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『腐ってやがる。早すぎたんだ(就活時期が)』卒論や研究を重視するなら、せめて4年の夏以降に

藤代裕之ジャーナリスト
(写真:森田直樹/アフロ)

2022年春入社から「就活ルール」を通年採用とする方向で経団連と大学の間で議論が進んでいます。報道によると、両者がまとめる報告書には「卒業論文や研究の成果も重視すべき」との文言も盛り込まれるとのこと。繰り返し、大学は勉強するところ、と訴えてきたので、ぜひ「学業重視」を進めてほしいと願っているのですが、いくつか懸念があります。

本当に企業は「学業重視」に変われるか

経団連の中西宏明会長は、2018年9月の定例記者会見で下記のように、これまでの企業側の採用方針について発言しています。

現在の大学教育について、企業側も採用にあたり学業の成果を重視してこなかった点は大いに反省すべきである。学生がしっかり勉強し、企業がそうした学生をきちんと評価し、採用することが重要である。

出典:定例記者会見における中西会長発言要旨

しかしながら、経団連が行った「2018年度 新卒採用に関するアンケート調査」によれば、選考にあたって特に重視した点(20項目から5つ選択)は、16年連続でコミュニケーション能力が1位(82.4%)、主体性が2位(64.3%)、チャレンジ精神が3位(48.9%)。履修履歴・学業成績は18位で、たった4.4%しかないのです。

中西会長は記者会見で、企業側に「AI人材」「グローバル人材」といった抽象的な表現ではなく、具体的なスキルや勉強分野を明確に示す必要があるとも指摘しているのですが、これまでの「コミュニケーション」が「AI人材」などのバズワードに変わるだけという可能性はあり、経団連の会員企業が「学業重視」に変わることができるのか、楽観はできないところです。

通年採用で「燃料(資金)」が燃え尽きる

学生の話を聞いていると、すでに就活は通年採用化しており、春の一斉スタートでうまく行かなくても、しっかり続けていれば希望職種や業界に入れることが多くなっています。

ただ、就活を長く続けるということは、当然ですがアルバイトや学業に影響が出ます。特に深刻なのが、アルバイトです。

何度も指摘していますが、学生の経済状況は非常に厳しい状況にあり、通年採用はお金を持った学生しか最後まで戦えない「死のロード」になる可能性があります。また、地方学生にとっても、何度も本社のある都市部に移動することで負担が増大し、不利になることが懸念されます。

私立大学生への仕送り額が、過去最低になり、1990年度には2,460円だった1日あたりの生活費が、2018年度は677円となったことが、4月3日に東京地区私立大学教職員組合連合(東京私大教連)の調査結果から明らかになりました。

出典:私大生「1日の生活費677円」は貧困世帯の話ではない。調査の世帯年収は939万円

「就活ルール」を無視し、三年生のインターンシップから採用を行っている企業も多く、学生からするとインターンの参加は必須となっています。無給インターンに複数参加すると、その時点で就活費用が尽きてしまう学生も出るでしょう(インターンシップを否定しているわけではなく、ミスマッチを減らすためにも、自分の研究と社会の接点を考えるためにも、有益だと考えています)。

できれば卒業後、せめて4年の夏以降に

日本経済新聞は、通年採用の一方で、まとめて選考する方式も残りそうと伝えています。

まとめて選考する方式は、就活費用に余裕がなかったり、地方大学で学んだり、する学生には一定のメリットがあります。しかしながら、春スタートの就活では「学業重視」を判断することはできないはずです。

通年採用が広がる中で、春に一定の数の学生をまとめて選考する方式も併存しそうだ。新入社員を計画的に確保したい企業も多いためだ。

出典:経団連、通年採用へ移行 新卒一括見直しで大学と合意 (日本経済新聞)

「学業重視」が掛け声に終わり、通年採用という名のもとに単に時期が前倒しされるだけの結果に終われば、真面目に学びに打ち込んでいる学生が不利になってしまいます。

『腐ってやがる。早すぎたんだ』とは「風の谷のナウシカ」で、巨神兵の復活を急ぎすぎた結果、ビームを発射するとまもなく肉体を崩落させるシーンの台詞です。前倒し採用は、巨神兵同様に、インスタントな人材を生んでいないでしょうか。

学生の問題意識が明確になり、学びを深めていくには一定の時間が必要です。卒業後に採用を、と言いたいところですが、まとめた選考が残るなら、せめて4年の夏以降にしてもらえると、学びを通して成長した学生を送り出すことができると思います。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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