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オート三輪車が救う!アフリカの妊産婦の現状

藤村美里TVディレクター、ライター
オート三輪車が母子の命を救う(写真:Miki Tokairin/JOICFP)

ガーナ共和国イースタン州コウ・イースト郡。乾いた赤土のデコボコ道で、首都アクラから車で4時間かかる農村部だ。

アフリカでは今でも、15歳前後で出産する女性が少なくない。この地域も同じで、15歳前後で初めての出産を経た後、10人ほど産む女性もいるという。

若すぎる年齢に、多すぎる出産回数。それだけでも妊産婦のリスクは大きいのだが、森林地帯で川や湖もあるこの地域は、複雑な地形が住民の移動を困難にしている。

医療施設に辿り着けない妊産婦たち

この地域では、ガーナ国内でも特に保健施設へのアクセスが悪く、国際基準である最低4回の産前健診受診率は41%(目標は85%)、医療従事者の立会いによる出産の割合は38%と国平均の半分にも達していない。また、産後ケアを受けたことのある母子も4割ほどにとどまっている。(保健局の統計・2014年)

経済的に自立しておらず、夫の要求を拒否できないため、子どもの数が多い
経済的に自立しておらず、夫の要求を拒否できないため、子どもの数が多い

これでは、妊娠・出産に伴う合併症への対応の遅れにもつながり、母子の健康が損なわれるリスクも高くなってしまうため、日本のNGO団体であるジョイセフ(JOICFP)などが支援を続けている。

今月下旬、現地を視察した竹村真紀子さんは、インフラなど他の政策が優先され、女性たちの命が後回しにされている現状を目の当たりにしていた。

「ガーナの首都・アクラの中心部は物も溢れていて、ホテルも快適でした。しかし、都市部から4時間ほどの村では、14歳で子どもを産み、教育も受けられず、村から出られない女性達がたくさんいました。『子どもを産む』という未来を作る大切で大変なことにも、女性達の安全は考えられておらず、クリニックへのアクセスがないために、危険な自宅出産をしています。しかも、その自宅と言うのも、庭の砂の上だったりするのです。」

竹村さんは、小・中学生を対象に『Little Ambassadors』という教育事業を行っている。その子ども達にこのアフリカの現状を話したところ、「自分も産まれた後すぐNICUに入っていたから寄付をしたい」「子どもの頃に心臓病の手術を受けているから、赤ちゃんには病院で産まれてほしい」と子どもたちが自発的に自分のお小遣いを寄付したという。その結果、クラウドファンディングは達成され、ジョイセフを通じて『Little Ambassadors』というロゴが入ったオート三輪車が寄贈された。

「出産後、出血が止まらなくてもギリギリまで我慢して、意識をなくして初めてクリニック連れて行ってもらえるという話を聞いて、オート三輪の重要さを強く感じました。少しでも早くクリニックに連れて行くということは、妊産婦や子どもたちの命がかかったものであるのです。」

高校生の息子と同じ年の女の子が母親に

今回のガーナ視察は、竹村さんの長男も同行した。彼は16歳の高校1年生。最も印象に残ったのは、村の妊婦さんに話を聞いた際、ほとんどの方が15歳前後で初めての子どもを産んでいることだという。

オート三輪車の前で、現地の妊産婦や子ども達と
オート三輪車の前で、現地の妊産婦や子ども達と

「自分達が中学生として楽しんでいる年齢に、ガーナの村ではもう母になっている人が多いという現実に驚きました。しかも、そこから7人〜10人も出産している。話を聞いた女性の1人は、お金は全てパートナーの男性が握っているため、最低限の買い物ですら彼にお願いしないと買うことができないという話もしていました。その女性は、買い物をする楽しみもなく、ただ村の中で子育てをするだけだという人生。少し寂しそうな目をしていたことが印象に残っています。(啓太さん)」

竹村さん親子は、性に関することも比較的オープンに話してきたというものの、このような話をする機会は今までなかった。

「村の保健所では、家族計画(Family planning)や避妊という言葉が当たり前のように書かれていました。日本ではあまり話題にならない話ですが、男性にNOと言えないこの地域では、女性が生きていくために必要な知識で、当たり前に話されることなのだと言うことを、息子もなんとなくは理解したようです。避妊や性感染症の話も出ていましたし、彼にとっても貴重な機会だったと思います。(真紀子さん)」

舗装された平坦な道は少なく、ほとんどが赤土のデコボコ道。車は大きな穴を避けながら、ガタンガタンと揺れながら、ゆっくり進む。それでも、乾季にあたる今の時期は最も移動しやすいのだという。雨季だと地面はドロドロ、水が溜まっていたら車では行くことができない。もし夜だったら、さらに危険だ。いく産気づくかは選べないのに、その時期によってはさらに命懸けの出産となる。

今回、ジョイセフのクラウドファンデイングで寄付されたオート三輪車は2台。2つの地域に1台ずつ送り、そこの妊産婦や乳幼児が医療施設に行く際に使うことができる。徒歩ではとても行けない距離だが、オート三輪車が出来たことで母子だけでも移動できるようになった。出産時に救急搬送された母子もいたという。

日本の子ども達の思いがたくさん詰まったオート三輪車。

「数年後には、この地域中に'Little Ambassadors'のロゴが入ったオート三輪車を走らせたい。現地を視察して、その気持ちは強くなりました。これから、さらなる寄付やプロジェクトを他のLittle Ambassadorsの仲間と企画して、活動することを考えています。(啓太さん)」

TVディレクター、ライター

早稲田大学卒業後、テレビ局入社。報道情報番組やドキュメンタリー番組でディレクターを務める。2008年に第一子出産後、児童虐待・保育問題・周産期医療・不妊医療などを母親の視点で報道。2013年より海外在住。海外育児や国際バカロレア教育についても、東京と海外を行き来しながら取材を続ける。テレビ番組や東洋経済オンラインなどの媒体で取材・執筆するほか、日経DUALにて「働くママ1000人インタビュー」などを連載中。働く母たちが集まる場「Workingmama party」「Women’s Lounge」 主宰。Global Moms Network コアメンバー。

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