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ネットメディアの信頼向上に向け団体設立へ、ガイドライン設定を目指す

藤代裕之ジャーナリスト
(仮称)インターネットメディア協会の設立準備に向けた記者会見=講談社

フェイクニュースが社会的な課題となる中、インターネット情報の質向上を目指そうと(仮称)インターネットメディア協会(JIMA)の設立準備に向けた記者会見が2月26日、東京都内の講談社で行われました。発起人9人を代表し、古田大輔BuzzFeed Japan創刊編集長が「(DeNAの)ウェルク事件、アメリカ大統領選におけるフェイクニュースの議論などを受け、我々自身が主体的に行おうと1年以上前から有志で議論してきた。コンテンツプロバイダやプラットフォームすべてを対象にしている」と経緯を説明しました。

「グーグルやフェイスブックの感触はどうか。ビジネスの側面もあるので、プラットフォームと対峙することもあるのではないか」との質問に対して、古田創刊編集長は「具体的な社名はご迷惑がかかるかと思うが、ネットメディアの時代にプラットフォームが果たす役割が非常に大きい。議論に参加してもらいたい」。マスメディアの参加が毎日新聞1社だったことについて「ネットでは、新聞社、テレビ局、出版社が発信している情報が読まれている。ぜひ入って頂きたい」と回答しました。

JIMAでは、発起人で事務局を整備し、6月ごろまでに正式に協会を立ち上げる予定です。協会は、インターネット上での情報発信の参考になるガイドラインを設定し、加盟団体が遵守することで、インターネット情報の質やネットメディアの信頼性向上を目指すとしています。会見を行った発起人、それぞれのコメント、質疑は以下の通りです。

発起人(50音順)

・小川 一(おがわ はじめ)毎日新聞取締役・編集編成、総合メディア戦略担当

・長田 真(おさだ まこと)DIGIDAY[日本版] 編集長

・工藤 博司(くどう ひろし)J-CASTニュース編集委員

・阪上 大葉(さかうえ ひろは)現代ビジネス 編集長

・竹下 隆一郎(たけした りゅういちろう)ハフポスト日本版 編集長

・藤村 厚夫(ふじむら あつお)スマートニュース株式会社 執行役員 メディア事業開発担当

・古田 大輔(ふるた だいすけ)BuzzFeed Japan創刊編集長

・楊井 人文(やない ひとふみ)GoHoo(ゴフー)編集長

・山田 俊浩(やまだ としひろ)東洋経済オンライン編集長

各発起人からのコメント(抜粋)

小川「フェイクニュースが地球を覆い尽くすような時代になるとは思っていなかった。フェイクニュースは社会を根底から腐らし、時代を根底から揺るがすもので、中世のペストに匹敵するパンデミックではないか。一社だけではダメで、メディアが連帯することで状況を変えることができる」

長田「先週末に電通が発表した日本の広告費2017では、6兆3,000億円のうちネットは1兆5,000億円となっているが、フェイクニュースやアドフラウド(Ad Fraud/広告詐欺)が広がって問題になっている。メディアである我々が正していかないといけない」

工藤「様々なジャンルの記事を掲載しているが、間違わないという基本的なところはどういった分野でも大事なことだと考えている。今日は発起人として登壇しているが、今後は媒体としても関わっていきたい」

阪上「出版社もウェブへの進出は盛んになっている。出版社は独立気質が強くて、議論に参加することは嫌う風潮があった。清濁併せ呑んだ議論が必要だろうが、出版社からは濁の部分からも議論をしていきたい」

竹下「フェイクニュースという言葉は、アメリカトランプ大統領の攻撃、ロシアによる国家的なプロパガンダにより、メディアの言葉から政治の言葉になっている。フェイクニュースという言葉を、ネットを良くしていくための言葉として取り戻していく必要がある」

藤村「流通の責任から逃れることはできない。コンテンツの扱いに迷うことも度々あり、社内ガイドラインを運用しているが、広くネットメディアに関わる、コンセンサスの下で取り組むのがより良いだろう。スタンダードを議論するなかで、正しいアプローチができればいい」

古田「(DeNAの)ウェルク事件後に色々な人と話すなかで、ネットの情報発信がうまくできてない部分があるのではないか、信頼できる情報を発信するため、ガイドラインを議論し、発表する団体が必要なるのではないか、となった」

楊井「3.11東日本大震災の後に、何が正確で、何が信頼できる情報なのか、国民が疑心暗鬼になった。ネットにどんどん新しいメディア、発信の担い手が増えている。報道の質は、正確な情報を伝えるのが大前提だが、非常に難しい。ネットメディア、レガシーメディアの垣根を超えて、共通のガイドラインを作っていくというのは、メディアの歴史で画期的な動きではないか」

山田「メディア業界のための団体ではなく、読者のためになることをやっていこう。メディアは各社ライバルで、信頼されるために日々勝負をしている、高みを目指していけばいいが、読者から見るとネットメディアの構造は分かりにくい部分がある」

主な質疑

Q、ガイドラインの中身をもう少し詳しく教えてください。

古田「ガイドラインは情報発信に関する基礎的なことになる。我々がネット上の警察になるのはやめて、クオリティを判断をしないようにしようというのは共有している」、山田「公開停止のガイドラインもあり得る」、竹下「他媒体の訂正の方法も見ている」

Q、スケジュールのイメージがつきにくいのですが。マスメディアは毎日1社だけ、国内のニュース流通に大きな影響力を持つヤフーもここにいませんが。

古田「協会は6月ぐらいまでに発足、足腰がきちんとしたら個人にも呼びかける。今日は、立ち上げ準備会の会見なので、協会が存在しない段階なので、人が集い、加盟資格をつくり、媒体が参加していくことになる」

Q、(ガイドラインなどの浸透を)どのように働きかけていくのでしょうか。

藤村「協会に参画したり、ガイドラインを遵守していくことにより、信頼ができるメディアの境界線を持っていければいい」、古田「ガイドラインがあるなら教えて欲しいという声もある」

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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