脅威が増す欧州の「ハイブリッド戦」対策センター参加国は倍増

フランスのイエローベスト運動の背後にもロシアの存在が指摘されている(写真:ロイター/アフロ)

フェイクニュースによる世論操作やサイバー攻撃などあらゆる手段を駆使した「ハイブリッド戦」への対応が、次期防衛大綱に盛り込まれたが、その対策は多岐にわたる。一足早く「ハイブリッド戦」の脅威に直面するヨーロッパでは、欧州連合(EU)と北大西洋条約機構(NATO)が設置した「ハイブリッド脅威対策センター(The European Centre of Excellence for Countering Hybrid Threats)」の参加国が倍増している。

イエローベストの背後にロシア

「フランスで起きているイエローベスト運動の動きを見ても、ロシアが背後にいることは明白だ」。調査に対応してくれたディレクターのヴィトゥタス氏は説明してくれた。

同センターは、2017年にフィンランドの首都ヘルシンキに設置され、予算はフィンランドが半分、残りを参加国が負担する。職員は21人で、専門家との連携や政府関係者へのトレーニングを行っている。参加国の経験を共有し、「ハイブリッド戦」対策の実践者のスキルアップを図る。

「ハイブリッド戦」が注目されたのは2014年のウクライナ危機・ロシアによるクリミア併合だ。その後も、2016年のイギリスのEU離脱、2017年のフランス大統領選挙、カタルーニャ独立住民投票、とロシアの関与が明らかになっている。

「ようやく、選挙などを前に『何か対策をしなくては』と考え始めた国もある。これはウクライナだけの問題ではないのだと…ハイブリッド戦の脅威は増しており、今後も加わる国は確実に増えるだろう」(ヴィトゥタス氏)

スタート時に9カ国だった参加国は、現在20カ国に倍増、さらに増える見込みだ。

工場をリノベーションした「ハイブリッド脅威対策センター」の入る建物=ヘルシンキ、筆者撮影
工場をリノベーションした「ハイブリッド脅威対策センター」の入る建物=ヘルシンキ、筆者撮影

多面的なハイブリッド脅威の対策

ソーシャルメディアを通した世論操作などは、軍事的な攻撃と明確に位置づけることが難しい。昨年末に改定された次期防衛大綱にも下記のように「ハイブリッド戦」が言及されている。

「ハイブリッド戦」のような、軍事と非軍事の境界を意図的に曖昧にした現状変更の手法は、相手方に軍事面にとどまらない複雑な対応を強いている。

出典:防衛計画の大綱(平成31年度以降に係る防衛計画の大綱)中日新聞

そのため、EUとNATOは同センターをフィンランドに設置するだけでなく、「ハイブリッド戦」対策のターゲットであるロシアと隣接するバルト三国にも関連する機関を設置している。

エストニアのタリンには、サイバー防衛センター(NATO Cooperative Cyber Defence Centre of Excellence)が、リトアニアのビリニュスにはエネルギー安全保障センター(NATO Energy Security Centre of Excellence)がある。フェイクニュースのデータ収集は、ラトビアのリガに設置されている戦略的コミュニケーションセンター「StratCom(Strategic Communications Centre of Excellence )」が担う。

バルト三国が、エネルギーのロシア依存を脱するための取り組みを2017年に朝日新聞の村山祐介記者がレポートしているが、これもひとつの「ハイブリッド戦」対策と言えるだろう。

長期的な対策はメディア・リテラシーの向上

同センターが注視するのは民主主義の根幹である選挙だ。欧州議会選挙に加え、リトアニア、デンマーク、スペイン、ルーマニアなどEU各国でも選挙が行われる。どのように「ハイブリッド戦」の脅威に対応していけばいいのだろうか。ヴィトゥタス氏は2017年のフランス大統領選挙を挙げた。

「防衛省、外務省、セキュリティ機関、選挙管理委員会、ジャーナリスト、などの間で戦略的コミュニケーションがあり、対応しているぞという明確なメッセージを送ることができた。ターゲットになることが予想されていたマクロンチームにはブリーフィングを行い、直面する課題を共有することができた」(ヴィトゥタス氏)

また、長期的な対策としては「長期的には市民のメディア・リテラシーの向上が有効だ」と述べた。

このように「ハイブリッド戦」への対応は、フェイクニュース、サイバーセキュリティ、エネルギー、各機関の連携、市民のメディア・リテラシー向上まで含まれ、多岐にわたる対策が必要となる。

【この記事はJSPS科研費 JP18K11997(ミドルメディアの役割に注目したフェイクニュース生態系の解明)の助成によるものです】