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地元就職希望者はたったの49.8% 地方は若者の生きがい創出で回復する

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

 5月28日、マイナビは「2020年卒マイナビ大学生Uターン・地元就職に関する調査」の結果を発表した。

 大学生の地元就職希望率は、全国平均で49.8%。同調査を開始した2012年卒以来はじめて半数を下回る結果となったようだ。忘れてはならないのは、この数字には東京、名古屋、大阪などの大都市圏も含まれている点だ。地方だけの数字であれば、さらに低くなる。

 全国平均をとっても仕方ないと思ったので、都道府県別のランキングを作成してみた。筆者の大学のある三重県は、ワースト5位にランクしている。

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 調査によれば、地元外の進学者のうち、地元企業への就職活動で最も障害に感じることは、地元までの交通費である(26.0%)。その後は、地元までの距離・時間(14.4%)、やりたい仕事がない(13.3%)、地元企業の数が少ない(10.8%)、地元企業の情報不足(6.2%)と並ぶ(一つだけ回答)。

 交通費、距離、情報不足の問題は、都市部での採用活動やインターネットを用いた面談などを行えば済むことである。だが問題は、やりたい仕事がないこと、地元企業の数が少ないことだ。質問が分かれているため少なく見えるが、実際にはこれらは同じ問題について答えている。合計すると、実に24.1%。「就職活動の障害」についての質問にもかかわらず、最上位に並ぶ割合となる。

 実際に、地元就職を「希望しない」と答えた学生に対し、実現すれば地元就職するかもしれないものを選択させたところ、働きたいと思うような企業が多くできることが43.9%にものぼった。その後は、給料がよい就職先が多くできる(39.6%)、志望する企業の支社や研究所ができる(26.6%)、志望する職種に就けるようになる(24.4%)、地元の経済が活性化する(21.8%)と続いている(複数回答)。

若者の雇用を生み出す

 もうお分かりだろう。若者が地元に戻らない主な理由は、働く場所がないからだ。

 「何を当たり前のことを」と思う人もいるかもしれない。しかし、かねて行われてきた地域活性化ないし地方創生は、若者の雇用を生み出してはこなかった。砂漠に水をぶちまけるかの如く、地域貢献を旗印に美辞麗句を並べ立て、ごまかしの施策を繰り返してきたのが実情である。

 地域活性化は、地域経済の活性化に集中すべきなのだ。それ以外の目的など、すべて嘘事として棄て去ったほうがよい。いまの日本には無駄なお金を使う余裕など、どこにもない。地域が自助努力で発展を遂げるのでなければ、日本全国が共倒れになるだけである。若者が未来を創るのだから、若者のための雇用を創出しなければ、地域は衰退する。よって地域活性化は、若者にとって魅力的な仕事の創出を目指すものでなければならない。

 内閣府の「子供・若者白書」によれば、若者が仕事をする目的(2つまで回答)は、「収入を得るため」が84.6%と突出して多い。それから「仕事を通して達成感や生きがいを得るため」が15.8%、「自分の能力を発揮するため」が15.7%、「働くのがあたりまえだから」が14.8%、「人の役に立つため」が13.6%である。しかるに、仕事は飯を食うために行われるに決まっている。そうであれば地域は、一定の収入が継続的に得られることは前提とし、なおかつ達成感や生きがいを得るための、若者自身の能力で人の役に立つ仕事を創出することに専念すべきである。

 そういう仕事は、現在の地元企業には少ない。だから若者たちは、働きたいと思うような企業がないと言っているのだ。だとすれば、政府の行うべきことは、若者たちの地元での起業の全面的な支援である。つまり、地元で起業しやすい環境を整え、ビジネスを創出する方法を学習する機会を充実させることである。

甘やかしは逆効果

 こう言うと地方の人たちは、だからもっと補助金をよこせ、という話を始めようとする。しかし、他人からの施しで生活しようという人たちのなかに、起業に成功する人はまずいない。まずもって起業家精神が育たないし、お金がないなりに工夫をする姿勢がなければ、他のビジネスとの差異は生じないからである。魚を与えられれば、魚を獲る方法は学ばなくなる。また、安定して魚を獲る仕組みを考えることもなくなる。

 とはいえ、減税は重要だ。若者が勇気をもって起業しようというのだから、できる限り足かせを外してやることである。ドラッカーの言葉で言えば「六歳の子供に完全装備をさせて20マイルの行軍訓練を行わせる者はいない」(『企業とは何か』)。大人のように歩けるようになってから、徐々に重い荷物をもたせるような税制を整える必要がある。さもなければ若者は、安定した企業にいたほうが無難だと思うようになる。

 ようするに、甘えはさせても、甘やかしはしないことだ。大人が余計な手出しをすれば、子供はいつまでも自立することができない。甘えは、安心して自ら行動するために効果を発揮する。しかし甘やかしは、人の行動しようという意欲まで減退させてしまう。失敗してもなお立ち上がり、成功に向けて歩み続ける者しか、大成することはできない。

 内村鑑三の『代表的日本人』のなかに、二宮尊徳の言葉がある。二宮は藩主から、荒廃した村の復興を依頼された。数か月の間、村民とともに過ごし、彼らの生活ぶりを注意深く観察した彼は、次のように藩主に報告したという。

「金銭を下付したり、税を免除する方法では、この困窮を救えないでしょう。まことに救済する秘訣は、彼らに与える金銭的援助をことごとく断ち切ることです。かような援助は、貪欲と怠け癖を引き起こし、しばしば人々の間に争いを起こすもとです。荒地は荒地自身のもつ資力によって開発されなければならず、貧困は自力で立ち直らせなくてはなりません。」

 若者たちは、自分の力を発揮して、かっこよく生きたいのだ。自分らしく、生きがいのある人生を送りたいのだ。地元がそういう自分になるための場所であれば、若者も地元に戻ってくるはずである。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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