そのものです。

4.実名(匿名)

プロフィールは実名が推奨されており、招待を受けるには携帯電話番号が必要です。誰から招待されたかも表示されます。これも、興味や関心でつながるTwitterのようなソーシャルメディアとは異なる点です。リアルな人間関係とダイレクトに結びつき、誰から招待されたかが一部で話題になっていました。リアルでは誰の紹介かが差を分けることがあります。有名人や常連からの紹介だと予約がとれる人気店も珍しくありません。

5.有名(技能)

Twitterは文字、Instagramは写真、YouTubeは動画、いずれも技能が必要です。この技能が興味や関心でのつながりを支えていました。「クラブハウス」では、有名であることが重要です。その上で、モデレーション力や面白い会話という高い技能が求められます。

ピラミッドと言いましたが、スクールカーストという表現が良いかもしれません。いつも教室の話題の中心にいて、いろいろな人に話題をふり、盛り上がっている人たちがいます。そこには、ギャラリーを意識しながら、内輪で盛り上がる気持ちよさがあります。時々、聞き耳を立てているクラスメイトを会話に参加させ、また内輪に戻る。飲み屋なら「飲み屋で有名人に会ってさー、話できたんだ」と自慢話ができる。そんなサービスが「クラブハウス」です。

■人気の理由を推測する

「クラブハウス」の人気は、冒頭でも述べたようにコロナ禍における雑談への餓えにタイミングよく登場したこと。注目を集めたい有名人(セレブ)と、そこに加わりたい人たち(取り巻き)、面白い話や有名人の話は聞きたいけど自分は話したくない人たち、という顧客のインサイトを見事に突いたことが理由として挙げられるでしょう。

「クラブハウス」が否定している5つの従来ソーシャルメディアの特徴は、魅力として語られていたものです。しかし、オープンでフラットであることは、言葉尻をとらえる揚げ足取りや自説開陳のために絡んでくる利用者も生み、発言をすることは有名人にとっては大きなリスクになっていました。ソーシャルメディアは、誰もが発信できるツールですが、発信の圧力も強まります。「クラブハウス」のコミュニティガイドラインには、スピーカーになるように誘われても応じる義務がないと書かれています。

オープンで、フラットな、発信ツールであるソーシャルメディア疲れも人気の要因かもしれません。

■破壊するか、破壊されるか

これまでのソーシャルメディアの特徴を否定している「クラブハウス」は、流れを変える破壊的なサービスになることも、ソーシャルメディアの従来の特徴に破壊されることもあり得るでしょう。いくらクローズドであることが規約に定められているとはいえ、「人の口に戸は立てられない」ので、オフレコ発言が流出して問題になることは容易に想像できます。有名人や政治家がヘイト発言を繰り返している場合に、どう対処するかという問題もあるでしょう。アメリカでは既に問題が指摘されています。

クローズドでその場限りの会話を楽しめる安心感と、利用者が増えて多くの人が利用していくという、二兎を追うことができるのか。それとも変容していくのか。注目していきたいと思います。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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