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異文化に寛容な社会に!英語だけではない次世代に必要な教育とは

藤村美里TVディレクター、ライター
公立小学校への出張授業。様々な国籍のスタッフと異文化について英語で学ぶ

早稲田大学の現役大学生でありながら、Culmony(カルモニー)という会社を経営する岩澤直美さん。彼女自身が日本とチェコのハーフで、多様な環境で育ってきた経験を持つ。

「日本は素晴らしい国だけれど、いわゆる日本人ではない人や異文化に対してまだ寛容ではない雰囲気がありますよね。今までは、海外の要人と交渉したり、海外に駐在したりするのは一部のエリート層だったかもしれませんが、これからは日本から出なくても外国人と仕事や生活を共にする時代になります。スキルとしての英語はもちろん、異文化を理解して共存していける力も今より必要になるはずです。」

「グローバル教育」 ≠「英語教育」

新宿御苑近くにある彼女たちが運営するスクールは、普通の英会話教室とは違う。

国旗カルタで遊びながら、その国の文化や言葉を学ぶ。地球儀や世界地図で場所も確認。
国旗カルタで遊びながら、その国の文化や言葉を学ぶ。地球儀や世界地図で場所も確認。

「多様性に寛容な、違いを愛する人」を育てることを目標とし、テーマの導入・内容理解は英語で、その後は日本語も使いながらディスカッションすることで理解を深め、最終的な発表は英語で行う。幼稚園生から中学生まで通っているが、主に小学校低学年の子ども達に人気で、最近では送迎サービスも実施。学童保育の代わりに来ている児童もいるという。

「ある日のテーマは、唾を吐くというケニアに住む民族の挨拶について。汚いイメージがあるけれど、その行為にどんな意味があるのか?どんな説明をすればお互いに無理をすることなく、理解し合えるのか?問題解決のために、とことん話し合います。日本では、グローバル教育=英語教育になりがちですが、真のグローバル教育とは、人種や文化、国籍、習慣などの多様性を尊重し、異文化間におけるコミュニケーションの力を身につける教育です。私も含めてスタッフの出身国や国籍、文化や宗教はバラバラ。世界の様々な文化とコミュニケーションを学ぶことで、多様な価値観への興味関心を引き出しながら、自分らしさを表現する力を身につけます。従来の英語教育だけではない、異文化理解を目的としたアクティブラーニングを導入し、国際舞台で活躍できる人材育成を目指しています。」

世界中の全ての文化を完璧に理解することなんて無理なのだから、どれだけ寛容に受け入れることができるかが大切だと話す岩澤さん。

彼女たちの考えは時代のニーズとも合っているようで、今年9月に東京・青海にオープンしたTokyo Global Gatewayという英語体験施設にも関わっている。

ここは、英語で注文したり、商品を買ったりと日常生活を体験することはもちろん、プログラミングやフラダンス、サッカーなども英語で学び、異文化の中で英語を使う経験ができる場所。平日は主に校外授業などの来る学生、週末は個人での利用者が多いという。

最近、低学年の子どもを連れて利用した母親は、スタッフが多国籍だったことがとても良かったと話していた。今はどこの大都市でも様々な人種の人が働いている。そのリアルな状況を再現できているというのだ。

「週末は、帰国子女などで英語が得意という子も来ますが、平日は学校の行事として来る子ども達ですから、英語を話すことに慣れていないという子がほとんど。子どもの吸収は早いですが、英語を聞くことはできても、自分の言葉で話すというアウトプットは簡単ではありません。スタッフ達も『どこから来たの?』以外に何を話すか、たくさん英語を使ってもらうには何をすれば良いのか、相談しながら頑張っています。」

1年間かけて色々な国の教育や多文化共生のあり方を観察

実は、岩澤さんがCulmonyを設立して活動を始めたのは5年前。海外の多文化共生と教育のあり方について知るため、去年は様々な国の教育を実際に見てきたという。

様々な国籍のスタッフと都内の公立小学校で出張授業を実施。希望者のみ参加型にした場合は、3・4年生の参加が多いという
様々な国籍のスタッフと都内の公立小学校で出張授業を実施。希望者のみ参加型にした場合は、3・4年生の参加が多いという

北中米、アフリカ、アジアなどにも足を運びながら、イエナプランで有名なオランダなど欧州の教育先進国を訪問。

英国で出会ったのは、LGBT教育の出張授業を行う民間団体。公立小学校でLGBTについての授業を実施していたという。

オランダのように、教育バウチャーを使うことで公立・私立どちらの教育も選べるというのは理想的だが、予算も大きくなるし、簡単なことではない。国の教育政策を大きく変えるためには時間がかかるが、民間団体の出張授業を受け入れるという形式なら、各自治体や学校長の判断で実施できる。これは日本でも同じことだ。

「新しいことを学ぶことに抵抗がなく、英語の吸収も早い小学生を対象に、日本の公立小学校でも出張授業をやりたい。」

これが海外を回った岩澤さんが出した結論だった。

小学校の授業で「こども多文化親善大使育成プログラム」を実施

ラグビーW杯、東京オリンピック、そして大阪での万博博覧会。

大きな国際イベントが続き、外国人観光客も増加。外国人と出会う機会は格段に多くなった。

「英語の家庭教師を派遣していた時期もありましたが、そういう会社は他にもあるので、私たちにしか出来ないことをやりたい。それに、海外からどんどん人が入ってくる時代ですから、ボトムアップが必要です。短い時間で吸収し、変わっていくことができる年齢の子どもたちを対象に、小学校に出張授業を行うという形式が一番良いという結論に至りました。まだ価値観が形成される途中の段階ですし、この国が嫌いとかいう先入観や偏見も少ないため、文化の違いをリスペクトしていくという授業も入りやすくなります。導入と発表は英語でやりますし、外国語学習の時間などを1コマいただいて実施することが多いですね。オリンピックも万博も、国内にいながら外国人と交流するチャンスでもあります。目の前の人はどういう人で、何に興味があって、何が食べれないのか。相手のことを理解した上で、適切な交流や『おもてなし』を考えることが必要です。みんな違って当たり前ですし、世界中の全ての文化を理解するのは無理ですから。」

この出張授業の名称が「こども多文化親善大使育成プログラム」。英語の家庭教師を雇うようなハイクラスだけではなく、誰もが受けられるところでやりたいということで、公立の小学校を中心に広げていきたいという岩澤さん。国籍が違うスタッフ数人と行う出張授業は、現時点ではほとんどが実費のみで利益は出ていない。

「最終的に、日本の教育システムの中に取り入れてもらって、出張授業をする必要がなくなることが一番いいと思っています。英語での異文化コミュニケーションについて学ぶ機会があればいいんです。会社を大きくしたいわけではないので、むしろ私たちが必要なくなることが理想なのかもしれません(笑)」

TVディレクター、ライター

早稲田大学卒業後、テレビ局入社。報道情報番組やドキュメンタリー番組でディレクターを務める。2008年に第一子出産後、児童虐待・保育問題・周産期医療・不妊医療などを母親の視点で報道。2013年より海外在住。海外育児や国際バカロレア教育についても、東京と海外を行き来しながら取材を続ける。テレビ番組や東洋経済オンラインなどの媒体で取材・執筆するほか、日経DUALにて「働くママ1000人インタビュー」などを連載中。働く母たちが集まる場「Workingmama party」「Women’s Lounge」 主宰。Global Moms Network コアメンバー。

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