批判拡大

 東京医大の女子減点疑惑への批判が拡大している。東京医大前ではデモが行われた。世界中に報道され、「日本の恥」をさらした。

 そして問題は東京医大だけでなく、医学部全体にあることも指摘されはじめている。

 前回記事に書いた通り、医学部が「若い男性」を欲しており、医学部が女性だけでなく年齢の高い者も望ましくないと思っていることも明らかになりつつある。

 中山祐次郎医師は、この問題の本質が、医師の労働環境にあると鮮やかに喝破している。

 女性医師からも様々な声が出ている。

 ここ数年の#MeToo運動の流れは医療現場にも来ていた。

 「公然の秘密」「都市伝説」だった女子差別が公になった。#MeToo運動ともあわさり、これを機に徹底的な議論をし、医療現場を変える機会にしなければならないと切に思う。

患者さんの「本音」は?

 医療現場が著しい男性優位の職場であることは、上記の多数の記事が指摘するとおりだが、これらの記事ではあまり触れられていないことがある。

 それは、患者さんの意識だ。

 読者の皆さんは病院を受診したとき、担当医が女性だと「頼りないなあ」とか「不安だなあ」と思ったことはないだろうか。

 また、女性の医師を看護師と間違えたことはないだろうか。逆に男性看護師を見て違和感を感じたことはないだろうか。

 もしこうしたことを思ったとしたら、皆さんは医師は男性、看護師は女性という先入観を持っているということになる。

 もう一つ、あまり触れられていないことがある。女性医師も含めた医師が働きやすい環境を作るための「医師の働き方改革」を患者さんや家族がどう思うかということだ。

 厚生労働省の医師の働き方改革に関する検討会は、以下のような取り組みを行うべきとしている。

各医療機関の置かれた状況に応じた医師の労働時間短縮に向けた取組として、

○ 勤務時間外に緊急でない患者の病状説明等の対応を行わないこと

○ 当直明けの勤務負担の緩和(連続勤務時間数を考慮した退勤時刻の設定)

○ 勤務間インターバルや完全休日の設定

○ 複数主治医制の導入

など各医療機関・診療科の特性を踏まえた取組を積極的に検討し、導入するよう努める。

出典:厚生労働省 医師の働き方改革に関する検討会 医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組

 こうした取り組みは少しずつ広がっている。

 医療は患者さんがいるから仕事が発生する。病気やケガは24時間365日発生するので、今病院やってないから明日にしてください、とは言いにくい。こんななか、皆さんは上であげたような取組を行うことを理解いただけるだろうか。

 主治医が患者さんに責任を持ち、昼夜問わず治療にあたる。こうしたことはある種の美学として語られてきた。

 医師の働き方改革では、これが医師の長時間労働をもたらしているとして、「複数主治医制」を導入しようとしている。

 しかし…

「ぼくは一度診ました。時間なので、帰ります」

 担当医なら残って様子を見るのが当然と考え、Dさん自身もそうしてきた。朝7時に出勤し、退勤は日付をまたぐことがほとんど。「この医師には当直を任せられない」と、自ら残業を買って出たこともある。

「人の体は、予定表通りには動かないものなのに」と、Dさんは嘆く。

出典:それでも医師になる 現役545人アンケートで見えた格差

 「担当医なら残るのが当然」

 その言葉に違和感を感じる人は少ないだろう。上の引用の中の医師は、医師としての責任感の欠如。患者のことを思っておらず、自分ばかり優先している。患者としても担当医にずっと治療してほしい…

 しかし、もしこの言葉に違和感を感じなかったとしたら、複数主治医制などできない。

 メディアでも、「主治医がコロコロ変わる」と批判的な記事が出ている。

 一部の病院では、医師の長時間労働是正のために様々な取り組みが行われている。しかし…

夜間、救急患者に対応する医師の数を減らし、土曜日に開設する診療科も削減しました。

これまで患者の家族の求めに応じて行っていた手術などの説明も夜間は取りやめました。

これに対し、「これまでどおり対応してほしい」といった意見が寄せられているといいますが、病院は医師の労働時間を短縮するためだとして理解を求めています。

出典:「どう進める 医師の働き方改革」(時論公論)

 「これまでどおり対応してほしい」というのは、患者さんにとっては当然ではある。めったに起きない病気やケガに遭遇したときに、すぐに何とかしてほしいと思うのは当然だ。土曜に病院が開いているととても便利だ。

 だとすると、複数主治医制などの医師の働き方改革を行うと同時に、「これまで通り対応する」システムを作ることができるのかがポイントになる。

「早い」「安い」「うまい」は並立できない

 それは無理だ。

 24時間365日一人の主治医が皆さんを診察、治療すればその医師は過労死するか、さもなくば疲労で医療ミスをするだろう。

 複数主治医制にすれば、「医者がコロコロ変わる」という気持ちを抑えてもらわなければならない。そして、夜間や土日の説明などが受けられないといった不利益も甘受しなければならない。

 主治医が交代制で24時間365日絶え間なく対応するとすれば、医師を増やさなければならない。それには多額のお金がかかるだろう。

 つまり、牛丼とは違って、医療では「早い」(24時間365日の均質な医療提供)、「安い」(医療費を抑えること)、「うまい」(患者さんが望む医療の提供)を並立することはできない。どこかを優先させれば、どこかが犠牲になるのだ。

 東京医大の女子差別の背景には、「男性の主治医が昼夜問わず付きっ切りになって診てくれる」ことを望む人々の願望を、医療現場が「忖度」しているという現状があるのだ。

つまり、この問題は単なる入試における差別ではなく、医療機関の人事制度から医師の適正人数の問題までも含めた全体的な問題なのです。要するに文科省マターではなく、厚労省はもとよりオールジャパンで取り組むべき喫緊の課題だということが言えます。

出典:医学部入試における女性差別、改革は待ったなしの課題(冷泉彰彦氏)

 オールジャパンのなかには、皆さんも含まれるのだ。「患者改革」が今求められている。

日本の医療は「国民皆保険」制度のもと受診する医療機関を自由に選択できる「フリーアクセス」が最大の特徴です。

低い窓口負担がいつでもどこでも診てもらえるいわゆる「コンビニ受診」につながっているという指摘もあります。便利さの追求が医師の長時間労働や医療現場の疲弊を招いていることにも目を向けなければなりません。

出典:「どう進める 医師の働き方改革」(時論公論)

 そもそも、私たちが望んでいる24時間365日のコンビニエンス医療は、もしかしたらいらないのかもしれない。

 最後に書いておきたいが、悪いのは東京医大だけではない、医学部も医療界も悪い、そして国民にも問題がある、ということで、問題を拡散させ、東京医大の責任を軽減させようという意図でこの記事を書いたわけではない。「一億総懺悔」では誰も反省しない。

 医療関係者を中心に、それぞれがこの問題に当事者意識を持って、今日から行動していきたい。