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公立高校の43.1%が定員割れ それでも文科省はネット学習を整備しないのか

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

 11月28日、NHK NEWS WEBに「全国の公立高校 40%超が定員割れ 教育の質に影響も」と題する記事が掲載された。

 2019年4月時点で、全国の全日制公立高校3330校のうち、43.1%にあたる1437校が、定員割れという状況だ。主な理由は少子化であり、文科省によれば中学卒業生の数はこの30年で、半数近くにまで減少している。そのため全国の公立高校は統廃合を続けており、30年前の4183校から3550校と、633校も減っている。

 いうまでもなく、地域住民の反対の声は上がっている。統廃合をすることで、通学の時間は増えるし、豪雪地帯では子供たちの安全性にも疑問が残る。とはいえ、一定数の子供がいない状況では、統廃合の動きは今後も進んでいくだろう。

 満足のいく教育が受けられない子供が出てくるのは、日本の将来にとってよいことではない。ましてや、向学心の強い子供たちの教育機会が奪われてしまうようでは、公平な国とは言えないだろう。この問題を解決する方法はひとつ。かねて筆者が主張してきたように、インターネット学習環境を整備することである。

教育格差を是正する

 インターネット学習を強化することで、様々な問題が解消される。

 まず、過疎地域における子供たちの都会への流出である。勉強熱心な子供は、より高度な教育を受けられる学校に行くために、地元を離れようとする。基本的に学校教育は、落ちこぼれをつくらないために、学習スピードが遅い子供に合わせようとする。そのため、より難度の高い教育を受けたいと思っている子供は、不満を抱えることになる。

 同じ教室に、習熟レベルの違う子供を押し込むこと自体、はじめから無理があるのだ。したがってそういう子供は、塾に通うしかない。だが、それも過疎レベルの地方では、どうしても限界がある。よって彼らは、都会に出るしかなくなるのだ。過疎化はますます進んでいく。

 生活にゆとりのある家庭はよい。全寮制の学校に行けるのだから。だが、貧しい家庭の子供はどうなるのか。否むしろ、田舎ほど賃金が安いのだから、教育に高いコストをかける余裕はない。それなのに日本では、奨学金制度も整っているとはいいがたい。教育コストがかさむ昨今、一人の子供に充分な教育を受けさせるには、何人も子供を産むことはできない。少子化が進むのは、こういう事情によるのだ。

 ほかにも、様々な事情で教育を受けられない子供たちがいる。例えば、近年深刻化している、引きこもりの子供だ。よく言われるように、一度レールから外れてしまった場合、わが国では這い上がることが難しい。再チャレンジのためにも、家庭で高度な教育を受けられる環境を整えるべきである。

 また、通学が困難な身体障害者にも、よりよい学習の機会が与えられる。彼らは、ただ健常者よりも身体が動かないというだけだ。彼らの望むかぎり、最高の学習環境を整えようではないか。人の可能性を引き出すことが教育であるというのなら、障害のある子供たちに公平な教育を施すことこそ、教育の真髄であるといえよう。

 インターネット学習で育った障害者は、どうすればよりよい教育ができるかを知っている。インターネット学習の不便さを知り、具体的な改善点を考え、実行に移すことができる。したがって彼らは、インターネット学習における次なる教師の最有力候補だ。かくして障害者の就業も、ますます増加する。生きがいをもって働く機会を得ることができる。

 インターネット学習のよいところは、落ちこぼれができにくい点だ。インターネット学習は、動画と、対面による指導によって行われる。わからないことがあれば、過去の授業を繰り返しみることができる。それでもわからない場合、教師にアクセスして、質問することができる。足並みをそろえて卒業する必要はない。ちょっと人より理解が遅くとも、しっかりと学んで卒業して、社会で活躍できるようになったほうが、ずっとよいのだ。

大きな校舎はいらない

 学校教育には、社会化による人格の育成も含まれる。

 しかるに人格の育成は、なにも学校で行う必要はない。かつての社会では、その役割はむしろ、地域が担っていたはずだ。すなわち、地域の大人たちと接することで、社会で生きるための考え方や、道徳、常識などを身につけていった。よい大人に囲まれることで、夢や希望を胸に抱くことができる。育ててくれた郷土に愛情をもち、自分の手で守ろうと思うようになる。一人の人間としての自覚をもち、誇らしく生きることができるようになるのだ。

 だから、人格の育成には大きな校舎はいらない。それよりも、実際に社会のなかで活動し、他者と触れ合うことによって、人の心を育成していったほうがよい。インターネット学習であれば、時間のゆとりも増えるだろう。好きなときに学び、好きなときに人と接する。そういう学習環境が整えば、地域の衰退も食い止めることができる。

 夢物語だと思うだろうか。そうかもしれない。だが筆者は、何らかの事情によって成長の機会が得られない子供たちを、見捨てたくはないのだ。インターネット学習の充実によって、彼らが救われることを、心から願う。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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