Yahoo!ニュース

わいせつ教員の半数がSNS活用、「だからテクノロジーは危険」と考える人の誤り

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 10月11日、讀賣新聞オンラインに「懲戒処分のわいせつ教員、半数がSNS悪用…教え子を誘う・好意伝える」と題する記事が掲載された。

 記事によれば、2019年度までの5年間、教え子へのわいせつ行為などで懲戒処分を受けた公立学校教員496人のうち、少なくとも241人が、被害生徒らとSNSなどで私的なやりとりをしていたようだ。実際のところ「事務連絡」の手段として、SNSは学校現場で広く使われている。このSNSを、懲戒処分を受けた教員たちは、教え子との「私的なやりとり」に活用していたようである。

 兵庫県立大学の竹内和雄准教授は「私的な利用を防ぐには、業務専用のアカウントを設け、ほかの教員や保護者が内容をチェックできるようにするなどの仕組みが必要だろう」と述べる。たしかにそうなのだが、学校が特別に設けたSNSで不適切な書き込みがあった場合、保護者などから「お叱り」を受けるのは、学校側や教員となるであろう。そのため学校は、独自のSNS導入にためらいを覚え、ひいてはSNS活用を禁止するのである。

 実際のところ、現在の学校現場には、SNSを活用したいシーンは多くある。どのように対策を講じるべきかを、改めて考えることにしたい。

SNSは危険なのか

 ところで、この記事を読むと、少なからぬ人がSNSは危険だという結論を下すことであろう。しかしながら、悪いのはわいせつ教員であって、SNSではない。悪いことを考える輩は、たとえSNSがなかったとしても、悪いことをするのである。むしろSNSには証拠が残るのだから、悪事の発見に寄与しているということもできよう。

 ここでは、DHMOや「パンは危険な食べ物」というジョークもまた、思い起こされる。後者を例とすれば、例えばアメリカでは、なんと犯罪者の98%が、パンを食べている。また、パンを日常的に食べて育った子供のおよそ半数は、テストが平均点以下である。しかも、暴力的犯罪の90%は、パンを食べてから24時間以内に起きている。それから、新生児にパンを与えると、喉をつまらせて苦しがる。さらには、パンを食べている人の死亡率は100%である。これらの現実を踏まえれば、パンは危険な食べ物だということができる。

 日本人向けに、米と言い換えても、まったく同じ結論が導き出されよう。つまり、米があるから犯罪者や喉を詰まらせる新生児が生まれるのではなく、犯罪者が存在し、新生児に米を与えるような愚行をおかす大人がいるから、大変な事態が生じるのである。もっといえば、新生児の喉を詰まらす手段は、パンであろうと米であろうと、関係ない。口頭でも電話でも、はたまたSNSであろうとも、教え子を呼び出すことは可能なのである。

 ようするに、SNSが危険だというのは、SNSを危険だと言いたい人が、そう言っているに過ぎないのである。これはSNSのみならず、AIやロボットなどのテクノロジーに関しても、同じことがいえる。切れ味するどい包丁は、料理人が美味しい料理をつくるために存在するはずだが、邪な心をもつ人の手に渡れば、無差別殺人の道具にも変わってしまうのである。

 しかるに、だから包丁を持ち歩くことは、銃刀法で禁止されている。同様に、新興テクノロジーに関しても、しかるべき規則のもと、活用シーンを限定して、適切に用いることが必要とされる。そのルール化ができない人びとが、AIやロボット、あるいはSNSは危険だといって、大騒ぎするのである。つまりそれは、無知が招く愚行であって、新生児にパンを与えて苦しませ、パンは危険だと訴えるような行為と、性質上なんら変わりないのである。

 業務専用のアカウントを設けたとて、日常的に用いることのできるLINEなどのSNSは、すでに一般に普及している。わいせつ教員などは、業務用SNSを設けても、どうせLINEを活用して、わいせつなことをするのである。そうであれば、SNS利用と教員のわいせつ行為とは、分けて考える必要がある。反対に、業務用のSNSのみを使うようにし、それ以外を使った場合は処分するなどのルールを定めたほうが、真っ当な教員のためにもなる。

不適切書き込みをAIでチェック

 学校現場では、円滑な事務連絡や学外活動などのために、SNSを活用したい。とはいえ、いじめにつながる書き込みや、性的な書き込みがあった場合、学校の指導が足りないと非難される恐れが生じる。それに、教員がSNSの書き込みをすべてチェックするなどしていたら、時間がいくらあっても足りない。どうすればよいのか。

 いつものように、そこで出てくるのが、AIである。三菱総研DCSは、ベネッセコーポレーションの掲示板投稿監視業務の効率化に際して、AIを用いた実証実験を行っている。ベネッセが運営する「進研ゼミ小学講座」の会員向け掲示板では、ふさわしくない投稿の有無を確認する業務があるが、そこにAI技術を導入し、業務効率化を目指すのである。掲示板への投稿内容が不適切ではないことを、自然言語処理にて判定する実験である。

 これを、学校向けに導入する統合的なSNSのプラットフォームで活用できれば、随分と現場の教員の助けになる。いまのところは実証実験であるが、開発が進んでいった際には、学校現場にも入れてほしいと思っている。あるいは、試験的に活用してくれる私立などの学校があれば、より早く完成へと近づくであろう。

 重要なのは、小学生の不適切な書き込みと、中学生の不適切な書き込みは異なることだ。だからAIには、年代別の様々な投稿データを学習させることができれば、より広いシーンで活用できるようになる。あとは文科省や教育委員会などが、教育のために活用すると宣言してくれれば、それでお仕舞いである。結局のところ、新興テクノロジーを有効活用できるか否かは、誰が責任をもつかにかかっているのである。

 再び問いたい。テクノロジーは危険なのか。悪事をなすのは、いつだって人間である。テクノロジーは、人間の善悪による意思を実現するための、手段に過ぎない。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

遠藤司の最近の記事